農業を目指す若者へ~レジェンド農家からのメッセージ~浅野悦男さんインタビュー

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農業を目指す若者へ~レジェンド農家からのメッセージ~浅野悦男さんインタビュー

農業を目指す若者へ~レジェンド農家からのメッセージ~浅野悦男さんインタビュー
最終更新日:2021年01月13日

農業を始めて一度の営業もせずに、現在は栽培した野菜の95%をレストランへ直接販売しているタケイファーム代表、武井敏信(たけい・としのぶ)です。このシリーズでは売り上げを伸ばすためのちょっとした工夫をお伝えします。

私の尊敬する生産者が世界で3人います。その中の一人がエコファームアサノの浅野悦男(あさの・えつお)さん。農家を継いで以来「人と違う農業」を追い求め、レストラン卸専門農家の先駆者としてその道を切り開いてきた浅野さんが、農業を目指す若者に送るエールとは。武井が浅野さんにインタビューしてきました。

農業界のレジェンド 浅野さんとの出会い

私がレストランへ野菜を販売するようになり、シェフ達からよく聞いたのが「浅野さん」という名前でした。詳しく話を聞いてみると、同じ千葉県の八街という場所で野菜を栽培している年配の農家とのこと。おのずと私にとって気になる人になっていて、いつか話をしてみたいと思っていました。
2015年11月、私が野菜を届けている青山のフランス料理店の周年パーティーで、ついにその時がやってきました。そのお店に野菜を販売していた浅野さんが参加していたのです。初めて出会った浅野さんの印象は衝撃的で、話も大変興味深いものでした。その後、畑を見学したり、私が主催しているファーマーズ新年会にも参加してもらったりと、交流が続いています。

浅野さんと初対面

レストランで浅野さんと初対面

■浅野悦男さん プロフィール
1944年、千葉県八街市生まれ。就農は1961年で農業歴は今年(2021年)で60年という超ベテラン農家。レストランに専門で野菜を卸す農家の先駆けで、その野菜には多くのシェフから信頼が寄せられている。

語る浅野さん

語る浅野さん

やりたくて始めたわけじゃなかった農業が好奇心を刺激

武井

浅野さんっていくつから農業を始めたのですか?
17。農業高校中退だから。行きたくねえのに行ってさ、2年頑張ったけど、もう退学すんだって言ったら、同級生のやつらがさ、3年の4月には修学旅行があるって言ってさ、修学旅行一緒に行こうって言うんだよ。それで帰ってきてから退学届出したら、校長がさ「あと1年だから頑張れ」っていうのよ。「俺はその1年が我慢できねんだ」って言って、そのまま退学した。

浅野さん

武井

それで野菜作りを始めたのですか?
家の手伝いするしかねえじゃん。本当に百姓やりたいって思ってたわけじゃねえんだ。ただ、車の免許もねえし、高校中退で働けるとこって言ったらさ、あまりねえじゃん。それで家の畑を手伝ったりして大人の中に混じるじゃん。そしたら、自分の作ったものを自分で値段付けられないなんて聞くじゃん。そんなバカなことあるかよ。そんで野菜の売るシステムを調べ始めたんだよ。そしたらみんな業者の言いなりだよ。

浅野さん

武井

決してやりたくて始めたわけではないんですね。私も同じです。そういう流通の仕組みを知って、どうしたんですか?
仲卸の人で特攻あがりの人がいてさ、可愛がってもらったんだ。その人にいろいろ流通や値付けのことを聞いて、「良い物であればちゃんとした値段で買う人はいる」と教えてもらった。

浅野さん

当時(1960年代前半)の流通の仕組みに疑問を抱いた浅野さん。農家自身が値付けができる方法はないかと考え、それが自分なりの農業を追求する好奇心のきっかけとなっていったと語ってくれました。

