和牛肥育農家のムコは革命児! 畜産経営×6次化×SDGsの未来とは

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和牛肥育農家のムコは革命児! 畜産経営×6次化×SDGsの未来とは

連載企画:フリーランス農家の全国農場放浪記

和牛肥育農家のムコは革命児! 畜産経営×6次化×SDGsの未来とは
最終更新日:2020年11月16日

全国各地の農家を訪ねるフリーランス農家のコバマツです。今回私が訪れたのは北海道十勝平野の和牛肥育農家。なんと「夜の世界を経て農家の婿になり、畑作と和牛肥育と飲食店経営をしている」という松橋泰尋(まつはし・やすひろ)さんです。なぜ松橋さんはそのような人生の選択をしたのでしょうか。畑作と和牛と飲食店、この3つの事業を柱にしている松橋さんだからこそ成しえる循環型の農業モデルは、これからの農業や経済活動について見つめ直す機会となる興味深いものでした。

松橋さんが農家に婿入りしたわけ

今回コバマツがやってきたのは北海道、十勝平野にある更別(さらべつ)村。豆、麦、ビート、ジャガイモ等の畑作がさかんな地域です。見渡す限り農地が広がり、「スケールがでかい」という言葉がピッタリ。

そして、今回取材する農家さんはスケールがデカい和牛肥育農家さんです!

更別村風景果てしない大空と広い大地が広がるその中で

牛を連れた松橋さん登場牛を連れた松橋さん登場!

■松橋泰尋さんプロフィール

プロフィール写真  北海道江別(えべつ)市出身。飲食業を経て2010年の結婚を機に妻の実家を継ぎ、更別村にある松橋農場の4代目として新規就農。約40ヘクタールで畑作4品を生産し、肉牛の繁殖肥育を手掛ける。2014年に「農家バル FOOD BABY」を開業。「十勝の農と食を楽しむ」をコンセプトに自社の農場の牛肉はもちろん、十勝管内100件の生産者と提携し、地元の食を楽しむことができるお店作りも手掛けている。好きなアニメはワンピース。1983年生まれ。5児の父。

渋谷で夜の仕事、不動産、人材派遣等の事業を自分で手掛けたり、札幌の飲食店で働いたりといろいろな職業を経験してきた松橋さん。妻の涼子(りょうこ)さんと結婚前は「農業=大変そう」というイメージで、全くの人ごとだったそうです。

コバマツ

松橋さんはあまり農業と関わりのある経歴ではないんですね。農業を仕事にするって相当な覚悟や思いがないと踏み切れなかったのではと思うのですが……。どうしてわざわざ婿入りをして新規就農しようと思ったのでしょうか?
結納の両家顔合わせの席で義父が、「やっとこれで畑から引退できる」ってボソッとひとこと言ったんです(笑)。妻は三姉妹で義父には後継者がいなかったので。

松橋さん

コバマツ

結納の席で期待の言葉を投げかけられるとは! ガチじゃないですか。
僕の母も翌朝朝食の席で「あんた(婿に)いきなさい」って、ポーンって背中を押されて。あっさり。その結納の席のやりとりが、僕が農家の婿入りを考えるようになったきっかけです。

松橋さん

そんなおめでたい席での義父の言葉から、農家の道もありかもしれないと考え始めた松橋さん。そんなある日、松橋農場を訪れた際に妻の祖父が語ってくれた話を聞き、継ぐことを決意したそうです。

おじいさんが畑を目の前に、農場開墾当初の苦労話や、松橋家が農家として地域で暮らしてきた話をしてくれて、大きく心が動かされました。

松橋さん

婿になったわけ 懐かしむ様子

心を動かされた畑を見ながら当初のことについて語る松橋さん

僕が妻の涼子と最期まで仲良く笑顔で過ごすことができるのは『これしかない!』」と思いました。僕が農場を継げば、松橋農場が更に次の世代にもつながっていく。それが死ぬまで奥さんと幸せでいられる唯一の選択だと思ったんです。

