農地法とは? わかりやすく簡単に解説
農地に関するさまざまな制限を規定する「農地法」ですが、そもそもどのような法律なのでしょうか? ここでは、農地の売買や転用を考えている方なら知っておくべき、農地法の基礎知識を解説します。
- 農地法の目的
- 農地法の歴史内
- 農地法の規制対象
順番に見ていきましょう。
農地法の目的
農地は食糧自給率に関わるため、国にとっては重要な土地です。そのため農地法では「農業者の権利を守るとともに農業生産を促進し国民に安定した食料供給を行うため、農地などの売買による権利移動や転用の制限」が規定されています。
わかりやすく言えば、国内農地での食糧生産を維持し、国民に安定供給するため、以下の2点について規制する法律と考えるとよいでしょう。
- 農地の売買
- 農地の転用
農地法の歴史
農地法は、戦後GHQにより推進された「農地改革」原則の恒久化を目的の一つとしています。農地改革は1946年に作成された改革案を基礎としており、具体的には以下のような内容が取り入れられています。
- 地主制の解体
- 自作農業創設のための小作地の開放
- 小作料の引き下げと金納化
- 不在地主の一掃
戦前、地主は小作人に土地を貸して小作料を受け取ることで裕福になっていきましたが、一方で小作人たちは貧しいままでした。
これを受けてGHQは地主から農地を買い上げ、安価に小作人たちに払い下げたことで、事実上地主制が解体されました。
なお、農地法の施行は1952年で、その後時代の変化とともに農業の大規模化を図る改正が重ねられています。
農地法の規制対象
農地法の規制対象となる土地は以下の2種類です。
- 農地
- 採草放牧地
それぞれの定義や地目などについて、順番に見ていきましょう。
参考文献:農地法第2条
農地の定義
農地法での「農地」とは、畑や田んぼなどの耕作を目的として使われる土地のことです。
地目としては「田」と「畑」が農地にあたります。しかし、農地法の規制対象は地目で判断されるわけではなく、現時点の利用形態で判断される点に注意が必要です。
例えば地目が「山林」の土地であっても、果樹園や植林圃場として使っていれば農地と判断され、農地法の規制対象となります。ちなみに休耕地なども農地と見なされますが、家庭菜園などは対象外となります。
採草放牧地の定義
農地法での「採草放牧地」とは、農地以外の土地で主に採草または家畜の放牧を目的として使われる土地を指します。
採草とは、肥料や家畜用飼料の原料となる草を採るための土地です。地目としては「牧場」や「原野」として登記されることが多く、主要目的が採草や放牧であれば、他に耕作などを行っていても採草放牧地と見なされます。
農地法による売買の制限【農地法第3条】
農地法における制限の一つである「売買」の制限は、農地法第3条にて規定されています。ここでは、農地法第3条の規定内容や、適用されないケースについて解説します。
- 農地法第3条では農地の権利移動を規制
- 農地法第3条が適用されないケース
順番に見ていきましょう。
農地法第3条では農地の権利移動を規制
農地法第3条では、農地の所有権や権利移動に関して、以下のように規定されています。
“農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。”
引用:農地法第3条
わかりやすく説明すると「農地を売買したり賃借したりする場合は、農業委員会の許可を得る必要がある」ということです。当事者が農業委員会の許可を受けずに売買を行った場合、その契約は無効となり、罰則が処される可能性があります。
農地法第3条が適用されないケース
以下のようなケースで農地の権利移動がされた場合は、農地法第3条による制限は適用されません。
- 国や都道府県による取得の場合
- 土地収用法に基づいて収容される場合
- 相続・遺産分割などによる取得の場合
農地法による転用の制限【農地法第4条】
農地法における「転用」の制限は、農地法第4条にて規定されています。ここでは、農地法第4条の規定内容や、適用されないケースについて解説します。
- 農地法第4条では農地の農地以外への転用を規制
- 農地法第4条が適用されないケース
順番に見ていきましょう。
農地法第4条では農地の農地以外への転用を規制
農地法第4条では、農地の農地以外への転用に関して、以下のように規定されています。