レストラン卸への道

武井

浅野さんはレストラン専門卸の先駆けと言われていますが、販売を始めた1970年代当時に知られていなかったルッコラとかどこで見つけたんですか?
1973年に、あるファミリーレストランが千葉で1号店始めた時に新聞が取り上げたんだよ。そん時にルッコラが食材に入ってるって書いてあったの。そんなの知るめいよ、俺らは。それを契約栽培で作ってる人がたまたま知ってる人だったから電話かけて聞いたの。「作るの大変か?」って。そしたら「そんなの簡単だ。種まくだけだよ」って言うわけ。「どこが種扱ってる?」って聞いたら「サカタだ」って言うからすぐにサカタに「ルッコラの種子ほしいんだけど」って電話したの。

浅野さん

武井

レストランへの道の第一歩はルッコラだったんですね。
そうだよ。それまでレストランなんか行ったことないよ。

浅野さん

武井

ルッコラなんてまだ誰もわからないですよね。
そうだよ。で、そん時いっぱい出来ちゃったから、もったいねえから東京青果へ持ってったの。そしたら担当者に「浅野さん、これ売れねえよ」って言われたの。「なんで?」って聞いたら「だってホウレンソウなんだか大根の葉っぱなんだかわかんねえよ」って。売ってみねえで売れねえって話ねえべ。

浅野さん

武井

それほど誰も知らなかったんですね。
知んなかった知んなかった。だって市場の人が知らねえんだもん。

浅野さん

武井

だとしたら、そのレストラン、すごいですね。浅野さん自身は初めて食べたとき、どう感じましたか? 独特の苦みとか辛みとかあるじゃないですか。
こんなものがみんななんで好きで食うのかなって。だけど食いなれてくるとうまいんだ。

浅野さん

武井

それでルッコラを都内のレストランに紹介したんですか?
当時は青山辺りにも少ししかレストランがなくて、電話番号調べてアポとってさ、「こんなの出来たんだけど」ってサンプル持ってったんだ。

浅野さん

武井

みんな食いついたでしょ。
食いついたよ。サンプルで持ってったのこれ全部置いてってくれとか。でもこっちはあと何軒も回らないといけないから、「明日箱で送ります」って。そしたら使っているうちに良いもんだって言ってもらえるようになって。
その時、俺なんてそのレストランのシェフがどんなレベルかわかんないじゃん。でもつながったシェフがたまたま業界をリードしてる連中だったから、影響力あるじゃん。そしたらよそのレストランも「浅野の野菜を使いたい」ってなってったんだ。

浅野さん

武井

出会ったシェフが良かったんですね。

新聞記事をきっかけに知ったルッコラの栽培にすぐに挑戦し、都内のレストランへ飛び込み営業で回った浅野さんの行動力とパワーに感服しました。現在の浅野さんと話していても当時の勢いが伝わってきました。

常に未知の野菜に挑戦するバイタリティー

浅野さんが本日発送する分を収穫するというのでお手伝いをしました。歩くスピードも速く、手際もよく、とても76歳とは思えません。

収穫の手伝い

浅野さんの収穫のお手伝いをする武井

収穫する浅野さん

ベテランのロスがない収穫作業

歩くスピードが速い浅野さん

軽快に畑を歩く浅野さん

浅野さんのアンテナは常に感度が良いようで、栽培に対する面白い話が聞けました。

武井

浅野さんはこれまでたくさんの野菜を作ってきたと思うんですが、その年に作る野菜ってどんな風に決めるんですか?
皆と同じもん作ってもつまんねえ。自分が見つけたものをやんなきゃ。この時期のこの野菜は誰も売ってねえから、俺が売るんだって決めて作るんだよ。固定種であまり売ってないものを見つけたら育ててみたいじゃん。でね、種売ってくれというと意外とみんな渋るんだよ。だからその野菜のシーズンの最後のを買ったら種取れるじゃん。ある伝統野菜があんだけど、あれは絶対に種出さないからって地元の人が言ってたの。だから直売所に電話してその野菜を一個買った。

