哺乳は愛~酪農経営のもう一つの柱、「子牛」を大切に育てる話~

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哺乳は愛~酪農経営のもう一つの柱、「子牛」を大切に育てる話~

連載企画:牛乳は愛

哺乳は愛~酪農経営のもう一つの柱、「子牛」を大切に育てる話~
最終更新日:2021年01月06日

搾乳牛は、およそ1年の間隔で子牛を出産します。生まれたばかりの子牛は体も弱く、繊細な管理が求められます。私の経営する朝霧メイプルファームにおいて、どのような管理をし、どのような思いで子牛に向き合っているのか、紹介したいと思います。

酪農牧場を支える肉用子牛販売

酪農牧場が「生乳販売」だけでなく、「肉用子牛販売」によっても利益を得ていることは、一般消費者にはあまり知られていないのではないでしょうか。牛乳専門の酪農牧場なのに肉用子牛販売。すこし混乱を招きそうですね。まずはそのあたりの話を簡単に説明しましょう。

そもそもの、牛が生乳を泌乳することの原理から考えましょう。泌乳はごく自然な生理現象です。出産を契機にして、生まれた子牛を育てるために、泌乳は始まります。逆に言えば出産をしない限り、生乳は一滴も出ません。これは人間に置き換えると理解しやすいのではないでしょうか。成長したメス牛であれば、もれなく牛乳が出ると思っている人、いるんじゃないでしょうか? 私もその一人でした。
かつて酪農のド素人だった私。このことに気が付いたときは、膝を打って感嘆したものです。仲の良かったネパール人研修生の女の子、ギリさんにこのことを伝えました。
「ギリさん! 牛って子牛を産まない限り、乳を出さないんだよ!」
「……yes?」
あの時のギリさんの困った顔は今でも忘れられません。あまりにも当然のことだったんでしょうね。
「純さん! ご飯を食べるとウン○になるんだよ!」
誰かにそう言われたらどうでしょうか。きっと困るでしょうね。

ともかく、出産を契機にして始まった泌乳は、2カ月ほどの増加ピークを経て、その量は逓減していきます。子牛にしても、いつまでも乳を飲んでいるわけではなく、草を食べるために離乳へと向かうからです。
減ってしまった生産量を再び増やすために、母牛はおよそ年に1度のペースで子牛を産むわけです。

分娩直後の牛

メイプルファームでは子牛は毎日生まれます。この牛はたった今生まれたばかりの子牛

メイプルファームでは、和牛の精液を人工授精してホルスタインとの交雑種を産ませるか、和牛の受精卵を移植することで純血の和牛を産ませています。
ホルスタインの母牛から、なぜ肉用子牛を産ませるのでしょうか。その理由には、飼養する面積が関わっています。ホルスタインの場合、生まれてから搾乳開始までの2年間の育成期間は、それ相応の場所を必要とします。一方肉用子牛は2~4カ月ほどで肉牛農家さんに売ってしまうので、スペースを必要としません。農地の狭い本州では肉用子牛育成。広い北海道ではホルスタイン育成、そのような傾向があります。
北海道の酪農家がホルスタインを育てて、余剰分を本州に販売する。本州の酪農家は肉用子牛を離乳まで育てる。肉牛酪農家は酪農牧場から買ってきた子牛を育て上げて肉として販売する。
もちろんこれがすべてではありませんが、おおむねこのような傾向にあり、それぞれの立場の特性があり、お互いに補い合っているようです。

メイプルファームでは農場の売り上げのうち、実に25%ほどが、肉用子牛の販売によるものです。

哺乳作業の一日

メイプルファームの子牛は、3つのグループに分かれています。
・生まれてから3週間ほど、哺乳瓶で直接哺乳を行う初生牛舎。
・ロボットが自動で粉ミルクを与える、ロボット哺乳舎前期。
・出荷に向けて離乳を進め、粗飼料や濃厚飼料を食べ始めるロボット哺乳舎後期。
日に3回、哺乳担当者がそれぞれの場所で管理を行います。

