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労務管理は愛~農場とスタッフが成長するツール、LINE WORKSの話~

maruyama_jun

ライター:

連載企画:牛乳は愛

労務管理は愛~農場とスタッフが成長するツール、LINE WORKSの話~

牧場のスタッフにとって、働きやすい環境と、成長できる仕組みが整備されていることはとても大切なことです。私の経営する朝霧メイプルファームでは、それらの課題をLINE WORKS(ラインワークス)というツールを活用することによって解決しています。労務管理は、酪農に限らず、すべての生産現場で応用できる話ではないでしょうか。実例をもとに紹介していきましょう。

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過去5回にわたって牛の基本的な飼養管理について紹介してきました。牧場で働くスタッフが、牛に対して愛をもって接していることが伝わっていますでしょうか。スタッフ無くして、牧場は成り立ちません。そういう意味で言うと、牧場の主役はいつだってスタッフたちです。
スタッフが突然みんないなくなり、経営者だけが残された農場は――。ゾッとするような想像ですが、一巻の終わりです。逆に経営者がいなくても当面の運営は成立します。メイプルファームは私たちが愛情をもって運営するのでさようなら丸山純さんどうぞお元気で? ……そんなふうに思われるのを防ぐためにも、経営者がスタッフへの愛をもって労働環境を整備することは重要ですよね。

信頼しあえるチームにとって重要なことは
「知るべき情報を、すべてのメンバーが共有している状態」
「伝えたいことが障害なく言える状態」
このふたつの実現ではないかと思います。その実現をサポートするのが、今回紹介する「LINE WORKS」です。

LINE WORKS導入の経緯

LINE WORKSは、ビジネスチャットツールです。この連載を読んでいる多くの人が利用しているであろうスマホアプリ、「LINE」のビジネス版といえば伝わるでしょうか。まずは簡単にメイプルファームが、LINE WORKSを導入した経緯についてお話ししましょう。

私が就農したのは2009年で、2012年ごろから無料アプリの「LINE」を業務に利用し始めました。LINEのトーク機能を利用し、牧場内の業務連絡や、シフトの周知などで活用していました。しかしLINEを仕事として使うにはいくつかの問題があることも、同時に認識していたのです。
まずは公私混同を防げない、という点。かつて男友達グループとメイプルファームのグループを間違えて送信したことがありました(いわゆる誤爆)。今でもあの時のことを思い出すだけで顔が熱くなります。
そもそも重要な社内情報を、簡単に個人で扱えてしまう点も不安でした。LINE以外のネットツールとしては、ネットカレンダーやメールなどを利用していましたが、複数のツールを同時に使う煩わしさも感じていました。

「ビジネス版のLINEがあれば、たとえ有料でも喜んで利用するのに……」

そんなもどかしい思いを募らせる日々。それから数年後の2017年、ワークスモバイルジャパンがLINE WORKSのサービスを開始するとのニュースを目にし、すぐに導入を決意しました。その機能は私が想像し、望んでいた通りのものでした。私はその時、こう思ったものです。

「ようやく時代が私に追いついたな……」と。冗談はさておき、そういうわけで、サービス開始間もない頃から、メイプルファームではLINE WORKSを利用しています。

牧場が成長するためのツール

牧場が成長していく上で欠かせないものとは、より効率的で効果の高い方法を模索する、「改善活動」に他なりません。
生産現場においての改善活動とは、やはり現場で働くスタッフの日々の「気づき」によって始まるものがほとんどです。作業をしていて、「これはこうしたらもっと効率的じゃないかな?」「このやり方は大変だな」、そういう思いは現場のスタッフにしか分からないことばかりです。その思いを的確に吸い上げる仕組みが必要だと思います。

さらに、その気づきを実践し、改善まで実現することが農場の成長につながることでしょう。その実現のために必要なポイントである、以下の3点について説明をします。

・提案トークグループ
・カレンダー機能でPDCA管理
・変更周知連絡

提案トークグループ

LINE WORKSのトーク機能は、任意でグループを増やすことができます。
限定的なグループを閲覧できる人間を、部門や役職ごとに設定できるのはビジネス版ならではです。トークの内容は重要な機密情報ですので、利用履歴の確認ができ情報漏洩の防止にも役立つ監査機能など、通常のLINEにない機能も数多くあります。
メイプルファームには、子牛を管理するための「哺乳グループ」、シフトの共有や調整を行うための「シフト管理グループ」など業務上必須のものから、牧場で飼っている柴犬「小夏」のグループといった業務外のものまで、全部で20個近いグループがあります。ちなみに社長が偉大だと思うところを一日一個全員であげる「純さんグループ」……なんてもちろんありませんよ~。そんなグループいいな、と思った社長、まさかいませんよね?

トークルーム一覧

トークグループ一部抜粋。機能や役割によって分かれている

いろんなグループがあるのは、情報整理の意味が強いです。
それ以外にも、それぞれ機能や役割を明確にすることで、発言を促す目的があります。

「提案のグループ」はその最たる例です。
日々の作業中、さまざまな「気づき」があります。しかし日々の作業に追われて、せっかくのいいアイデアを忘れてしまうことはよくあります。そして、大勢の前で発言することに勇気がいるという問題もあります。こんな突拍子もない話、笑われたらどうしよう。そんなふうに心配になる人もいるでしょう。
その点トークグループでは、思いついたら即その場で発言できる利点があります。

ヘッドライトの提案

仕事中、思いついたら即提案。入社1年目の新人スタッフが、不便だと感じたのでヘッドライトの導入を提案した

相手の顔を見なくても発言できるのは、悪いことばかりではありません。発言の心理的ハードルは確実に下がるでしょう。昔は内気なスタッフによく言ったものです。
「勇気を出せ!」「やればできる!」
それはあまり効果がなかったように思います。大勢の前で堂々と話せるようなコミュニケーション能力を身につけるに越したことはないかもしれません。しかしそのような教育に注力することよりも、発言のハードルが下がり、さまざまなスタッフから多様な意見が集まる環境を整備することのほうが、私の好みです。

