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牛舎清掃は愛~牛舎をキレイに保つ仕組みとその効果の話~

maruyama_jun

ライター:

連載企画:牛乳は愛

牛舎清掃は愛~牛舎をキレイに保つ仕組みとその効果の話~

牛の生活環境の良し悪しは人の管理次第で決まります。キレイな環境は牧場にとってどのような効果を生むのか。そしてそれを継続するために、どんな工夫をすればいいのか。酪農に限らず、職場環境保全はすべての生産現場において役立つ話ではないでしょうか。私が経営する朝霧メイプルファームの現場を例にとって、考えていきましょう。

キレイな環境で牛のストレスを減らす

酪農に詳しくない人でも、瞬時にそこが「よい牧場」かどうか、判断が可能な要素があります。それは「その牧場をキレイと感じたか」です。においを感じず、牛が汚れておらず、施設はホコリにまみれていない。
何をもって「よい牧場」とするかはさまざまな指標や価値観がありますが、私の経験上、キレイな牧場は総合的に多くの要素で優秀な場合がほとんどです。衛生面に気を使っている経営者は、あらゆる場所や場面において、細部まで気を使っているように思います。

牛舎がキレイになれば、牛はさまざまな疾病にかかりにくくなります。さらに牧場で働く従業員の労働満足度が上がり、生乳の品質が向上し、いいことずくめです。そしてなによりも牛の生活環境を保全することは、生き物を飼う人間の責任でもあります。動物愛護が叫ばれる昨今において、重要な要素となってくるでしょう。

ところで「よい牧場」があるなら、「よくない牧場」ってどんなところだと思いますか? 「よくない牧場」。そんなものはありません。この世界には「よい牧場」と、「これからよくなろうとしている牧場」、2種類の牧場しかありません。メイプルファームもこれからよくなろうとしている牧場です。みんなでキレイな牧場を目指していきましょう。

キレイな水槽でキレイな水を飲ませる

かつてのメイプルファームは、場内衛生にほとんど気を使っていませんでした。その悪い例の1つが「牛が水を飲む水槽」です。牛は1日に100リットル以上の水を飲みます。1つの水槽に何頭もの牛が口をつけるので、唾液や口についた餌で水槽は当然汚れます。その水槽をほとんど洗っていなかったのです。
大量の水を欲するので、水槽が汚くても牛は我慢して飲みます。――いえ、我慢しているのかどうか、実際はわかりません。牛はしゃべることはできません。牛の気持ちを想像してあげることが、かつてのメイプルファームではできていませんでした。

改善のきっかけは、他の牧場を見学しているときに言われた、牧場主の一言でした。

「うちの牧場は毎日水槽を洗っているよ。自分の食器は毎回洗うだろ?」

その言葉を聞いて以来、メイプルファームではすべての水槽を毎日洗うようになりました。その言葉は心に深く響いたことを覚えています。牛も人も同じ生き物で、牛だから汚い水でも平気、ということはあり得ません。大切なことは自分ならどう感じるのか。その心かと思います。

水槽を掃除

毎日すべての水槽をブラシでこすって洗う

牛は泌乳量が増えるほどに飲水量も増えます。飲水量を制限することは乳生産の減少につながり、経済的な損失を招きます。しかし経済性の有無に関わらず、生命維持にとって最も重要な水を、キレイな状態で牛に飲ませることに疑問を挟む余地はないでしょう。

毎日の牧場清掃

メイプルファームでは日に3回搾乳を行い、その都度牛舎の清掃をします。普段牛がひしめく牛舎から牛がいなくなるので、その間に一気に掃除をします。大まかに作業を分けると、「ベッド清掃」「通路清掃」「敷料散布」「消毒散布」です。

ベッド清掃

牛が過ごすベッドの上の汚れをトンボのようなもので落とします。牛がベッドに寝たとき、乳房があたる部分が汚ければ、乳頭から雑菌が侵入し、「乳房炎」になってしまいます。乳房炎のほとんどが外部環境からやってきます。この掃除をしっかりやることが、乳房炎を減らす一番の近道です。

ベッドをトンボで掃除

通路清掃

通路にたまった汚れを重機で一気に押し出します。押し出されたふん尿はホイールローダーですくわれて、その後堆肥(たいひ)舎へ運搬されます。

スキッドローダーでフンを押し出す

ホイールローダーで大量のフンを一気に押し出す。前方のアタッチメントは大きなタイヤを半円に切った特注品

朝霧メイプルファームの牛舎は、牛をつながないフリーストール方式。普段の生活で牛は通路を自由に歩き回るので、足にはどうしても汚れがついてしまいます。その汚れた足でベッドに寝ると、結果的に乳房が汚れ、これまた乳房炎につながってしまうので、通路の清掃はとても重要です。

スキッドローダーが一直線にフンを押しているところ

敷料散布

牛舎から汚れが一掃されたら、新たな敷料を散布します。メイプルファームではおが粉をまきますが、牧場によっては堆肥やさまざまな副資材を利用します。そのサラサラと乾いたおが粉が、牛の体についた汚れを落とします。

