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高糖度カボチャを有機栽培で実現 カギは北海道の海と微生物

深江 園子

ライター:

高糖度カボチャを有機栽培で実現 カギは北海道の海と微生物

糖度25度以上のブランドカボチャ「黄金のかぼちゃ」を生産販売するみよい農園。そのカボチャを育むのは北海道の大地と水産物堆肥(たいひ)、そして土の中の微生物の働きでした。30年間の模索の後に出会った有機農法のカギは、「土中の管理」。その理由と実践を、みよい農園社長の明井清治(みよい・せいじ)さんに聞きました。

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【プロフィール】みよい農園 明井清治さん
1957年、北海道茅部郡森町生まれ。77年に実家の農園を継ぎ、現在は47ヘクタールでカボチャを作付けする。有機JAS認証(有機農産物)取得。2007年に株式会社みよいを設立し、有機かぼちゃペーストの製造販売を行う。日本橋高島屋の催事の目玉として「日本一甘いかぼちゃ」の名で取り上げられた。

かぼちゃ

品種は「くりりん」。糖度20度以上と25度以上のカボチャがブランド名で販売される

20歳の農園主の体当たり有機農法

道南地図

北海道函館市近郊の森町は、北海道駒ヶ岳と、漁業が盛んな噴火湾に挟まれたまち。みよい農園のある駒ヶ岳ふもとのなだらかな火山灰地では、畑作や畜産が盛んです。2代目園主の明井清治さんは、北海道大野農業高校卒業後、20歳で約10ヘクタールの農園を継ぐことになりました。
「朝のテーブルに突然、食事じゃなく通帳と印鑑が置いてあって……」と明井さんは笑います。「父が、『うちは豊かじゃないが借金もない。お前が好きなようにやっていい、もし嫌なら農地を売ってもいい』と言うんです。畑仕事はかなりできるようになっていたけれど、さすがに驚きました」
大胆な、でも親からすれば熟慮の末の後継ぎ話を明井さんはすぐに受け入れました。
「それならひとつ、高校時代から考えていたことに挑戦してみよう」
明井さんはもともと、食べものに農薬を使うことに漠然と違和感を抱いていました。高校時代から畑の一角で「みやこ」という品種のカボチャを無農薬で作り、小さいが味がいいと言われていました。そこで持ち前の探究心で本格的に有機農法に取り組み始めたのです。どうせやるなら、何か特徴のある高付加価値な作物がいい。そう考えた明井さんは、地元農協がスイカやメロンからシフトを始めていたカボチャ一品に集中することにしました。「日本一の産地を目指す地域で成功すれば、自分も日本一になれるかも」というかなりポジティブな発想でした。

みよいさんとかぼちゃ

カボチャの品種は「くりりん」。収穫時は皮が緑色だが、キュアリング(貯蔵性を高め追熟させること)を施すと中のオレンジ色が浮き出てくる

無農薬有機栽培の原理はどこに?

明井さんは2000年に有機JAS認定(有機農産物)を受け、カボチャづくりにまい進します。しかし、それは思った以上に困難でした。毎年、無農薬、有機質肥料などのさまざまな試験区を作って栽培していましたが、どの試験区もある程度の収量にはなるものの、病害が最大の課題でした。毎年どんなに工夫してやり方を変えても、病害は蔓延(まんえん)はしないが無くなりもしない。その理由をつきとめようと無化学肥料や有機的な農法、不耕起農法などを実践する全国の先輩農家のもとへ行ったのですが、聞けたのは経験則ばかりでした。「有機農法で資材として認められる木酢液が防除に及ぼす効果は、農薬の20%くらいの感覚。それをこまめに繰り返すしかないという発想だから、作業量は膨大でした」と明井さん。肥料についても鶏ふんや牛ふんの割合を工夫しましたが、これも結果で判断するしかない模索の時期でした。

