「質より量」が一転、市場から評価されるネギに
「白神ねぎの売上高は2020年度、18億円に達しそうだ。新規就農も増えてきた」
JAあきた白神営農部長の佐藤和芳(さとう・かずふさ)さん(上写真)はこう話す。筆者が最初に同JAを訪れた2016年には、前年の15年に売り上げが10億円を突破したばかりだった。わずか5年間での急成長ぶりに驚かされる。
「白神ねぎ」の生産面積は170ヘクタール超、生産者は170人。もともと、ネギの単価が崩れにくく、作業が機械化されたこともあって管内で生産が増えていた。特に簡易移植機が登場し、定植の省力化が進んだことがブレイクスルーになり、1990年代の末から一気に拡大する。
ところが、当初は市場から「量はあるが質が悪い」と評価されていた。農家によって品質のばらつきが大きかったからだ。そこでJAは08年、出荷されたネギの一部を抽出して品質検査をし、農家にフィードバックし始める。「市場からの信用が一番」(佐藤さん)との思いからだった。
本来B品として出荷すべきものがA品に混じっていることを農家に伝えると、反発もあった。農家を集めて「これがA品」と現物を見せながら指導もした。次第に品質がそろうようになり「品質が良くなったと市場から言われるようになり、良いネギならうちにもほしいと徐々に広まって、今では生産量の8割を関東方面に出荷している」(佐藤さん)。
法人での雇用、新規就農がともに増加
7月から8月中旬までのネギの価格が高くなりがちな時期、つまり端境期に、出荷量が少ないという悩みもあった。雪解けを待ってから播種(はしゅ)すると、この時期の出荷には間に合わない。そこで、秋に播種した苗を越冬させ、春に定植する「越冬早どり夏ネギ」の生産を本格化した。
12年には、全国的な知名度向上も狙って「白神ねぎ」を商標登録する。15年に10億円を突破したころから、それまで変動の激しかった卸売価格が高値で安定するようになった。佐藤さんは「取引先から『ないか』と聞かれたときに出せるように、春先から秋冬まで、途切れさせずに量を確保している。価格の安定は、市場の信頼を得られるようになったのが影響しているのでは」とみる。
10億円突破の起爆剤となったのが、能代市轟(とどろき)地区に14年に整備された園芸メガ団地だ。県の補助事業を活用して20ヘクタールの農地を整備し、収穫後の調製作業をする作業舎やハウスも設けた。団地には2法人と認定農業者1人、新規就農者1人の計4経営体が入居した。「3年以内に売上高1億円」という目標を15年に早々と達成し、今では面積が22ヘクタールに広がり、売上高は2億円弱になっている。
「認定農業者と新規就農者が、いずれも法人化した。売り上げも安定しているし、雇用確保や税金の面でも法人化しないといけないとなって。今は4法人で計50人ほどが働いている」(佐藤さん)
法人での雇用が増えているのに加え、管内での新規就農も15年ごろから増えてきた。ここ数年は毎年3~5人の新規就農者がいる。白神ねぎの反収は平均で100万円ほどになる。管理の手間も設備投資も必要だが、反収が10万円程度のコメに比べると、差は歴然だ。ただし、農家によって反収にばらつきがあり「全体を底上げする営農指導が大切になる」と佐藤さんは言う。
JAでは、農家へのタイムリーな情報共有を目指し、「白神ねぎ」メールマガジンを配信する。登録した農家は「市況速報」「病害虫防除情報」などを農作業中に携帯電話で受け取れる。最新の市況を見ながら収穫量を調整したり、台風や病害虫の情報をタイムラグなく入手できる。
人手確保が課題
JAあきた白神は、秋田県内ではコメと野菜の複合経営が進んでいる方だ。佐藤さんは「コメと野菜の販売額がいずれ半々くらいになるのかな。良い複合経営の産地になれるのではと思っている」と話す。
ところで、園芸振興で重要になるのが、労働力の確保だ。ネギの場合、特に収穫・調製で人手を要する。生産者から「JAで人を確保してほしい」という要望が上がり、17年に無料職業紹介所をJA内に設けた。管内や周辺市町村からの求職者を農家に紹介する。
マッチングした人数は、初年の17年度が1人、18年度21人、19年度11人、20年度4人と推移している。18年度をピークに減ってきているのは、紹介した人材が労働力として定着したことも影響している。
とはいえ、不足感はまだ強い。20年夏から、管内の一部農家に1日単位の農業バイトをスマートフォンのアプリで募るサービスに登録してもらっている。300件近いマッチングがあったけれども、1日単位なので、不足を補うにはまだ足りない。
ネギ生産だと、ふつうの農家は11月下旬で仕事が途切れる。そのため、他地域のJAと連携し、繁忙期だけアルバイトに来てもらうようにできないかとも考えている。
生産者の高齢化も課題の一つだ。ネギ部会の平均年齢は60代前半で、管内の農家の平均年齢よりは若い。それでも今後、高齢化に伴う離農が進むとみられ「新たな担い手を作っていかないといけない」(佐藤さん)。
JAと生産者が、二人三脚でブランドを作ってきた白神ねぎ。ブランドを確立し、売り上げを20億円の大台に乗せ、新たな担い手を育てようとするその挑戦に、注目したい。