初生牛舎の哺乳

生まれたばかりの子牛を育てるのが初生牛舎です。個別のハッチで飼われ、哺乳瓶で母牛から搾った生乳を中心に与えます。
母牛の生乳を45℃まで温め、哺乳瓶に移して与えます。1週間経つ頃には一度に3リットル以上飲むようになり、初生牛舎を出る頃には12リットルまで飲めるようになっている状態にします。
生まれたばかりの子牛は人から乳を与えられることに慣れておらず、根気よくしつける必要があります。効率から言えば哺乳瓶をホルダーにさすだけで勝手に飲んでくれることが理想です。しかし簡単にはいきません。お腹がすいて乳を飲みたいのに、哺乳瓶から飲む方法が理解できない。なかには5日間ずっと訓練をしなければならない手のかかる子もいます。
初生牛舎にいる間は下痢をしやすい期間でもあります。下痢は脱水症状を引き起こすので電解質入りの水を補給します。
メイプルファームでは、日に3回世話をします。手をかけた分だけたくさんミルクを飲んでくれ、その分成長もしてくれます。

生まれたての牛に哺乳をしているところ

生まれたばかりの牛に哺乳瓶でミルクを飲ませます

ロボット哺乳

3週間の初生牛舎での哺乳を終え、無事に健康のままでいれば、ロボット哺乳舎に移動します。ロボット哺乳舎と聞いてどんなイメージがわくでしょうか。空飛ぶ巨大なメカホルスタインが、空中からミルクビームで子牛にミルクを与える様子でしょうか。牛川いぬおさんにメカホルスタインの絵をかいてもらいましょうか。
実際はというと、子牛一頭ずつに首輪型のタグをつけます。その状態でニップル(ロボットの乳首部分)のあるゲートに近づくと、その牛に飲ませたい規定量のミルクをロボットが作り、ホースを通じて子牛に与えます。必要な分だけ与えることができるので、飲ませすぎることはありませんし、離乳の時は徐々に給与量を制限していくこともできます。

哺乳ロボット

上部のタンクに粉ミルク、手前の小さいタンクは整腸剤などの添加剤タンク。お湯で溶かして哺乳します

ロボット哺乳による最大のメリットは効率化です。1頭ずつ哺乳瓶で哺乳するよりは圧倒的に楽なことは確かです。
個別のハッチではなく、広い運動場で群れとして飼養できることも大きなメリットです。同じくらいの日齢の仲間たちと、走り回ったり、じゃれあったりしている姿は、とてもかわいいです。よく遊べばそれだけ乳をたくさん飲んで、ぐんぐん成長してくれます。

子牛がロボットからミルクを飲んでいるところ

ロボットが作ったミルクをチューブを通して飲んでいるところ

ロボット哺乳舎は柵で区切られています。前期で2週間を過ごした後は、後期で給与量を制限していきます。ミルクの代わりに草や濃厚飼料を食べるようになっていきます。子牛は1日1キロのペースで成長していきます。2週間もあれば14キロ!も成長してしまいます。日齢別に牛を分けてあげないと、先輩の牛たちにいじめられて、ロボットに行くことができません。そういう意味で期間ごとに群れを分けることが必要なのです。

子牛用の濃厚飼料と乾草

柔らかい乾草と濃厚飼料は自由に食べられるようになっている

ロボットを操作してミルクを飲めていない牛がいればロボットまで誘導してあげます。
初生も含め、体調の悪い牛がいないかよく観察をします。異常があればマニュアルに従って、体温測定、便の状態の確認、獣医師への相談など、対処していきます。

初乳は百薬の長

ここまで哺乳の概要を説明してきました。子牛に愛情をかけて世話をしている様子が伝わったでしょうか。しかし、実はと言えば哺乳において、最重要なポイントを、まだ伝えていません。それは、生まれてから最初に飲む「初乳」です。初乳はその牛のその後の人生、もとい牛生を大きく左右します。健康なまま過ごせるか否かの、分水嶺(ぶんすいれい)が生まれた直後にあるというのは、なんとも興味深い話だと思いませんか? 初乳においてポイントを3つに整理してみました。以下の通りです。

・初乳はワクチン? 免疫獲得のためにできること
・できるだけ早く! 理想は6時間以内!
・高品質の初乳を子牛に!

初乳はワクチン? 免疫獲得のためにできること

なぜ初乳が重要なのでしょうか。それは初乳が子牛に免疫抗体を与えるものだからです。生まれたばかりの子牛は、環境に対して無力です。ここが私たち人と大きく違う点です。人は胎盤を通じて生まれる前の時点で母親から免疫抗体を受け取ることができます。しかし牛は生物的な構造上、胎盤からは一切免疫抗体の移行が行われません。つまり、初乳を飲むことでしか、外的環境から身を守る術を得ることができないのです。

画像下が初乳。通常の生乳よりも黄みがかっている

画像下が初乳。通常の生乳に比べ黄みがかっている

できるだけ早く! 理想は6時間以内!