海のミネラルを陸に戻す堆肥

堆肥入れ

水産物堆肥を入れる作業は4月。ホタテの殻に付く海藻や貝などを集めて作った堆肥だ

「堆肥は完熟がいい。明井君、土づくりが大切だよ」。当時訪ねた有機農法の先輩たちの話は、いつもそこで終わります。でも、その土づくりがわからない。どうやら作物が健康でいるためには三大栄養素だけでは足りないようだ。もっと大きな仕組み、そのメカニズムが知りたい……。
もやもやした思いを抱いていた頃、偶然テレビで地球誕生の番組を見ました。始まりは海で、火山活動が活発になり、陸ができるイメージ映像です。それは、目の前の駒ヶ岳が海から隆起した歴史と重なりました。「これってうちの畑と同じじゃないか?」そして地元の漁港から出たホタテ貝の付着物に注目します。「これを使って海のミネラルを土に取り込めないだろうか」。トラックで貝や海藻のくずをもらい受け、堆肥と混ぜて熟成させて使ってみると、カボチャの収量が少し上がりました。「どうやらこれはよさそうだ……」。そう思っていた矢先、ある講演会で札幌の有機堆肥会社と出会った明井さんは驚きました。その会社のオーナーは農業者としての実体験から、水産廃棄物を堆肥化して海のミネラル分を土に戻すことの有効性を説いていたのです。考え方に共感した明井さんは同社の堆肥を導入し、過去最高収量を上げることに成功しました。

畑の土

火山の裾野にある圃場(ほじょう)の土には堆肥由来の貝殻が

微生物のバランスで土中を管理する

その後、ある微生物の研究者に出会った明井さんは、長年のもやもやに対して初めて納得のいく理論に触れました。研究者から教わったのは、植物と土中の微生物の活動との関連でした。土中の微生物が有機質肥料を分解して無機質に変え、それを植物の根が吸収する。ならば微生物を増やし、それぞれの菌が活動しやすい土中環境を整えればよい。それが有機農法全般に関わるメカニズムでした。「そう考えると今までの疑問も説明がつく。たったこれだけのことがわかるのに、30年も模索したんだなあと思いました」と明井さん。それがさらなる探究につながっていきます。
「じゃあ、自然界の土はどうなっているんだろう。自然界には耕す人もいないのに、病気の蔓延も連作障害もない」。資料を読み、本来の土の中は空気を好む好気性菌が活発な層と、空気を好まない嫌気性菌が活発な層の2層構造(菌層)になっているとわかりました。そこで畑でも微生物を活発にするという発想で、それまでのやり方を整理していきました。例えば、土を耕すと上層の好気性菌は紫外線の影響で活動しなくなるので必要以上に耕さない。定植苗の“体調”を観察しながら、畑に糸状菌、乳酸菌、放線菌など性質の異なる菌を培養した液体(土壌改良剤)を散布する。病害を起こす菌が蔓延しないよう、嫌気性菌と好気性菌のバランスがとれた状態を目指し、徹底的に土中環境を整えることに注力しました。すると病害が目に見えて減り、堆肥の効果も一層アップしました。「病害が減るのは、たくさんの菌の勢力バランスが取れた状態だと病害菌が増えすぎないからだと考えています」(明井さん)
自然環境をまねると言っても、実際の応用にはさらに工夫が必要です。
「自然界のシステムをコピーするなら、耕さず除草もしない不耕起農法が道理にかなっています。でも、それでは作物以外の草も栄養を食うので、収量は上がらない。そこでうちは必要な時は耕し、除草もして十分な収量を上げながら、自然のパワーである微生物や有機質肥料を補っています」と明井さんは説明します。

海洋深層水散布

水産物堆肥以外にも海洋深層水を散布して、土に海のミネラルを補っている

知識を分け合い、仲間が成功する喜び

自然界のシステムを畑に当てはめて、土中の微生物を使って土を管理する。この農法により、明井さんの圃場は土から発生する病害がほとんどなくなりました。そしてカボチャは味が濃くなり、キュアリング後の糖度は25度以上を記録しています。有機JAS認証も取得したこのカボチャが評判となり、周囲の農家が明井さんにアドバイスを求めることも増えています。
そうした勉強仲間たちは、面白いことに同じカボチャをつくる人ではなくレタスやアスパラガスなどの農家さんだそうです。めいめいが明井さんの実践から原理原則を学び、それを自分たちの土壌や気候、作物の特性に応用して成功を収めています。「今興味があるのは、有機栽培の野菜で健康づくりに寄与していくこと」という明井さん。これからもおいしいカボチャ生産を通じて、仲間や生活者のために活動し続けます。

製品

生果で販売するカボチャは約500トン、加工用は200トン。2009年からは加工品を自社で製造販売している

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