餌づくりは愛~こだわりの餌「TMR」で牛の健康を守る話~

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餌づくりは愛~こだわりの餌「TMR」で牛の健康を守る話~

maruyama_jun

ライター:

連載企画:牛乳は愛

餌づくりは愛~こだわりの餌「TMR」で牛の健康を守る話~
最終更新日:2020年12月18日

生命活動の源である、食。それは人も牛も同じです。豊富な栄養素を含む生乳をたくさん生み出すためには、高度な餌の管理が要求されます。細部までこだわった餌づくりを、私が経営する朝霧メイプルファームを例にとって紹介します。

TMRは牛のチャーハン?

近代酪農において、餌は非常に繊細に、限りなく精緻に管理されています。一般消費者の想像をはるかに超える、「めちゃくちゃこだわっている」餌といっても過言ではないと思います。
草食動物である牛の主食は繊維を多く含む「牧草」です。海外から輸入される乾草や、近隣の畑で収穫したものを発酵させた牧草サイレージなどがあり、それらをまとめて「粗飼料」と呼びます。
繊維の多い粗飼料に対して、炭水化物やタンパク質中心の餌を「濃厚飼料」と呼びます。
濃厚飼料は、健康的にたくさんの生乳を出してもらうため、栄養を補う目的で与えます。トウモロコシや大豆、麦など、穀類を中心に、粉末状のものやあっぺん加工(蒸気をかけて潰すこと)されたものなどがあります。
人が摂取するサプリメントのように、栄養補助の目的でさまざまな「添加剤」を給与することもあります。それらを個別に与えず、すべて一つに混合したものを「TMR」とよびます。TMRはTotal Mixed Ration(混合飼料)の略です。

なぜ一つに混ぜるかといえば、牛は動物なので、バランスなど考えずに自分の好きなものばかり食べてしまう傾向があるからです。選び食いを防ぎ、すべての餌をまんべんなく口にしてもらうことが、牛の健康につながります。ちなみに、私は出されたものはすべて平らげますけどね。

このTMR、人の食べ物に例えるとすれば、「チャーハン」ではないかと思います。主食である米。そこに卵、野菜、肉、塩コショウなどを混ぜ合わせ、それらを一つに炒めた、おいしいチャーハン。

……いや、でもなあ。と、私は思います。チャーハンは米がメインだし、むしろTMRは「ラーメン」ではないか、と。最近のラーメンはしょうゆや豚骨は言うまでもなく、煮干し系をはじめとする魚介だしが溶け込み、スープはもはや豊潤な海。山盛りに盛られたモヤシ、キャベツは食物繊維も豊富。ラーメンこそTMRなのではないか、と。
……いや、むしろTMRは野菜やスパイスや溶け込んだ究極のスープ、「カレー」なのか? 

――はい。ここまで読んだ方。私がいかに食に対して「めちゃくちゃこだわっている」か、わかっていただけたでしょうか。私はずばり食道楽です。車も高級時計もいらない。おいしいものを食べるためだけに生きています。
人が牛の健康を思いながら作った餌と、よりおいしいものを探求し続ける人間の食の道。方向性は違えど、その食にかける思いの熱量は同じではないかと、私は思います。今回は牛の餌TMRと、人間のごはん。どちらがよりこだわっているか、決着をつけようと思います。

TMRの作り方

女性がトラクターに乗っている写真

TMRを大量に作るには重機を使います。女性従業員も重機を駆使して餌づくりを行います(酪農業界では珍しいかも)

TMRはトラクターにつながれたミクストロンと呼ばれる大型の撹拌(かくはん)機械に、原料を次々と投入して作ります。これはそのままフードプロセッサーのようなものだと考えてください。
まずは最も攪拌時間を要する牧草から投入します。

