コメ農家も唸るリアリティ 材料は論文とバケツ稲
――今日はよろしくお願いします。初めに、自己紹介&ゲームのご紹介をお願いします。
なる:エーデルワイス代表のなると申します。
プログラムやゲームデザインを担当しています。「サクナヒメ」は「稲作で主人公が強くなる」という一風変わったシステムを取り入れたアクションRPGです。
こいち:こいちです。グラフィックアートやシナリオ制作を一部担当しました。
下村:笑農和(えのわ)代表の下村です。富山県のコメ農家の長男で、実家では14.5ヘクタールの水田で生産しています。自分はテクノロジーを使ってもっと農業を面白くしたいと、農家さんの労働力を軽減するため、スマホで簡単に水管理ができるツールを作る会社を立ち上げました。
サクナヒメは情報が出始めた頃から注目していて、発売後にすぐ買いました。プロモーションビデオのインパクトがまたすごいんですよね。今はまだ子どもと取り合いながら(笑)前半をプレーしていて、害虫対策のカエルを一生懸命集めています。とにかく稲作の描写がリアル。ぜひお二人に制作秘話をお伺いしたいです。
――なるさんとこいちさんは、農業のご経験は?
なる:2人とも農業経験は全くないです。僕は大阪の田舎の生まれで、田んぼに囲まれて育ったので、水田は故郷の原風景です。田んぼへの憧れをずっと持っていたことは、ゲームに稲作を取り入れた理由の一つですね。
こいち:僕も小さい頃はよく、コメ農家だった祖父の田んぼや畑で遊んでいました。
――皆さんの心象風景に田んぼがあったわけですね。マイナビ農業の中でも「サクナヒメ部」を作ってプレーしているメンバーがいるのですが、「古き良き日本という雰囲気の作画や音楽がいい」と評判でした。
下村:僕もすごく好きでサントラ付きのデジタルデラックス版を買いました。それにしても、農業未経験であそこまで表現できるのは感心です。そもそも、どうして稲作をテーマにゲームを作ろうと?
なる:うちで過去に手がけた「花咲か妖精フリージア」っていうアクションゲームがあるんですが、その続編として「サクナヒメ」の制作をスタートしました。
まず、アクション以外の成長要素(※キャラクターがレベルアップをするための要件)として組み込むしっかりとした「遊び」を考えました。初めは村を作るシミュレーションゲームにする予定だったのですが、進めていくにつれてもっと身近且つ他のゲームと差別化できるテーマにしようということに。そこで「農業」にフィーチャーしようと。
世界観を和風にするというのは先に決まっていたので、農業&和風といえばやはりコメ、というのは自然に決まりました。さらに、ミニゲーム的なものとして簡単に農業を取り上げるより、突き詰めた方が面白いんじゃないかということで稲作を深掘りする方向に。
下村:その突き詰め度合が半端じゃないですよね。全ての工程がマニアックで、ちゃんと米作りを知っている人が作ってるなという感じです。
なる:実務経験はありませんでしたが、インターネット上の情報や、書籍、稲作に関する研究論文は読み込みましたね。あとは実際にバケツでイネを育てて観察しました。
下村: 限られた情報から稲作をあそこまで再現したのは本当にすごい。
農業の大変さが伝わるような作りになっているのもとてもいいと思いますね。田植えや田起こしは、ボタンを一回ずつ押して進めるんですよね。まさか鍬(くわ)を使って(ボタンを)1個ずつ押していかないと土を返せないの!って(笑)
なる:開発初期に「稲作が楽なわけねーだろ」という話になり、ゲーム中でも「しんどいもの」として扱うことになりました。
下村:ゲームは1期作で終わるわけじゃないので、うまくやらないと収量が落ちるし、落ちてしまうと翌年につながらない……っていうのが、現実の稲作と似ていて面白いですよね。子供や新規就農者が一通りやれば、稲作の全体像がつかめるようになると思います。
開発に5年半の歳月
――ゲームの中で特にこだわった点や、苦労したところは?
