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SDGsと農業 持続可能な社会をめざす

齋藤 祐介

ライター:

SDGsと農業 持続可能な社会をめざす

国連サミットで採択された2030年までの国際的な目標「SDGs(エスディージーズ)」では、途上国の貧困飢餓撲滅だけではなく、開発の持続可能性に関わる目標も数多く加えられました。世界的な人口増加に加え、途上国と呼ばれていた国が経済成長するなかで、地球温暖化や多様性の減少など環境負荷が目に見えて増えてきたからです。本記事ではSDGsのなかから農業と持続可能性に関わる目標12「つくる責任つかう責任」、 目標15「陸の豊かさも守ろう」を解説していきたいと思います。

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SDGsに含まれる持続可能性の重要性

以前の記事「SDGsと農業 今世界が注目するSDGsとは」でも触れてきたSDGsは、「Sustainable Development Goals」の略で、 日本語では「持続可能な開発目標」と呼びます。この名前からわかる通り、「持続可能性」が特に重要視された目標となっています。
SDGsの前身となったMDGs(エムディージーズ)では、持続可能性に関する項目は、目標7 「環境の持続可能性確保」の1項目だけでした。一方、SDGsになると、水、エネルギー、生産者責任、気候変動などと複数に分割され、全体で17ある目標のなかでも持続可能性に関わるものが多くを占めます。

持続可能性への意識、言い換えると、地球資源が限界を迎えるという危機意識は1990年代からありました。1972年に国際的な研究・提言機関「ローマ・クラブ」が発表した報告書「成長の限界」が、議論のきっかけとして有名です。この報告書では、発表当時のような人口増加と経済成長が続いた場合、食糧不足や資源の枯渇、環境汚染などにより、100年以内に地球上の成長は限界に達し破綻するだろうと警鐘を鳴らしています。

近年、なぜ持続可能性が注目度をあげているかと言うと、途上国を中心に急激な経済成長と人口増加が進むなかで、資源の枯渇やそれにもとづく環境破壊が、インパクトが大きく現実的なものとして差し迫ってきたからです。さらには、成長のために資源を使っていきたい途上国と、すでに成長を終え資源効率活用に向かっている先進国との対立という形でも、国際的に解決すべき問題として議論されはじめました。

「つくる責任つかう責任」

持続可能性や地球資源の活用という観点で、まず目に付くのが目標12の「つくる責任つかう責任」です。

目標12の小項目であるターゲット1には、「開発途上国の開発状況や能力を勘案しつつ、持続可能な消費と生産に関する10年計画枠組み(10YFP)を実施し、先進国主導の下、すべての国々が対策を講じる。」と書かれており、持続可能性を求める一方で、途上国の発展を妨げない点が明記されています。

この目標12は食だけでなく地球資源全体に関わるものですが、特に食に関わる部分は、ターゲット3の「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」の部分です。

現在世界的に年間約13億トンもの食材が食品廃棄物として捨てられています(2011年、国連食糧農業機関調べ)。これは生産量の約1/3を占める数字です。前記事「SDGsと農業 飢餓ゼロに挑む取り組み」でも触れた飢餓に苦しむ人が8億人いるなかで、作られたものの3割が捨てられているというのは驚くべきことです。

食品廃棄はサプライチェーンの川上川下のあらゆる所で発生します。先進国は消費段階、つまり小売店や外食産業での廃棄が主な原因となりがちです。一方で、途上国では生産・流通段階で、道路や市場といった流通インフラがきちんと整備されていないことが廃棄率をあげる原因と考えられています。「日本企業に商機 激変する東南アジアの生鮮品流通事情」でも取り上げたコールドチェーンの不備も原因のひとつでしょう。

食品廃棄の問題解決に向けてビジネスモデルや技術で解決を試みるスタートアップもいます(「海外ベンチャー事情 ~フードロスへの挑戦~」も参考にご覧ください)。

我々の暮らす日本でも毎年約640万トンの食料が廃棄されています(農林水産省・環境省推計)。特に近年、政府を中心に、食品ロスに関する啓蒙活動や「3分の1」ルール(※)という商習慣の見直しなど、さまざまな活動が行われています。

※ 製造日から賞味期限までの期間の1/3までを小売店への納品期限、次の1/3までを消費者への販売期限とするルール。

「陸の豊かさも守ろう」

農業=自然というイメージもありますが、実は農業により森林が減少しているとされる問題もあります。

現在、世界の森林面積は約40億ヘクタールで、地球の陸上の約3割を占めています(2015年、国連食糧農業機関調べ)。この森林は二酸化炭素を吸収・蓄積し気候変動を食い止めているほか、多くの動植物のすみかとなり多様性の維持にも貢献しています。

この森林面積は年間0.08%と徐々に減少していますが、その減少の多くは、南米、アジア、南アフリカといった途上国で発生しています。人口増加に加え、商品作物の栽培のために森林を切り開くことが原因です。

商品作物はお金を得るために生産される作物のことです。綿やコーヒーなど日本をはじめとした先進国に輸出されるものが多く、現地で消費される食用作物よりも先進国と結びつきの強い作物です。

この課題解決に貢献するべく、SDGsでも目標15「陸の豊かさも守ろう」が設定されています。採択時には具体的に、「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」との目標設定がなされ、森林の保全やそれに付随する土地劣化阻止や多様性損失阻止の小目標も記載されています。

SDGsの取り組み企業として外務省ホームページで紹介されているUCC上島珈琲株式会社は、JICA(国際協力機構)と協力して、エチオピアの森林保全のために森林の中で自然に育つコーヒーの生産や加工をサポートしています。自社のノウハウを生かして、現地の作物の活用をサポートしている事例です。

また、驚くことに一見自然と関係の薄そうな株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所も、SDGsの同じ目標に取り組む企業です。植物の特性を生かして生物多様性を保った生態系を構築する「協生農法」という手法を用いて、森林回復のプロジェクトを進めています。2015年からアフリカのブルキナファソにて、砂漠化が進み農業生産ができなかった土地に協生農法を持ち込むことで、食料も収穫できる森林の再生に成功しています。

日常生活では持続可能性や地球資源の枯渇について考える機会は少ないかもしれません。しかし、日々の生活で、我々が消費し廃棄している食品によって、地球の資源は少しずつ消耗しています。地球資源を考えるきっかけとして、SDGsの取り組みに目を向けてみると新しい発見があるかもしれません。

エチオピア森林保全プロジェクト:UCC上島珈琲株式会社
協生農法:株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所
 

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