タイヤショベルでおが粉を散布

ホイールローダーでおが粉を散布する

消毒散布

最後に環境中の雑菌を殺菌する目的で石灰をまいて終了です。

石灰をベッドにまく

ベッドに消毒のために石灰をまく

搾乳から帰ってきた牛たちはキレイな牛舎を見るとめちゃくちゃにはしゃぎます。興奮して走り回ります。私も洗いたてのシーツに交換されたベッドを目にすると、つい奇声を発しながらダイブしたりするので、きっと彼女たちも同じ気持ちなのでしょう。

掃除が完了した牛舎

掃除が完了した牛舎

掃除を継続するためのポイント

牛の健康にとって重要なことが牛舎清掃であれば、「搾乳施設の衛生管理」は人にとって大切な仕事です。キレイで安全な牛乳を飲んでもらうために、常にキレイな搾乳施設である必要があります。「常に」キレイな搾乳施設であるためには、掃除そのものを管理する総合的な環境整備が必要になってくると思います。ポイントは以下の3つです。
「掃除マニュアル作成」
「スケジュール管理」
「報告・記録の徹底」

掃除マニュアル作成

マニュアルがなかったころは、掃除の仕方は当然のようにバラバラでした。搾乳場は複雑な機械が数多く存在しています。一応清掃係はいたのですが、その人が独自のやり方で掃除をしていたので、ほかに代わる人は当然いませんでした。つまりその係以外の従業員が衛生状況を把握することも、改善する機会さえもなかったのです。

搾乳量を計測するカップ

搾乳量を計測するカップ。毎日ばらして洗浄する

マニュアルを作成さえしてしまえば、だれでも清掃を行うことができます。今ではすべての従業員が交代で清掃係につくようになっています。人が変わると、普段気がつかない故障や不具合に気がついたり、より効率的なやり方の提案ができたりするなど、さまざまないいことがあります。反面、人が変わることで引き継ぎが不十分だと、清掃を忘れることも起こりえます。そこで重要なことが次の2点になってきます。

スケジュール管理

かつては常に同じ係の人間が、目についた箇所の汚れを落とすことが通例でした。その結果、文字通り目についた場所しか清掃されず、目につかない場所、閉じられた場所などは一切掃除されていなかったのです。私の家を例にとっても、換気扇の内部はいつも油汚れでドロドロ、フィルターは得体の知れない色に染まっています。皆さんの家の換気扇の中も、きっと汚いですよね。この世に換気扇の中を常にキレイに保っている人間なんて、ほとんどいないと思いませんか? 私にはとても想像できません。

それを解決するためにはすべての掃除箇所の日程をあらかじめ決めてしまうことです。そこで活躍するのがネットカレンダーです。メイプルファームでは「LINE WORKS(ラインワークス)」 というアプリケーションを利用しています。ネットカレンダーのいいところは、一度頻度を決めてしまえば、未来永劫(えいごう)、延々とひたすら同じ頻度で通知をしてくれるところです。

ラインワークスのカレンダー画面

LINE WORKSのカレンダー画面。搾乳場で行う清掃があらかじめすべて決められている

毎日掃除する場所ばかりではなく、2週間に1度、3カ月に1度の頻度で掃除する場所も多くあると思います。掃除は一度にやろうと思わず、できるだけ分散することが重要です。
あなたの家も年末にまとめて大掃除をするのではなく、「偶数月は換気扇掃除」のように、予定を分散して通知させるのはいかがでしょうか。かくいう私もこの記事の執筆中に換気扇掃除の予定を入れました。

報告・記録の徹底

同時に、掃除をした事実を報告することも重要です。長いスパンのルーティンは、仮にその機会を逃してしまえば、さらにずっと先までやらなくなってしまいます。メイプルファームでは、これまた同じようにLINE WORKS上で清掃の実施報告をしています。ここで報告がないことから、担当以外の人が実施忘れに気がつく。そのようなことはよくあります。このシステムがなければ、やらなかった事実に気がつくことはできません。
私の家の換気扇も、12月中に必ず掃除をすることをここに誓います。その時は私の個人SNSで報告しますので、皆様監視の程、よろしくお願いします。

搾乳メンテナンスの実施報告をするトークグループ2

搾乳場メンテナンスの実施報告をするトークグループ

このような管理方法は、すべて「継続」することにつながっています。
「牧場をキレイにしよう!」
そのような前向きな意志は、長くは続かないものです。最初の高い志は徐々に薄れていき、やがて忘れてしまうのが人情ではないでしょうか。

まとめ

牧場をキレイにすることは牛の健康につながり、安心な牛乳につながります。乳房炎の牛が減ればそれだけ出荷する生乳量が増え、牛も長生きしてくれることでしょう。
同時に、キレイな牧場は「農家のイメージを守る自衛手段」でもあると思います。昔に比べネットが普及している昨今、消費者イメージはさらに重要な意味を持っています。さまざまな視点や考え方が牧場に向けられている今、いつどこを見られてもキレイな牧場を目指すことが、酪農のイメージアップにつながると思います。

誰だってキレイな環境で過ごしたいですよね。それは牛も同じだと思います。
ちょっとの前向きな意志と、それを継続する仕組みさえあれば、牧場はきっとキレイになります。そして、きっとあなたの家の換気扇もキレイになることでしょう。

想像してごらん。すべての家の換気扇がキレイな世界を。

牛が通路を走る写真

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