転換期の農業に求められる人材とは 人手不足解消への手立て

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転換期の農業に求められる人材とは 人手不足解消への手立て

連載企画:農業経営のヒント

転換期の農業に求められる人材とは 人手不足解消への手立て
最終更新日:2020年11月10日

高齢農家の引退が増えており、担い手の確保が必要だ――。筆者を含め、農業に関する記事の多くは、ずっとこのフレーズを使い続けてきた。裏を返せばそれは、担い手不足がいまも深刻であることを示す。では農業はどんな人材を必要としているのか。これまでの取材を踏まえ、考えてみた。

「農業は閉鎖的」と言うのはアンフェア

新規就農について語るとき、よく「農業の閉鎖性」ということが言われる。農村社会の閉鎖性と言い換えてもいい。他の地域から来て就農した人が感じる、地域に溶け込む難しさのことだ。営農から近所付き合いまで、地域の一員として認めてもらうためのハードルの高さを感じる人は少なくない。
だがはたしてそれは、農業だけに言えることだろうか。

最近は、ある企業の従業員の多くが、ほかの会社で経験を積んだ転職組というケースも珍しくなくなった。とくにベンチャー企業などではごく当たり前のことだろう。雇用の流動化はかつてと比べ、着実に進みつつある。
だが「大手」と言われるような企業の多くは、中途採用ではなく、生え抜きが社員のほとんどを占める状態がずっと続いてきた。働き手の確保を、新卒の採用に頼ってきたのはその象徴だ。

農村は閉鎖的と言われるが

農村は閉鎖的と言われるが

「失われた30年」などと言われた平成時代を通して雇用慣行が変わり、ほかで専門的なスキルを積んだ人材が求められることが格段に増えた。背景には、これまでのやり方が通じなくなったことへの危機感がある。

農業に必要な人材がテーマの記事を、他産業の話から書き始めたのは、「農業は閉鎖的」という言い方はアンフェアだと思ってきたからだ。新卒ばかりで固めてきた企業組織も、生き残りをかけて変わろうとしている。同じように担い手不足に直面する農業も、新たな人材を求めている。そしていずれの場合も、別の組織や地域から新たに加わる人は、新天地の事情を理解するなど溶け込むための努力が必要になるだろう。

ここまでは、農業について公平に語るための前置きだ。それを踏まえて話を先に進めると、農業には解決しなければならない大きな課題がある。組織運営だ。事業規模を大きくするために従業員を雇い、法人化した農家は多くある。だがそれは、組織的な運営の第一歩に過ぎない。

農業法人の経営、なぜ引き継ぎがうまくいかないのか

知人の40代の農家で、数年前にやっと経営を切り盛りするようになった人がいる。それまでは祖父がすべてを決めていた。父親が農業にあまり熱心でないため、一代飛ばして彼が営農を采配するようになった。そうでなければ、彼が経営の前面に立つのはずっと先のことになっていただろう。
問題は家族の中で経営をバトンタッチする難しさを、法人化した後も抱え込んだままでいる例が多い点にある。農林水産省は法人化を後押ししてきたが、政策だけでは解決できない難題だ。

息子が一定の年齢になったので、農業法人の社長の座を譲って会長に退くケースがある。将来を考えれば、早く経営手腕を身につけてもらったほうがいいと考えるからだ。ここまでなら、理想的と言えなくもないだろう。

よくあるのは、自分は会長になったはずなのに、社長である息子をさしおいて社員に指示を出し続けてしまう例だ。いったいどちらの指示に従えばいいのか。社員たちは当然そう戸惑う。息子をサポートするため、よかれと思ってやっているのだろうが、長期的にはマイナスの影響のほうが大きい。

農水省は法人化を推進してきた

農水省は農家の法人化を推進してきた

原因は歴史の浅さにある。経営者の多くは、自らの努力で一代で事業を大きくしてきた。だが拡大した経営のバトンを渡すのは未知の経験。組織にとってそれは混乱のもとになる。事業承継の難しさは他産業にもあるが、組織が小さく、経営基盤の弱い農業法人はリスクがその分大きくなる。