松橋さん

コバマツ

やだ、いい話(涙)。奥様だけではなく、松橋家を幸せにするために就農したということですね。なんて愛情深い……。

異色の経歴から新規就農した松橋さん。農業に対する思いや覚悟からの婿入りかと思いきや、「妻を一生幸せにする」という覚悟からの新規就農だったんですね。熱すぎです。

世界にたった一つの松橋農場オリジナル飼料

さて、実際に飼育されている牛さん達とご対面したいと、早速牛舎にお邪魔したコバマツ。

コバマツ

お邪魔しまーっす!
エサの秘密牛に餌をあげる松橋さん

牛舎に入るなりエサをあげる松橋さん

牛舎に入った瞬間気づいたことがありました。

コバマツ

!!??牛舎なのに臭くない???
でしょ? 松橋農場では「超健康体の牛」を育てることを目標に、100%北海道産の原料を使って地元企業や専門家と共同で開発した、牛にとって最適の栄養バランスの乳酸発酵飼料を与えています。おかげで牛の腸内環境が整って、ふん尿がにおわないので、臭くないんですよ。

松橋さん

そのこだわりの飼料がこちら!!!!!!

エサの秘密

松橋農場でとれた豆類、麦等、更に地元企業のビールかすやおから等が配合されている。100%道産飼料

コバマツ

エサを自社で研究開発するということは肉の品質に大きく影響がありそうですね。実際どのような考えで独自の飼料を開発したのですか?

通常の肉牛は、海外から輸入したカロリーが高いコーンを食べさせて、牛を太らせてサシをいれるんですね。でも僕はそれをしたくなくて。牛本来の姿のまま出荷し、牛本来の赤肉をお客様にお届けしたい。そんな思いがあり、自社でオリジナルの飼料作りを始めました。

松橋さん


      
そのお肉がこちらです!!

餌の秘密調理された松橋牛

コバマツ

奇麗な肉肉しい赤肉! ま、まぶしい!!!

牛舎のにおいは肉にも表れるそう。食べてみたところ、牛臭さもほとんど感じず、おいしくいただきました。ごちそうさまでした。

飲食店開業の理由

松橋さんが経営する「農家バル FOOD BABY」のコンセプトは、「十勝の農と食を楽しむ」。2014年の開業以来、こだわりのお肉はもちろん、十勝の農家仲間の食材を使った料理を提供しています。

飲食店開業の理由様子1

広々とした店内

飲食店開業の理由様子2

スコップやフォークがインテリアで置いてある。農家っぽいお店

松橋さん、なんと飲食店開業は小学校1年生のときからの夢。初めて両親と行った飲食店で食べたステーキのおいしさに感動し、その時からずっと自分のお店を持つことを思い描いていたそうです。
自身の牛を価値ある肉に育て上げること、それをおいしくお客様に食べてもらい笑顔になってもらうこと。それは農家として、料理人としての責任であると話していました。

コバマツ

生産者という食の現場に携わる経験を経て、飲食店を経営する意義や役割というものも松橋さんの中で変わっていったのではないですか?
そうですね。自分の肉やお世話になった仲間の農家の方たちの作物の価値を、納得のいく形でお客様に提供できる場を作ろうという思いも大きいですね。自分が育てた牛と仲間の農家の方たちの食べ物を自分が納得のいく形で提供できる。これ以上楽しく、幸せなことはありません。

松橋さん

お店では仲間の生産者達とイベントも開催。生産者と消費者が直に交流することができるプラットフォームとしての役割もあるよう。

飲食店開業の理由3

地域のお祭りに出店し、農業から地域を盛り上げている

エサづくりから自身が納得のいく品質の肉を作り、お店ではそのストーリーや価値を伝える。素材と料理、両方を作るプロである松橋さんだから作ることができるお店です。

SDGs、持続可能な農業をめざす農場経営

畑と牛と飲食店、この三つのトライアングルの事業を手掛けている、松橋さんだからこそなしえる循環型のビジネスモデル。それは自然環境にも優しい持続可能な農業であるだけではなく、会社経営の改善にもつながることであると松橋さんは話してくれました。