乾草積み込み

フォークリフトで輸入乾草をすくう

メイプルファームでは輸入乾草3種類と牧場周辺の畑で収穫した牧草を発酵させた牧草サイレージの合計4種類を与えます。これらの牧草はマメ科とイネ科に分かれています。なぜ数種類の草を与えるかといえば、草によって栄養素や消化率、繊維量、物理性(草自体の硬さ)が違うから。牛にとって最適な配分を常に考慮しながら与えています。

これは言ってみればこだわりの製麺所が数種類の小麦粉をブレンドし、最適なもちもち感、のどごしを実現するための努力と言えるでしょう。

ミクストロンへ投入

ミクストロンに餌を投入

ミクストロンで草を切断しながら混合し、次は濃厚飼料を投入します。メイプルファームでは、「オカラサイレージ」で牛の濃厚飼料を補っています。後述しますが、これは豆腐の副産物であるオカラと、トウモロコシなどを混ぜた発酵飼料です。

その後、ビタミンやミネラルなど、正確に計測した粉末状の添加剤すべてを投入し、撹拌します。餌の混ざりをよくするために水を加え、後は牛舎に配ります!

添加剤を正確に測る

添加剤を正確に量って入れる

2つのエコを実現する「エコフィード」

前述した「オカラサイレージ」。これは広い草地を持たない本州の酪農家にとって、重要な意味をもつ「エコフィード」の一種です。エコフィードとは、食物残渣(ざんさ)などをもとに製造された飼料のこと。エコフィードのエコは、2つのエコです。

「エコロジー」。本来は廃棄される食品副産物を牛の餌として再利用し、牛乳になって帰ってくる。環境にいい!

「エコノミー」。海外から輸入したトウモロコシに比べ、近隣の豆腐工場から搬入したオカラはより安価である。経営にとってもいい!

牛の餌となる濃厚飼料。北海道の酪農家はその広大な草地面積でコーンを栽培し、サイレージ化して与えることが多いです。自給する分、餌代は低く抑えることが可能です。一方耕地面積の狭い本州では、輸入した濃厚飼料に頼らざるをえない傾向にあります。経営は海外の穀物相場に左右され、自給飼料割合の高い酪農家に比べて費用は割高になります。
メイプルファームではたまたま近隣に豆腐工場がありましたが、こればかりは地域性によるので、必ずしもエコフィードをすべての酪農家が活用できるかといえばそうではありません。しかし、エコフィードとして活用できるのはオカラばかりではなく、例えば焼酎工場が近くにあれば、芋の副産物が利用可能です。ビールの小麦や、パン工場のパンの切れ端なんて場合もあります。

トランスバッグに密閉されたオカラサイレージ

トランスバッグで密閉され、発酵したオカラサイレージ

もちろん牛はなんでも食べるわけではありません。かえって毒にもなりかねないので、食品の安全性や、牛との相性などをじっくりと精査したうえで給与する必要があります。
オカラは人が食事として普通に食べるものですが、なにぶん豆腐を作るにあたって大量のオカラが副産物として出るので、人間だけでは消費しきれません。そういう意味ではエコフィードとしての相性はいいのかもしれません。

また、メイプルファームではオカラとトウモロコシなどを混ぜて3カ月ほど乳酸発酵させます。この乳酸発酵が濃厚飼料の消化を助け、健康にもつながります。

TMRには人の食事とは比べ物にならない「こだわり」が詰まっている

ざっとTMRの概要について紹介しました。「こんなもんか」と鼻で笑った方、なめてもらっちゃーあ、困りますねえ! TMRには「5つのこだわり」があります。

こだわり1 切断長

TMRの切断長割合にこだわっています。細かすぎず、粗すぎず、いいあんばいの切断長になるよう、微妙な調整を行い続けています。

パーティクルセパレーターと呼ばれる器具を用いて、TMRの切断長を4つのグループに分けます。粗い、少し粗い、少し細かい、細かい。この4層が、それぞれちょうどいい割合で配分されているのが、いいTMRと言えます。

パーティクルセパレータ

セパレーターによって4つに分かれたTMR

粗すぎれば牛は餌をたくさん食べることができません。逆に細かすぎれば、はじめはたくさん食べることができるのですが、一度に大量に食べすぎると、その後胃の調子が悪くなり、結果的に不健康になります。バランスが重要なのです。

