1次加工された農産物が商品に
直売所や地方のアンテナショップなどに並ぶ「A農園のおいしいジャム」や「Bファームのしぼりたてジュース」。消費者にとって、生産者の顔が見える食品は安心感がある。一方農家にとっては、規格外の農産物が加工品となって売れれば増収につながるし、その品質が高ければブランディングにもなる。また、月によって売り上げが増減しやすい農家の経営の安定化の方策として、6次化は理想的と言えるのかもしれない。
農林水産省では、「地域の農林水産物を活用した持続的なローカルフードビジネスを創出するため」の地域食農連携プロジェクト推進事業や、地域の6次産業化コーディネーター派遣事業など、多くの6次化支援につながる事業を行っている。その事業には「外食・中食等における国産食材の活用の支援」も含まれる。
外食産業等が必要とするのは、料理を構成する業務用の食材だ。ここで求められているのは「とれたて新鮮」な農林水産物ばかりではない。「1次加工」されたものの需要も高いのだ。
1次加工とは、農産物の原料としての性質を大幅に変えたりほかの食材を加えたりすることなく、洗浄やカット、加熱殺菌や冷凍などを行う加工を指す。
ちなみに2次加工品とはいくつかの原料を組み合わせて作った麺やマーガリンのような食材、3次加工品とはそのまま食卓に並ぶ総菜やケーキのようなもののことを言う。
今回は農産物の1次加工について、厨房機器を製造・販売し、6次化に関してもコンサルティングを行っている株式会社中西製作所の広報担当者に話を聞いた。
古水 豪(こすい・たけし)さん
株式会社中西製作所の営業企画部営業企画課課長と広報課課長を兼務。学校給食センターをはじめとした大量調理施設の提案、営業支援を行いながら自らセミナーにも登壇。HACCPコーディネーターの資格も持ち、衛生管理にも精通している。
農産物の加工、最も重要なのは衛生管理
外食産業関連企業に厨房機器を販売してきた中西製作所の古水さんは、1次加工品を商品として価値のあるものにするためには、ある程度の設備投資と心構えが必要だと言う。
「農家さんの本業は農産物の生産のはず。6次化に成功するためには施設や設備だけでなく、人手や時間の配分も考えなければいけません。そして加工品を作るうえで一番重要なのは『衛生管理』です」と強調する。
食品加工は家庭での料理とは根本的に違い、徹底した安全性と衛生管理が求められる。
HACCPコーディネーターでもある古水さんは食品加工の現場を多く見てきた。その中で重要なのが、HACCPに基づく設備の動線だという。
HACCPでは人や原材料(収穫したばかりの野菜など)の入り口と出口を分け、作業を一定方向に流すための動線が基本だ。これによって工程が進むごとに食材の衛生の度合いが高まるだけでなく、作業の無駄も無くすことができる。
ここで知っておきたいのが食品加工全般に共通する食品衛生の3原則だ。
- 細菌をつけない(清潔、洗浄)
- 細菌を増やさない(迅速・冷却)
- 細菌をやっつける(加熱、殺菌)
これを守りながら、全ての工程を考えなければならない。
洗浄

食材の洗浄の様子
加工にあたる人の手指を清潔にしたうえで、農産物の方に付いている異物や菌も除去する。古水さんによると、食品工場などでは出荷工程に金属などの異物を感知するセンサーが付いている場合が多いそう。また、検品・下処理の段階では注意深く異物や汚れを除去し、その後、除菌ができる電解水などを用いて洗浄するという。
加熱して殺菌・除菌し、急速冷凍

蒸気で加熱する場合も
下ゆで加工の場合には、一度加熱した後に急速冷却する「ブランチング」という手法も用いられる。食材をゆでた後に、素早く一気に温度を下げることで菌が増えるのを防ぐ方法だ。これによって衛生が保たれるとともに、保存期間が長くなる。この冷却は家庭用の冷蔵庫では難しいため、業務用の急速冷凍機器が必要だ。

真空パックにすれば好気性細菌の増殖が抑えられ、保存期間が長くすることができる
こうした加工の流れを作り上げることで、衛生的で品質が高く、安心安全な商品を作ることができるのだ。
農家自身が1次加工することのメリットは?
これまで説明したような作業は、素材となる農産物によっては新鮮なうちに行うことが重要だ。農家自身が収穫後すぐに行うことができれば、輸送中の劣化のおそれも少なくなる。2次加工や3次加工に備えて農家自身が食材を保存する場合も、製品の安全性も高めるために1次加工を衛生的に行うことは非常に重要だ。
もちろん、適切な場所に1次加工から委託できる専門業者がいれば、委託も選択肢の一つとなるだろう。1次加工品を購入する側にとっても価格は非常に重要であるため、生産量や輸送コスト、設備投資とのバランスを考えて、自分自身で行うか業者に委託するかは考える必要がある。
販路の確保は?
業務用食材は、一般消費者向けの販売形態に比べると1つの取引先に対する販売量も価格も大きくなる。そうした取引先をどのように探し、販路を確保すればよいのだろうか。
古水さんは「総菜などの中食の製造、学校給食やレストランなどの調理の現場ではどこでも省力化、省人化が求められています。カットや下ゆでなどの処理が施された業務用食材のニーズは高いはず」と語る。しかし、ただ農家の都合で規格外品の加工をすればいいというわけではなさそうだ。「食材の色、食感などの品質が高いことは付加価値になります。さらに品質が安定していて、取引先のニーズに合わせた加工ができることも重要です。例えば病院食なら、軟らかくゆでたものやペーストが求められることもあります。これを厨房でやるのはとても大変ですから」。
しかし、農家が農作業の合間に営業活動をするのは難しい場合もあるだろう。「そんな時はぜひ、我々のような設備を納入するメーカーにも相談してほしいです」と古水さんは言う。外食・中食産業への厨房機器の納入も行っているメーカーのもとには、各方面から食材の調達についての相談が入ることがあるからだ。
1年を通して農業経営を安定させる方法として、6次化は可能性の高い選択肢だ。だからこそ、設備投資の費用対効果、ニーズや販路についてしっかりと考えたうえで取り組む必要がある。自身の栽培品目や収量、立地などの条件が合えば、検討の価値はあるだろう。
【取材協力・画像提供】株式会社中西製作所