コバマツ

最近ではSDGsについても取り組んでいるそうですね。
農家だから実践できることがたくさんあることに気づいて2017年から取り組んでいます。

松橋さん

SDGS社員との集合写真

社員たちと一緒にSDGsマップを作り、自社でできることから実践しているそう。

SDGS カード
自社の経営目標と、SDGsが掲げる目標に当てはめて、自分達ができていること、これからもっとできそうなことを考え実践します。

コバマツ

農家だからできること……。松橋さんが取り組んでいることで、具体的にどのような取り組みがあるのでしょうか?
先ほどご紹介した自社でのエサの開発ですが、それは肉の品質向上だけではなく、SDGsの7つ目の目標「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」という項目に取り組んでいることも意味しています。

松橋さん

コバマツ

畜産とエネルギーって、関係があるんですか?
畑では3割ほど規格外の作物が出ます。それらを生かして牛の飼料を作っているので、通常エサの仕入れにかかっていたエネルギーを僕は消費せずにすみます。更に、自社の畑でとれた作物を牛が食べ、その排せつ物をまた畑に堆肥(たいひ)として返す。堆肥でも輸送エネルギーを使わずに循環型農業を行うことができます。

松橋さん

コバマツ

通常は海外からの輸入飼料を与えていたり、動物を飼っていない農場は他の場所から堆肥を持ってきて、畑に入れていますもんね。その輸送エネルギーを使わず自社で賄っている! 確かに! エコだ!!
販売についてもそうです。僕は地元にお店があり、販売先があります。その点でも、商品の輸送エネルギーを使っていません

松橋さん

コバマツ

やっぱりエコだ! 今まで取り組んでいたことが、自然とSDGsに当てはまっていたようですね。
更にSDGsの考えを取り入れた農業は、会社経営の面でも、経費削減になり、利益が残る仕組みになっています。

松橋さん

コバマツ

エサも堆肥も自給し、販売先も近場に持っていれば輸送費が減り、経費削減につながりますもんね! エコロジーはエコノミーにもつながっているんですね。

規模拡大で牛の頭数を増やして売り上げを上げるのではなく、今いる牛を質の高い(価格の高い)牛に育てる。品質(価格)向上のためにエサを自給自足した結果、経費削減にもなり、エネルギー、環境にも会社にも利益を残すことになる。SDGsに取り組むことが、自然環境の改善はもちろん、会社の経営改善にもつながるなんて。可能性しか感じません。

次世代の農業について

コバマツ

さまざまな事業を手掛けてきた松橋さんですが、今後、農業に対する展望はどのようなものがあるのでしょうか?
まず、僕自身の展望ですが、今後、一層SDGsを意識した農業を実践していきたいと考えています。まずは自社の農場で実践する。それを発信することで周囲の人達にも、SDGsについて知ってもらう。そうすることで少しでも地球環境について意識する人が増えていってくれればと考えています。

松橋さん

コバマツ

次世代にも農業がずっと続いていくためには、地球環境への意識って大事ですよね。
他にも生産者自身ができることってあるでしょうか?
もう一つは生産者の皆さん、もっともっと個性を出していっていいと思います。それは、自分で作物を販売することだったり、農場の様子をSNS等で発信することであったり、皆自分を出していくこと!

松橋さん

コバマツ

そうすることで、農業は多様性がある仕事で、魅力的な仕事だと伝わりますね。個性を出していくことは本人のやりがいにもなりますし、周囲にも魅力的に映ります!

結婚を機に、農家としての道を歩み始めた松橋さん。
お客様に提供したいお肉を思い描き、そこから逆算し、肉質の根本であるエサ作りから改善する。その結果自然環境にもつながる農業経営が行われている。そのような考えを持ち実行できるのは農家と料理人の顔をあわせ持つ、松橋さんだからこそできる農業なのではないでしょうか。
農業ももっと、自分の興味や経験と向き合い、突き抜けて行動していいのでは。それが農業界のイノベーションになり、ファン作りになるのではないかと感じました。

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