なる:一番大事にしたのは結局「ゲームとして面白いか」なので、面白さを保ちつつ、どう農業のリアルを落とし込めるかというところですね。
一番苦労したのは、現実の農業とゲーム上で流れる時間の概念の違いです。実際の稲作には半年は掛かり、日々の変化は緩やかなものですが、それをゲームとして成立させるのはすごく難しくてですね。現実世界の1カ月がゲーム内では1日で進むように圧縮して、整合性を取りました。アクションと稲作とRPGとがうまくかみ合いながら、面白く進んでいくゲームサイクル(※)をまとめるのもすごく難しかったですね。開発には全部で5年半かかりました。
(※)ゲームサイクル…最終目標(ゴール)を達成するまでに繰り返す工程。
サクナヒメでは「鬼が支配する島の調査」という最終目標に向かって、稲作と島の探索を繰り返していく。このようにサイクルが確立しているゲームは、プレーヤーが長く遊び続けることができ、ヒットにつながる傾向がある。
――こいちさんはいかがでしょう。
こいち:調べながら時間をかけて作っていたところですね。グラフィック担当として記憶に残っているのは、料理のアイコンです。
小さいイラストを描き込むのはとても楽しかったです。お団子など食べ物の資料をたくさん並べて、一番おいしそうな色を選んでいったり。もっとたくさんの種類を描きたかったくらい。
下村:雑草なんかもリアルですよね。
こいち:代表的な雑草や害虫と、その被害をまとめたリストを作りました。「この雑草を放っておくと、こういうヤバい状態になる」といった具合に。
なる:土の“表情”も今の開発環境の限界レベルで描きこんでいましたね。濡れた状態や耕された状態、水量が浅い場合と深い場合など、複数のパターンを用意して切り替えています。
農業界の反響やいかに?
――発売後、SNS界隈もかなり盛り上がっていますが、ここまでの反響は予想していましたか?
なる&こいち:全然ですね!
こいち:感想の絶対量が今までとは全然違うので驚いてます。そして温かい意見が多くて。
なる:実は、米農家の方に怒られるんじゃないかと思いながら作っていました。「にわかのやつが変なもの作りやがった」って。それが、本職の米農家さんからの反応がとても温かくてですね。今回もそうですけど、今まで関わりが薄かった農業界の方たちから取材を受けるようになりました。別業種の人と関わるのは刺激になって楽しいですね。
▼農林水産省からも取材を受けた
【直撃インタビュー❗️大ヒット稲作ゲーム誕生の秘話⭐】
今回は大ヒットしている「#天穂のサクナヒメ」について取材しました。#稲作 をとおしてゲームをする中で #お米 について関心をもっていただければ、幸いです😊
お子さんへの #クリスマスプレゼント にもいいのでは❓❓#クリスマス pic.twitter.com/04RSz810pQ— 農林水産省「やっぱりごはんでしょ!」 (@MAFF_GOHAN) December 25, 2020
下村:自分がスマホを使って水管理を自動化するツールを作っているので、SNS上で「水管理が大変」というプレーヤーのつぶやきが多いことが気になりました。ゲームの中でも水管理は重要なのでしょうか。
▼ユーザーのツイート
サクナヒメ、二年目の収穫を終えて稲作が大分楽しくなってきたw土壌作りはよい感じになってきたけど、田植えと水管理がムズい #SAKUNA #NintendoSwitch pic.twitter.com/6hIpvUYIgq
— クリオ(ドリルあんこP) (@culio) November 14, 2020
なる:そうですね、水管理は僕も把握しきれないぐらい様々な影響があります。どちらかというと、こいちさんの方が論文を細かく読んで設計していました。どうですかこいちさん。
こいち:書籍や論文から水の出し入れの方法や時期について調べ、イネの成長パラメーターへの影響の参考にしました。ゲームの中では水を入れっぱなしにしても育つことは育つのですが、やり込みたい人はきっちり管理すれば通常の何倍も成長することもありますね。
――実際の稲作ではいかがでしょう。
下村:田植え以降4カ月間は、水管理がポイントなので小まめに水門を開け閉めするんですよね。品質を左右する重要な要素ですが、毎日見回らなくてはならないのでとにかく重労働です。
こいち:僕もなるさんも、ちょっと変わった体験ができるゲームにしたくて。たとえば、敵と戦っている間に雨が降ってきたら、やばい!田んぼを見に行かなきゃ!と帰りたくなっちゃうような。
下村:わかります!笑 パフォーマンスは最高でどのくらいまで上がります?
なる:シナリオ的には、田んぼの枚数や仲間が増えていくので、レベルアップとともに収量は増えていきます。最初は(使えるアイテムなどの)選択肢が少ないので難しいですが、慣れてくるとものすごく効率的な稲作ができるようになります。
下村:習熟度が上がると収量も増えていくんですね。安心しました。
なる:ゲームを進めていくと、アドバイスが書いてある「農書」というアイテムが手に入ります。それに従うだけでもかなり違います。
意図せず「スマート農業仕様」に
――サクナヒメの中では伝統的な農機具が出てきますよね。実物を参考にされたのですか?
