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SDGsと農業 飢餓ゼロに挑む取り組み

齋藤 祐介

ライター:

SDGsと農業 飢餓ゼロに挑む取り組み

国連サミットで採択されたSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)の中には、2030年までに「飢餓をゼロに」という目標が掲げられています。2017年時点で、世界に約8.2億人もいるとされている飢餓に苦しむ人々を、あと13年でゼロにするというかなり挑戦的、かつ、強い思いが込められた目標かと思います。飢餓をゼロにするためには、各家計が十分なお金を持つことも重要ですが、そもそもの食糧供給、つまり、農業が重要になります。この記事では飢餓と農業の関わりを解説するとともに、この目標達成に取り組む事例を紹介します。

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飢餓の現状。実は近年増加している栄養不足人口

国連の定義によると、「飢餓(hunger)」は一定基準の栄養源を獲得できていない状態とされています。その飢餓の度合いを測るために「栄養不足人口」という指標が使われています。

1990年からの世界の栄養不足人口と、総人口に占める比率の推移を示したのが下のグラフです。

国連食糧農業機関(FAO)、世界銀行データより筆者作成

栄養不足人口比率は、1991年時点では18%(人口10億人)を超える水準でしたが、2017年時点では11%(人口8.2億人)ほどの水準まで減少しているのがわかります。

SDGsと農業 今世界が注目するSDGsとは」の記事 でも触れたMDGs(エムディージーズ:ミレニアム開発目標)では、2015年までに飢餓(栄養不足人口)を1990年の半数にすることが目標に掲げられていました。人口増加もあるために人口単位でみると20%程度の減少にとどまりますが、比率でみると約半分の減少を達成しています。

グラフを見ていただくと少しずつ減少してきた栄養不足人口ですが、2016年から人口・比率ともに増大しているという状況が見えてきます。具体的には2015年に約7.8億人まで減少したのに、2017年では約8.2億人に増加してしまいました。

これは栄養不足人口の約20%を占めるアフリカ地域を中心に、紛争や異常気象による干ばつや洪水が発生したためです。飢餓をゼロにするためにはもちろん、今から増やさないためにも、紛争勃発を防ぐ他、農業を中心に異常気象に耐えうる産業基盤が必要になってきています。

農業が生み出す食と職

ゼロにするという高い目標を実現するためにどのようなアクションが必要でしょうか。

SDGsの目標「飢餓をゼロに」の小項目であるターゲットには、農業の貢献が必要という内容が次のように書かれています。

強靭(レジリエント)な農業

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2030年までに、生産性を向上させ、生産量を増やし、生態系を維持し、気候変動や極端な気象現象、干ばつ、洪水及びその他の災害に対する適応能力を向上させ、漸進的に土地と土壌の質を改善させるような、持続可能な食料生産システムを確保し、強靭(レジリエント)な農業を実践する。
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」より  

まず一つ目として、生産性が高く、異常気象にも耐えうる農業の確立が求められています。上記の抜粋部分は、2016年から問題になっている食糧供給の不安定を解決するために、技術的なアプローチで解決を目指そうとする目標です。

農業を通じて所得を増大させる

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2030年までに、土地、その他の生産資源や、投入財、知識、金融サービス、市場及び高付加価値化や非農業雇用の機会への確実かつ平等なアクセスの確保などを通じて、女性、先住民、家族農家、牧畜民及び漁業者をはじめとする小規模食料生産者の農業生産性及び所得を倍増させる。
「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」より  

農業は食を生み出すだけでなく、飢餓がはびこることが多い農村での雇用も生み出します。そのため、農業生産をただ拡大すればよいということだけ考えるのでは根本課題の解決にはなりません。上の抜粋部分にあるような「小規模食料生産者」が技術発展の恩恵をうけて、所得を増加させる社会を目指す方針がアジェンダにも記載されています。

日本が取り組む飢餓へのアプローチ

世界的な問題である飢餓ですが、果たして日本の企業や団体はどのようなアプローチができるでしょうか。SDGsの「飢餓をゼロに」に関わる取組事例が外務省ホームページにまとめられているので、その一部を紹介します(事例URLは記事下部に記載)。

まず、「強靭(きょうじん)な農業」を作るという意味で、一つのアプローチに技術協力があります。

農林水産省所管の国立研究開発法人である国際農林水産業研究センター(JIRCAS)では、SDGsの達成に対応する形でさまざまな取り組みを行っています。開発途上国を対象に、作物の需要供給の調査分析や、気象異常による生産量変動分析など、調査力を生かした貢献を進めているようです。

また、企業が行う取り組みもあります。例えば、味の素株式会社は、「飢餓をゼロに」以外のSDGs目標も加え、企業としての貢献方針を資料にまとめています。特に栄養バランスの面から、同社が強みをもつアミノ酸関連製品の開発・販売を通じて貢献を行うようです。

さらに、NGOのTABLE FOR TWO(テーブル・フォー・ツー)は、レストランやコンビニなどで同団体のロゴがついた商品を購入すると寄付が行われる仕組みを通じて、アフリカなど開発途上国への食料提供を支援しています。

世界的に、人類全体としての大きな課題である飢餓。それをゼロにするという高い目標に向けて、さまざまな取り組みが行われ始めています。誰もが食に困らない社会を実現するために、新しく強靭な農業が求められています。

【取り組み事例】
取組事例 2:飢餓をゼロに:外務省
国際農研の取組:国立研究開発法人国際農林水産業研究センター
味の素グループ サスティナビリティデータブック2017(一部抜粋・PDF):味の素株式会社
SDGsのゴールと達成に向け高まる、企業との協働:特定非営利活動法人 TABLE FOR TWO International

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