また、提案グループでの発言そのものが、形となって残ります。「やることリスト」のように、提案が実践まで行われたかどうかのチェックにもなります。一方で記録を集計することにより、提案数が評価の査定にも影響する仕組みを整備することもできます。

カレンダー機能でPDCA管理

せっかくのいい提案を実践する管理も重要です。そちらもLINE WORKSを活用しています。「こうしたほうがいいだろう」という提案があれば、議論を重ねるよりも試験的に行うことがほとんどです。
計画を立て、実行した後は、検証が必要になります。それらのスケジュール管理はLINE WORKSの「カレンダー機能」を使用しています。効果があれば採用、なければ不採用、話は単純です。

検証カレンダー

カレンダーで「検証」と検索すると、この1カ月でも5件ヒット。実験や提案がやりっぱなしになることを防ぐ ※記事用に実際の画面を一部編集してあります

提案があってもやりっぱなし、あるいは実行する前にうやむやになって終了、そんなことになってはせっかくの提案が台無しです。そのようなことが続けば、スタッフは、「どうせ実行されないし……」そんな思いになって提案をしてくれなくなるかもしれません。
全員が予定を共有できるネットカレンダーは、検証や実行のし忘れをお互いに監視しあえる利点があります。

変更周知連絡

提案が実を結んで新しいマニュアルが作成されたり、新しい方法が確立されたりしました。しかし、その決定が全員に知れ渡らなければ意味がありません。あるいは自分には関係ない場所でいつの間にかやり方が変わっていた、そんな状況はスタッフにとってストレスになることでしょう。LINE WORKSの「ホーム機能」はネット上の掲示板です。メイプルファームでは、変更があった場合はすべてこの掲示板に挙げるようにしています。

スタッフが成長するためのツール

牧場全体の改善活動について説明してきました。ここからはスタッフ個人が成長するためのLINE WORKS活用方法を説明しています。今回は以下の3点に絞って説明していきます。
・マニュアルをDrive(ドライブ)に
・研修レポート
・発信力をつける

マニュアルをDriveに

メイプルファームには300個近いマニュアルがあります。ひたすら改善活動をしていたら、いつの間にかこんなに増えてしまいました。連載1回目で、マニュアルはネット上にアップしている、と紹介しました。この「ネット」とはLINE WORKSの「Drive機能」です。ネット上のファイル保存場所のことで、LINE WORKSのアカウントがあれば、共有フォルダにアクセスすることができます。
メイプルファームのスタッフたちは、仕事中にDriveからキーワード検索でマニュアルを閲覧しています。

Driveに保存されたマニュアル

Driveに業務別に階層分けされて保存されているマニュアル。画面はPC用。スマートフォンからも閲覧できる

今は便利なクラウドサービスが多く存在していますが、ツールをいくつも同時に使いこなすのは簡単ではありません。仕事中はLINE WORKSを開きさえすればいい、というのはシンプルです。

研修レポート

新人スタッフはLINE WORKSのホーム機能を使用し、研修レポートを書くことになっています。
メイプルファームではジョブローテーションを基本にし、すべての業務に携わってもらいます。マニュアルによって知識のサポートはありますが、作業に対して自信をもって体得したかどうかは、本人にしかわかりません。
そこで、半年に一度レポートを提出してもらい、本人がまだ習得していないこと、不安に思っていることなどを発信してもらいます。そのレポートに対して、教育者から教育者レポートを出すことで、作業のコツや、評価などをして、サポートをする体制を整備しています。

新人レポート

新人レポートに添付する、覚えることリスト

発信力をつける

ホーム機能では、最低でも月に一度、分野ごとのレポートを提出する決まりとなっています。酪農雑誌考察や、乳房炎や蹄病(ていびょう)、繁殖、周産期病や哺乳など、分野は多岐にわたります。それぞれの分野で、それぞれのスタッフが集計や分析、考察を行ったものを発信します。

TMRレポート

図などを添付しながら分析や考察を行う。画面は餌に関する定期レポート

発信することで、知識が整理され、論理的に述べることの経験になります。発信する機会が多くあるほど、スタッフは成長するはずです。また、自分が現在かかわっていない分野であっても、レポートを読むことで牧場全体を総体的に理解することができます。

困ったらLINE WORKSで解決しよう

掲示板一覧

掲示板も、役割ごとにさまざまなレポートが用意されている

私は「すべての情報を共有することが重要」、などと偉そうなことを言っています。しかし、いまだにスタッフに相談せずに決めてしまうことばかりで反省する日々です。
意識をしないと、コミュニケーションは減っていく傾向にあるかもしれません。そのほうが楽だからです。
発言することには労力がいります。厄介ごとを引き起こすこともあるかもしれません。先輩に意見することには勇気がいります。後輩を指導するのはためらわれます。
だからこそ、環境を整備して意見を言いやすい状況を作り、意見を引き出していくのが大切なのではないでしょうか。そのために朝霧メイプルファームではLINE WORKSを活用しているのです。

先日、スタッフからLINE WORKSを通じて愛ある注意をされました。
私はこれってとってもステキだな。と思いました。こんな会社ってステキだな、俺は間違ってないな、と思いました。注意はされちゃってるかもしれないけど、間違ってるかもしれないけど、間違ってないな、と思いました。

お菓子のゴミについて注意

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牛乳は愛
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現役若手の牧場主が、牧場を「会社」として経営すること、「組織」として運営することを、読者の皆さんに、わかりやすく、面白く!紹介します。

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