こいち:はい、民芸品が置いてある資料館には何カ所かいきました。中古の足踏み脱穀機はなぜかヤフオクに流れていたので買おうかと思いましが、うちの奥さんに止められて踏みとどまりました(笑)
下村:懐かしい!小さい頃は実家にありましたね。機械が壊れて修理が終わるまでの間はこういう古いものを使ったり、祖母が手で脱穀していた記憶があります。
今回非常に面白いなと思ったのが、イネの状態がグラフ化されて見えるという描写。これはテクノロジーが発展したら将来できるようになりそうですよね。
作物の「いまの状態」が見えないから、農家が経験や勘でそれぞれが正解だと思っていることをやるわけですが、気候など生育環境が変わるとその判断がぶれてしまいがち。また、ベテラン農家の知恵は次世代に引き継ぎづらい。ああいう風に見える化できればいいなぁと。
こいち:作っているときは全く意図してなかったんですけど、最新のスマート農業に近いインターフェイスになっていると最近気付きました。
なる:論文を基に稲作のメカニズムをデジタル化し、プログラムを作っていくので必然的にそうなるのかもしれません。ただその要素がスマート農業の良さと合致してますよね。
下村:他業種の方が農業に向ける視点って新しいし、参考になります。間接的にでも関わる人が増えていくと、農業は産業として変わっていくでしょうね。
生産工程が周知されるのは「健全な世界」
――米を大事に育てて食べて、そして強くなるという農業界へのリスペクトも感じられるコンセプトのゲームですが、サクナヒメを通してどんなことを伝えたいですか。
なる:なんとなくでも「お米ができるまで」が周知されるのはすごく健全な状態だと思います。
過程を知られてないと、なんていうか……「優しく扱ってもらえない」(笑)
たとえば、ゲーム作りの工程もあまり知られていないですが、実際は地道な作業ばかりです。「何が変わったのかわからないくらいの変化」を毎日積み重ねていくイメージ。
下村:確かに、ゲームってどう開発するのか?お米ってどう作られているのか?って、普段の生活で触れる人は少ないですからね。
なる:はい。農業周りに関しては、本職の方になるべく失礼がないように丁寧に作ったつもりです。
こいち:あくまで遊び場を作るために稲作を研究していたので、意外とメッセージ性はなかったりします。
でも、「農家はここに本気で取り組んでいるんだ」ということを多くの人に察してもらえたら、結果としてありがたい話ですね。
下村:楽しい形で伝えて頂いてありがとうございます、という思いしかないですね。
サクナヒメ続編は?
――サクナヒメの続編発売もあり得ますか?
なる:それなりの勝算が見えてからになりますが、いずれ続編は作りたいとは思ってます。今回やりきれなかった所もありますし。たとえば、「種もみ選別」はあるけど、「芽出し」がなかったりとか。
下村:なるほど(笑)それは細部にこだわっていますね。
なる:あと冬場の作業とかも実装されてないです。ワラをすき込んだりとか。
下村:ワラも、発酵させるかさせないか、とかね。色々ありそうですね。
こいち:あと「レンゲを植える」とかも、考えてはいたんですけど実装まではいかなかったので。
下村:緑肥としてですね。そこまでいくと、さらに肥料成分が変わりそうで面白いですね。
こいち:はい、発売後の皆さんの感想を見ていて、まだまだやれることがあるなと。
――最後に、読んでくれている方やプレーヤーに一言お願いします。
こいち:資材や肥料について調べきれてないこともまだまだあると思うので、農業のプロの目線で「こういう効果のアイテムがあったらおもしろいんじゃないか」というご意見があれば、ぜひ公式サイトのプロフィールからメールください!
えーでるわいす公式サイト
下村:肥料メーカーとかもアドバイスをくれそうですね。
こいち:ユーザーさんの問い合わせがきっかけで、日本茶を肥料として使う地域があることを知りました。こういった、皆がやることではないけど、実は使えるアイテムもあれば教えてほしいですね。
下村:地味に大変な畦(あぜ)の草刈りに触れると面白いかもしれません。夏場に一気に生えてきて仲間に手伝わせるとか。最近増えている、イネを食害するジャンボタニシが出てきても面白いかも。元々は雑草を食べる救世主として人が水田に放したようです。
なる&こいち:へぇー!
なる:皆さん、こちらの期待以上に、田んぼに愛着を持って丁寧に稲作をしてプレーしてくれてるので、本当に感謝しています。遊んで頂いてありがとうございます、と伝えたいですね。
下村:サクナヒメを応援して一緒に農業を盛り上げていきたいですね。やはり人口減で農家さんは苦労していくと思うので、特にコメ余りで米価は安くなっているなかで、明るいニュースとして米農家に届けたいですよね。
新規就農も含めて農業に興味を持ってくれる人がもっと増えれば、今後の農業は間違いなく変わっていく。そういう意味でもサクナヒメの奥深さを改めて感じました。今日はありがとうございました。
■タイトル:天穂のサクナヒメ
■ジャンル:和風アクションRPG
■対応機種:PlayStationⓇ4/Nintendo Switch
■発売日:2020年11月12日
■価格:パッケージ・DL版 4,980円+税、限定版 6,980円+税
■プレイ人数:1人
■CERO:審査予定 ■開発:えーでるわいす
■対応言語:日本語:中文繁体字・韓国語・英語
■権利表記:©2020 Edelweiss. Licensed to and published by XSEED Games / Marvelous USA, Inc. and Marvelous, Inc.