“農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事(農地又は採草放牧地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に関する施策の実施状況を考慮して農林水産大臣が指定する市町村(以下「指定市町村」という。)の区域内にあっては、指定市町村の長。以下「都道府県知事等」という。)の許可を受けなければならない。”
引用:農地法第4条
わかりやすく説明すると「農地を農地以外の土地として使いたい場合は、都道府県知事または指定市町村長の許可を得る必要がある」ということです。
売買(権利移動)の許可権者は農業委員会でしたが、転用の場合は「都道府県知事」あるいは「指定市町村長」となっています。
許可を受けずに農地を転用すると、工事中止や原状回復命令などの行政処分が下されたり、罰則に処されたりする可能性があるため注意が必要です。
ただし、市街化区域にある農地の場合、都道府県知事の許可は必要なく、農業委員会への届出のみで転用可能です。
農地法第4条が適用されないケース
以下のようなケースで農地転用が行われた場合は、農地法第4条による制限は適用されません。
- 小規模な農業用施設を建築する場合
- 国や自治体が特定設備・施設として転用する場合
- 土地収用法に基づいて収用される場合
農地法による転用・売買の制限【農地法第5条】
農地を購入してから宅地に転用するなど、転用と売買を同時に行う場合は、農地法第5条の規制を受けることになります。
ここでは、農地法第5条の規定内容や、適用されないケースについて解説します。
- 農地法第5条では転用を前提とした権利移動を規制
- 農地法第5条が適用されないケース
順番に見ていきましょう。
農地法第5条では転用を前提とした権利移動を規制
農地法第5条では、転用を前提とした農地の権利移動に関して、以下のように規定されています。
“農地を農地以外のものにするため又は採草放牧地を採草放牧地以外のもの(農地を除く。次項及び第四項において同じ。)にするため、これらの土地について第三条第一項本文に掲げる権利を設定し、又は移転する場合には、当事者が都道府県知事等の許可を受けなければならない。”
わかりやすく説明すると「農地を売買などで取得した後に農地以外の土地に転用する場合は、都道府県知事の許可を受ける必要がある」ということです。
許可を受けずに転用・売買を行った場合はそれぞれが無効となり、原状回復命令などの行政処分や罰則を受ける可能性があります。第5条の許可権者は「都道府県知事」ですが、市街化区域にある農地の場合は、農業委員会への届出のみで転用・売買が可能です。
農地法第5条が適用されないケース
以下のようなケースで農地の転用・売買が行われた場合は、農地法第5条による制限は適用されません。
- 国や都道府県が特定設備・施設として転用する場合
- 土地収用法に基づいて収用される場合
2023年(令和5年)施行の農地法改正のポイント
ここでは、2023年(令和5年)に新たに施行された、農地法第3条の改正内容について解説します。
- 農地法第3条の改正で下限面積要件が廃止
- 個人・法人での農地の売買や処分が簡単に
重要なポイントを取り上げてわかりやすく解説しますので、参考にしてください。
農地法第3条の改正で下限面積要件が廃止
これまで農地を取得するためには、取得後の農地面積が原則として北海道で2ヘクタール以上、ほか都府県では50アール以上になることが、農地法第3条2項により規定されていました。
しかし、2023年(令和5年)の農地法改正により、第3条の許可取得に必要だった「下限面積要件」が廃止され、許可条件が大幅に緩和されました。
許可取得に必要となる要件は以下の3点のみとなりました。
- 農地の全てを効率的に利用すること
- 周辺の農地利用に支障がないこと
- 必要な農作業に常時従事すること
参考文献:農地法第3条の2
https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/kaikaku/attach/pdf/index-2.pdf
https://www.city.shobara.hiroshima.jp/main/2023/05/2da8695402634e681e76fe977382b7d6_1.pdf
個人・法人での農地の売買や処分が簡単に
2023年(令和5年)農地法改正により、農地取得に必要だった「下限面積要件」が廃止されたことで、個人や小規模な法人でも農地を売買しやすくなりました。