そして初乳を飲んで免疫抗体を得られる機会は、時間とともにどんどん失われていきます。24~36時間でその機能は完全に失われるといわれます。免疫を持たない状態ではさまざまな菌やウイルスに侵されやすい状態であり、一般的な指標としては6時間以内が望ましいといわれています。
また、生まれたての子牛は体温も低く、衰弱しており、できるだけ早く回復させるためにも初乳の給与は早いほうがいいといえます。「免疫獲得」「栄養補給」「体温上昇」。初乳は母牛の愛情そのものといえるかもしれません。

高品質の初乳を子牛に!

初めて搾る初乳であれば、なんでもいいわけではありません。品質も重要です。初乳に含まれる免疫抗体量は、初乳の糖度の高さに比例します。そのため糖度計を用い、糖度の高い初乳から優先的に給与しています。メイプルファームでは糖度が23%以下のものに対しては、添加剤で免疫抗体の獲得を補うようにしています。

初乳を計測する糖度計

初乳はすべて糖度計で計測を行う

また、免疫抗体を獲得しやすい状態は、同時に悪性の菌などにも侵されやすい状態といえます。初乳に雑菌が混じらないように、初乳を搾るための器具はそれ専用として管理しています。具体的には初乳を受けるバケツはしっかりと洗浄、乾燥を行います。

初乳専用のバケツ

洗浄後裏返して乾燥させている、初乳専用のバケツ

また、温度の上昇とともに雑菌も繁殖しやすくなるので、凍らせたペットボトルで速やかに温度を下げ、チルド室で保管します。ソルビン酸カリウムという、人の食べ物にも含まれる食品添加物によって、雑菌の繁殖を抑えるなどの対策もしています。

高品質の初乳を、可能な限り早く飲ませること。これが哺乳においてとぉーっても重要なポイントなのです。

出荷~メイプルファームからの巣立ち~

交雑種であれば2カ月齢ほどで市場へと出荷します。経済的な観点からみれば、私たちが育てた牛が評価されるほど高値となり、利益につながります。それが一応の目的でもあります。高く売れることに越したことはありません。しかし、果たしてそれがすべてでしょうか?

この記事を書くにあたり、実際に哺乳作業に携わる従業員の話を聞きました。哺乳は大変な仕事だと改めて思います。ミルクをなかなか飲んでくれなかったり、何度も体調を崩して困ったり、親牛と違って活発に動き回るから捕まえるのに苦労したり……。
それでも従業員は、出荷した子牛のことを、時々思い出すそうです。「今頃立派に大きくなっている頃だろうな……」。手のかかった子ほど記憶に残りやすいものです。

私はなんとなく、哺乳舎は保育園や小学校みたいだと思いました。親に代わり成長を見守り、守ってくれる存在。私は小学校1年生の担任だった、I先生のことを思い出しました。I先生は優しい、女の先生でした。

いずれいなくなってしまうからといって、ぞんざいな扱いをするでしょうか? たとえ限られた期間とはいえ、健やかで平穏な日々を過ごしてもらいたいと、願っていたに違いありません。それは、メイプルファームの従業員も同じです。

どこに出しても恥ずかしくない健康な体で、自信をもってメイプルファームから送り出す。ここまで育てればきっと受け入れた肉牛農家さんも、手をかけずにさらにすくすくと育ててくれるだろうという気持ち。
従業員たちの、決して手を抜かず哺乳へ取り組む姿勢を、私は心から信頼しています。その真摯(しんし)さは、「愛」と呼ぶにふさわしいと思います。

ロボット哺乳舎の子牛

牛舎にいくと好奇心の強い牛が寄ってきます

数年前、校長先生になったI先生に依頼されて、小学校で特別授業を行いました。ウン○やらオ○ラといったフレーズが飛び出す私の授業に苦笑しつつも(男子は大はしゃぎ)、I先生は立派になった(?)私の姿に喜んでいたように思います。

皆さんが食べるおいしいお肉にも、いろんな人の愛が込められていること、思い出してくださいね。

ロボット哺乳舎の子牛2

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