これは農業経営が家業から脱するために乗り越えなければならないハードルの一つに過ぎない。ほかにも社員が長年にわたって働くことのできるキャリアプランの確立など、取り組むべき課題はさまざまにある。それらに向き合い、仕組みを整えている農業法人もあるが、まだ少数派だ。
高齢農家のリタイアの加速は、閉鎖的と言われてきた農村の雰囲気を変え、新たな人材を呼び込むきっかけになっている。スタッフを必要とする農業法人は、非農家の出身者を雇用することでその受け皿になってきた。
だがその多くは、一般企業と同じような雇用環境を必ずしも整えていない。農業で必要とされる人材を考えるヒントはそこにあるように思う。

農業経営に役立つ他産業での経験

いったいどんな人材が求められるのか。現時点で言えば、「独立して就農することを目指す人」が答えになると思う。農業法人はその準備をするための受け皿になる。1~2年後の独立を前提に、栽培技術を覚えるために研修に入る。もう少し働いて、経営について広く学んでから独立するのもいいだろう。

重要なのは、独立すれば経営者になるという点だ。「自然が好きだから栽培したい」というノリでは経営は成り立ちにくい。それは規模の大小とは関係ない。設備投資や資金管理などさまざまな戦略を練る必要があるからだ。

その際に武器になると思うのが、他産業で働いた経験だ。これまで取材で会った農業経営者には、銀行やアパレル会社、コンサルティング会社、農協などで働いた後、農業を志すようになり、就農した人がいる。彼らは営業や商品企画など会社員時代に培ったノウハウを農業経営にいかしている。

農業法人での研修が就農への道筋になる

農業法人での研修が就農への道筋になる

いずれ就農することを視野に入れ、まず別の勤め先を選んだ人もいる。青果物卸や農業関連の金融機関などだ。経営にいかせる知識を得るためだが、そこまで長期的に就農までの計画を立て、実行できる人は限られるだろう。

その点、最近の学生なら卒業までにできることがたくさんある。クラウドファンディングの組成や起業への参加などを通し、実際のビジネスに関わっておくことだ。そこで得た知見は、農業経営にきっと役に立つ。
しかも肝心なのは、他産業を含めて何かしらの仕事についた経験は、研修先を選ぶ際もプラスに働くという点だ。どの品目に将来性があるのか。どこで研修を受ければ、優れた経営手法を学ぶことができるのか。研修先を選ぶ時点で、営農のかなりの部分が決まる。社会経験はそれを見定める目を養う。

一方、卒業後に家業を継ぐ形で就農し、事業を飛躍させた人もいる。ただ彼らの多くも、農家同士の付き合いにとどまらず、地域の中小企業家たちと積極的に交わることで、経営のコツを吸収してきた。品目の選定や販路のつくり方など、同じ経営者として交流することで得られる刺激は多い。

育てた人材を失わない手立て

以上の内容は、農業収入で生計を成り立たせることを前提にまとめた。そのほかにも夫婦共働きで一人は農業以外の仕事に就き、家計を支え合うというパターンもある。その場合は農業で得る所得はそれほど多くなくてすむかもしれないが、営農を続けるにはやはり一定の経営センスは要るだろう。

ところで、「独立を視野に農業法人で働く」ことは、法人の側からすればせっかく育てた人材を失うことを意味する。ここで打てる手は二つある。一つは、独立した社員も同じ生産者グループの一員として関係を維持し、事業を大きくすることだ。そのためには安定した販路を築き、独立した社員の農産物の販売を代行できるようにしておくことなどが必要になる。

もう一つは、そもそも社員がずっと働きたいと思えるような環境を整えることだ。休日の確保は当然。社員が家族を養い、子供の教育費に将来困らないような昇給の仕組みをつくり、実現することも欠かせない条件だ。
多くの農業法人はまだその途上にある。だからいま人材をつなぎ留めることができないかと言えば、必ずしもそんなことはない。社長が社員に一方的に指示を出すような関係ではなく、理念を共有し、一緒に事業を大きくしていけばいい。社員をたんなる作業員にしないことが大切だ。

そこで求められる人材は、経営について主体的に考えることのできる人だろう。農業法人は他産業で「大手」と言えるような規模にはないが、社員数が少ないだけに同じ目標に向かって進みやすいという利点がある。
日本の農業はいま大きな転換期にある。約束された未来をあてにするのではなく、変化の先にチャンスをつかむ。農業経営者と農業を目指す人にとってともに必要なのは、ベンチャー企業家的な資質ではないかと思う。

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農業経営のヒント
「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。

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