確かにスタミナ系ラーメンの太麺に比べ、豚骨系の細麺は替え玉が必須です。しかし、細麺太麺、どちらにせよ腹が限界まで膨れるまで食べる私に比べ、健康を害するほどの問題となる繊細な牛にとって、私の麺の好みなど取るに足らない話です。

こだわり2 水分量

牧草サイレージなどは、ロットや取る場所によっては水分量に誤差があります。その結果、TMRの水分量も微妙にずれてしまい、正確な採食量のモニタリングはできません。水分がずれているということは、実質的な草の量も変わっているということです。その変化が大きかったころ、牛が体調を崩したことがあります。
メイプルファームでは、誤差が1%以内に収まるよう、毎日のように水分を計測しながら餌づくりを行っています。

人間ならチャーハンをそのまま食べようが、味変のためにラーメンの汁をかけて食べようが、お腹こわしませんよね。
今、全方向の読者から失望と嫌悪の視線を感じたような気がしました。ハハハ。冗談ですよ。そんな下品な食べ方、滅多にしませんよ。

自給サイレージの水分量を測っているところ

自給サイレージの水分を測っているところ

こだわり3 成分

乾草はロットが変わるごとに専門機関に化学分析を依頼し、草の繊維量や消化率、含まれる栄養素を調べ、飼料計算ソフトで安全性を確かめながら、給与します。
繊維が多すぎれば採食量を制限することもあります。また、繊維の消化スピードが早すぎたために、かえって胃の調子が悪くなることもあります。

コンビニで新作のラーメンが出るたびに、カロリー表示を無視して反射的に買ってしまう私と比べて……。正直健康的な牛と自分の自堕落な食生活を比べるのが嫌になってきました。

こだわり4 タイミング

毎日、同じタイミングで餌を給与することを心がけています。たった1時間給与が遅れただけで、お腹をすかせた牛たちはいつもより大量の餌を一度に食べてしまいます。「スラグフィーディング」や「かため食い」などと呼ばれ、牛の胃腸に大きな負担となるので、従業員は正確な給与時間には非常に気を使っています。

え、俺? 俺なら深夜だろうが腹が減ったらカップラーメン食べちゃうなぁ。。。お酒を飲みすぎた翌日は夜までなんにも食えなかったりしますねー。はい? はいはーい。すみませーん。

餌を食べる牛

こだわり5 安定

とにかく毎日同じ品質、同じ時間に、安定して食べてもらうこと。それが大事です。いつかこの連載の別の回で書きたいと思いますが、牛の1番目の胃は本当に繊細です。大幅な変化はそれだけで胃の調子を悪くしてしまいます。だから、餌の変更はきわめて慎重に行います。少しづつ牛への悪影響がないか調べつつ、牛が健康を保てれば変更を採用し、不健康になるようであれば採用を見送ります。

これに関してだけ言えば、「自分は牛じゃなくてよかった!」と強く思います。私は毎日違うものを食べたいです。食べることが人生における至上の喜びなので、毎日同じものを食べろと言われたら泣いてしまうでしょう。いくら健康的な食生活をしていても、ストレスでお腹を壊すと思います。

結論:牛の餌のほうが人間の食事より健康的……かも

生きる上で最も大切なことは健康ではないでしょうか。私はおいしいものを食べるために毎週のジョギングを欠かしません。なんとか体形は維持できています。健康診断の数値も問題ありません。

牛も人も健康であれば、それでいいじゃないですか。

「牛と人のごはん、どっちのほうがよりこだわっているか」
どちらも健康であれば、それでいいじゃないですか。

ただ、私も牛のことを見習って、もう少し安定した食生活を目指す所存です。

メイプルファームの牛たちにもっともっと健康になってもらうために、愛情を込めた餌をこれからも作り続けたいと思います!

餌をたべる牛

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