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「農家は作物より弁当を輸出しろ」 農業産出額トップの地域で異端児が考えること

山口 亮子

ライター:

「農家は作物より弁当を輸出しろ」 農業産出額トップの地域で異端児が考えること

愛知県田原市は、農業産出額が日本一で知られる。JA愛知みなみという販売取扱高が日本最大級の農協もある。その管内にあって農協に頼らない経営を40年続けるのが、有限会社新鮮組の代表取締役、岡本重明(おかもと・しげあき)さんだ。農政と農協を一刀両断する論客として知られ、「ビートたけしのTVタックル」といったテレビ番組に出演し、自著も出している。2019年に田原市議になり、政治家と農家の顔を併せ持つ岡本さんは、コロナ禍の今、何を考えるのか。

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生産者、加工分野まで攻め込む

「コロナ禍で、外食産業が大して日本の農産物を買い支えていなかったということが明らかになった。外食産業の景気が良くても悪くても、日本の農産物価格は変わらないんだよ。農家は単に原料の供給をするのではなく、弁当といった最終商品まで作るような経営にしないとダメだ」

新鮮組の本社に岡本さんを訪ねると、開口一番、刺激的な言葉が飛び出してきた。2020年の上半期は、コロナ禍による外食をはじめとする業務用需要の縮小で、農産物が余っていると話題になった。冬になって野菜が再び安値を付け、外食の冷え込みが一因ともされる。
一方、岡本さんは冬場の値崩れは、農林水産省の「高収益作物次期作支援交付金」も影響したとみる。「次期作に向けて、新たに機械・施設の整備や、資材等の購入又は発注を行った生産者」を対象に交付金を支給するため、これを当て込んで作付けを増やした農家が多かったと考えているのだ。
「外食産業は買い支えてくれない。都会の共働き家庭は、出来合いのものを買うことが多い。そういう中で、俺たちの作った国産農産物をどこが使うのかといったら、加工業者だ」(岡本さん)

ただ、食品業界は一般的に外食並み、あるいはそれ以上に、海外産の農産物に頼っている。加工食品の原料としては、価格の安さと安定的な調達の容易さで、輸入物に軍配が上がりがちだ。
「加工業者が国産の農産物にこだわっているかといったら、こだわっていない。だったら、俺たち生産者が、その分野に直接乗り込んじゃえっていう話」(岡本さん)
岡本さんは自ら生産した農産物の加工事業に参入しようと、準備している最中だ。目指すところは、よく言われる6次産業化とも、少し様相を異にしている。

農産物価格を何倍にも引き上げる秘密兵器とは

ここで新鮮組の経営を簡単に紹介したい。岡本さんは1979年に農業を継ぎ、切り花の生産と、田植えや稲刈りの耕作請負をするようになった。耕作請負の面積を年々増やし、93年に有限会社新鮮組として法人化した。愛知県内で1番目か2番目に設立された農業生産法人のはずだという。今では100ヘクタールの農地で生産するほか、田原市と静岡県浜松市で耕作請負をしており、13人の従業員を擁する。

手掛ける事業は、農業生産、耕作請負から資材の販売、栽培技術指導、コンサルタントまで幅広い。新鮮組はもともと田植えや稲刈りといった水稲の作業請負の拡大に伴って創業しており、コメの生産者というイメージで取材をしていたら「今、南国フルーツをいっぱいやっているよ」と言われ、驚かされた。

「バナナ、パパイヤ、マンゴー……。熟れる前のグリーンパパイヤ(青パパイヤ)で漬け物を開発してもらおうと、地元のおばあちゃんたちに配っている。田原はビニールハウスが多いけれど、高齢化が進んで、これから空いたハウスが増えていくんだ。移住者なんかがそういう農地に来ても、生産できる作物を企画したいと思ってね」(岡本さん)

田原市と言えば、市町村別の農業産出額が全国1位(2018年、農林水産省調べ)。それでも離農が進み、ハウスの空き物件が今後一気に出てくると予想されている。そこで、中国や東南アジアでの野菜やコメの生産といった海外事業を手掛けた経験を生かし、田原の気候に合ったバナナなどの種苗を輸入して、産地化しようとしている。「常春(とこはる)」と言われる温暖な渥美半島の気候を生かす試みだ。

とはいえ、岡本さんにとっては、南国フルーツ以上に重要なキーワードがある。農産物の価値を何倍にもする秘密兵器だという。それは、「おばあちゃんの手作り弁当」だ。

バナナなどが植えられた温室

バナナやパパイヤなどが植えられたハウス。空いていたハウスを活用している

地方は原料ではなく文化を売るべき

国は農業の成長戦略として、農産物の輸出を奨励してきた。が、岡本さんは、農産物を丸のまま輸出することに否定的だ。「同じ栽培システムで作れば、基本的に日本で作るのと同じようなものを、どこでも作ることができる」からだ。輸出するなら、生鮮物ではなく「文化だ」と話す。
「日本のおばあちゃんが作る和食には、よそではまねできない加工技術が詰まっている。全国津々浦々で特徴があって、同じ大根を漬け込むにしても、愛知のたくあんと秋田のいぶりがっこでは、全く違う。地方が生き残る道は何かって言ったら、弁当の輸出だって言っているんだよ」

岡本さんは、日本の地方は社会インフラの面で他国に比べ恵まれていると指摘する。電気は言うに及ばず、コールドチェーンまで整備されている。ふるさとの味を弁当にして急速冷凍し、都会に、ゆくゆくは海外に売っていく環境は整っているというのだ。

岡本重明さん

岡本重明さん。著書に「農協との『30年戦争』」(文藝春秋、2010年)、「田中八策(でんちゅうはっさく)日本の農業は世界で絶対に勝てる!」(光文社、2012年)など

「農家が農産物を原料として食品加工業者に納める時代は、終わらせないと、農業現場がやっていけない。加工は業者に任せるんじゃなく、地域で加工もすることで最終商品を自分たちの手で出していかないと」

そう話す岡本さんが引き合いに出したのが、新鮮組の生産の柱でもあるコメだ。2020年産米の相対取引価格は、全銘柄の平均で、20年11月時点で1俵(60キロ)当たり1万5010円(農林水産省調べ)。ここ4年でみると最低の値を付けているが、それでもしばしば「高い」と言われる。

「ただ、コンビニのおにぎりの重量は90グラムくらいで、しかも、炊飯時の加水でかさが増えている。コンビニのおにぎりの値段から米価を換算すると、1俵15~20万円くらいになる。飲食店でどんぶり1杯のごはんを200円で食べるとしても、1俵10万近くになるんだよ。生産の現場が1俵1万5000円で売っているのが、商品にすると、10万円で売ったとしても、今までの7倍近い売り上げになっちゃうわけだ」(岡本さん)

原料としての闘いだと、高いと言って買ってもらえないかもしれない。しかし、最終商品として売ることができれば、売価も利益も変わってくる。
「そういう闘いを、生産の現場がやっていく時代になっている」

こう未来を予想して、岡本さんは突き進んでいる。ハウスに案内してもらう道すがら、新鮮組の管理する畑を通ると、大根が葉を伸ばしていた。大根と言えば、今冬の値崩れの代表格だ。
「これは加工用の大根だから、間引きはしないんだ。市場の規格に合うように、手間をかけて作る必要もない。どうしたら経営として合うかということを考えて、作っているんだ」

田原市は、首都圏と京阪神という大都市圏の中間に位置し、日照時間が長く温暖という地理的条件に恵まれ、農産物の供給基地として栄えてきた。この場所から、岡本さんは新しい風を巻き起こそうとしている。

新鮮組

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