新規就農を目指している個人や農業事業への参入を考えている法人などが、小規模から農業を始めやすくなったことで、地域活性化や後継者問題への改善にも期待できるでしょう。
また、相続などで受け継いだものの活用予定がない農地の処分に困っていた方も、売却や貸借など、さまざまな選択肢が取りやすくなったことも大きなメリットです。
相続した農地の活用・処分方法については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせて参考にしてください。
近年の農地法改正内容をわかりやすく解説
農地法は、時代の流れに合わせて改正が実施されています。例えば、近年実施された農地法改正は以下の通りです。
- 2009年(平成21年)改正:農地の貸借の自由化
- 2016年(平成28年)改正:企業への売却が容易に
- 2019年(平成31年)改正:転用に該当しない農業用建築物の追加
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
2009年(平成21年)改正:農地の貸借の自由化
農地は農家しか所有できませんが、2009年(平成21年)の農地法改正によって農家(農作業常時従業者や農業生産法人)以外の個人や法人も借りられるようになりました。
また、地域の実情に応じて、農業委員会が農地を取得する際の下限面積を自由に設定できるように改正され、個人でも農業に参入しやすくなっています。これらは、農家人口の減少に対応して広く人材を確保するための対策といえるでしょう。
なお、農地取得の下限面積要件は、上述した2023年(令和5年)の農地法改正により廃止されています。
2016年(平成28年)改正:企業への売却が容易に
2016年(平成28年)の農地法改正では、農地を所有できる法人の要件が見直されました。
2009年(平成21年)の改正で、農業生産法人でない一般の法人であっても農地を借りられるようになりましたが、法人による農地の所有は規制されたままでした。
その規制が、2016年の農地法改正によって以下のように制限緩和されています。
2019年(平成31年)改正:転用に該当しない農業用建築物の追加
2019年(平成31年)の農地法改正では、転用に該当しない農業用建築物が追加されました。
「農作物栽培高度化施設」という基準が設けられ、該当する施設の建築は農地から農地以外への転用と見なされなくなるのです。この農地法改正は、主に「全面コンクリート張りのビニールハウス」に対応するためのものです。ビニールハウスを全面コンクリート張りにした場合、改正前の農地法ではコンクリートの敷設が転用と見なされていました。
改正後は、そのような施設を転用扱いとせず、転用許可が不要になりました。ただし、事前に農業委員会への届出は必要なため注意してください。
農地法に違反するとどうなる?
農地法では、農地の売買や転用を規制していますが、これらに違反した場合はどうなるのでしょうか。ここでは、農地法に違反した場合に受ける可能性のある罰則を解説します。
- 懲役刑や罰金刑が課せられる
- 原状回復や工事中止を命じられる
順番に見ていきましょう。
懲役刑や罰金刑が課せられる
農地法に違反すると「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」が課せられる可能性があります。農地法の違反行為としては、以下のような例が挙げられます。
- 農地の無断転用・売買
- 申請内容の偽装
- 工事完了報告義務の放棄
農地法違反した場合には、懲役刑などの非常に重い罰則があることを覚えておきましょう。
原状回復や工事中止を命じられる
許可を得ずに農地を売買した場合、まずその契約自体が無効になります。
また、すでに土地の上に建物を建ててしまった場合や建築中のケースでは、原状回復や工事中止命令が下され、解体・撤去しなければならない可能性もあります。
農地法を正しく理解して農地の売買・転用を安全に進めよう
本記事では、農地法の基礎知識や第3・4・5条の詳細、近年の農地法改正内容などを解説しました。農地法は日本の農業を守るために定められた、生産者と消費者どちらにとっても重要な法律です。
しかし、農地売買・転用の手続きには複雑なものが多く、農地法に違反した場合は重い罰則を課される可能性もあるため、自分一人で判断せず、プロの力を借りることをおすすめします。
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