浅野さん

武井

なかなか直売所には電話しないですよね。
どうしても死ぬ前に一度食べたいんだ!って言ったら送ってもらえた。

浅野さん

武井

それはちょっと、僕はまだ言えないかな。
厚かましくほしいって言ったら失礼じゃん。でもどうしても、最後の晩さんにっていえばさ。

浅野さん

武井

最後の晩さんにそれが食べたいって言われたら、食べてもらいたい気持ちになりますよね。
浅野さん

収穫しながらの話も面白い

浅野さんの「未知の野菜を栽培したい」という熱い思いには、私も共感しました。
一方、ある程度栽培できるようになったら次の人に道を譲るとも。また新たなものに挑戦していく気持ちが、浅野さんの若々しさの源になっているように感じました。

浅野さん提唱「アグリベンチャー」とは

武井

浅野さんの元気の源は、常に考えてるってことなんでしょうね。
考えるっていうか、テレビとかでいろんなことを聞いたら、それって何かなって気になる。そしたら調べるじゃん。たとえば流行語大賞とかさ。人間ってのは面白いって思えば、意味はなくたって後付けだっていい。そういうことって、若い人の方が柔軟で好奇心が多いはずなのに。

浅野さん

武井

若者に限らずですが、これから農業に入ろうとする人って、ちゃんと農業ができないとダメだって思っている人が多いように感じるのですが。
そうそう、ちゃんと野菜が作れなきゃ、とか、農業経営ができないといけないって思っちゃダメ。

浅野さん

エコファームアサノはアート

エコファームアサノにはアートがたくさんありました

武井

これから「農業らしきもの」をやってみようという若い人にアドバイスするとしたら?
自分の仕事を否定してちゃしょうがないってことよ。
カッコよく言えばね、農業じゃなくて「アグリベンチャー」って言えばいいのよ。農業以外の仕事も、既存の仕事はみんなもう重視されてなくて、世界中ベンチャーが新しい仕事をしてる。なら、農業の中で「ベンチャーってなんだ」って考えれば、考え方が変わってくるじゃん。

浅野さん

武井

2020年は新型コロナで農業もいろいろ影響を受けましたよね。
ある意味ね、コロナが産業革命したのよ。いろんな分野の。農業だけじゃなくて。

浅野さん

武井

逆にステイホームでいろいろ変わった。昔Zoomとかなかったですしね。
農家が自分でインスタとかやったりして、アピールして、うまくタイミングが合った人は方向転換できてる。みんなの今のニーズと自分の発想が合えば。長続きするかはわからないよ。でも今やれるってことは、能力はあるんだよ。

浅野さん

武井

今日のお話は、これから変わっていく世の中を生きていく若者にとっていろいろなヒントになったと思います。
俺は自分のためじゃない。同じ農業をやってるこれからの若いやつが「なんだ、あのじいさんやってるんだったら俺だってできるじゃん」って思ってくれればいいと思ってたんだ。

浅野さん

武井

ぜひこれからも、若い人たちの憧れの存在であり続けてください! 今日はありがとうございました。
浅野さんと武井

インタビューが終わるころには日も暮れかかっていた

浅野さんにじっくりとお話を聞き感じたことは、「今は恵まれている」ということです。インターネットもない時代に、自分が作ったものを販売する環境は限られていたに違いありません。今では誰もが知っていて、どのお店でも普通に使われているルッコラをいち早く広めようとしていた浅野さん。その努力により、浅野さんは料理人であれば誰もが知っている存在となりました。
インターネットが使える時代、ホームページやSNSを使い、普通に発信ができることはどれだけ恵まれているのでしょうか。私もその恩恵を受けている一人で、浅野さんの若かった時代であれば、今のタケイファームはなかったと思います。
はじめは誰もが初心者で素人です。常に考え、疑問を持つこと、そして継続することが成功への道のような気がしてなりません。

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