日本人初の国際土壌科学賞受賞者インタビュー「土は科学で哲学で生命そのもの」

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日本人初の国際土壌科学賞受賞者インタビュー「土は科学で哲学で生命そのもの」

山口 亮子

ライター:

日本人初の国際土壌科学賞受賞者インタビュー「土は科学で哲学で生命そのもの」
最終更新日:2021年01月20日

土壌学者で愛知大学国際コミュニケーション学部国際教養学科教授の小﨑隆(こさき・たかし)さんは、11月に開かれた米国土壌科学会2020年大会で、国際土壌科学賞を受賞した。国際的に土壌科学への顕著な貢献をした人に贈られる賞で、日本人では初の快挙だ。30年以上にわたりアフリカや中央アジア、東南アジアなど世界各地で土壌の管理を研究し、国際土壌科学連合という国際的な学術組織の会長も務めた小﨑さんに、これまでの研究と土について語ってもらった。

世界で土壌の劣化と修復・管理に向き合う

――これまでのどのような研究が評価されて受賞に至ったのでしょうか。

熱帯から亜寒帯、森林から砂漠まで、さまざまな生態系を対象に国際共同研究を展開したことが評価されたようです。「適地適作」という言葉がありますね。作物だけでなくて、環境も含めて、それぞれの土地ではどのような利用法が一番適切なのか。それをご提案するというのが、私がこの40年近くやってきたことなんです。

私は京都大学土壌学研究室の出身で、その4代目の教授を務めました。1960年代から、2代目の教授が東南アジアの研究を始め、3代目が現地をくまなく回って、コメの生産性を上げるための基礎調査をされました。東南アジアはどこへ行っても、先代と先々代のお名前が挙がって、「おまえなんかなんや」っていうもんです(笑)。それで、新しいテーマに取り組みたいと思っていました。

最初に行った海外は、先代の教授にご紹介いただいたアフリカで、1980年代前半に29歳からナイジェリアにある国際熱帯農業研究所で3年研究を行いました。ナイジェリアはモンスーン気候で、水田でコメを作ることができます。人口が増えていて、それをどう食料生産で支えるかが課題でした。もともとイモや雑穀の生産が多かったのですが、コメだと水分を多く含むイモと違って輸送の効率が良いので、より多くの人を養えます。コメの生産性を上げるために、どこに田んぼをひらくか、どういう問題が起こり得て、どう解決するかを研究していました。

――砂漠といった乾燥地の研究もしていますね。

1990年代の初めに、旧ソ連、今のカザフスタンを訪れ、農業利用で干上がってしまったアラル海周辺地域を研究するようになりました。砂漠でコメを作ろうとして、大規模灌漑(かんがい)を行っていたのです。乾燥地で不適切な灌漑を行うと、塩類集積という問題が起こります。土の中の栄養分が表面に上がってきて結晶化してしまい、それにより100万ヘクタールの農地が失われたと言われています。

前後して、西アフリカのニジェールで砂漠化の研究を始めました。砂漠化というのは、砂漠がどんどん広がるという意味ではなく、家畜を飼い過ぎて木や草が伸びなくなってはげ地になるとか、畑の使い方がひどく、土地の回復に非常に時間がかかったり、回復ができなくなったりして砂漠のように生産力を失った状態になることを言います。いわゆる土地劣化をテーマに、乾燥地を見てきました。

グローバル化の弊害は土にも

――国内だとどのような地域を研究していたのですか。

ナイジェリアから帰国後、帯広畜産大学に5年務め、十勝や根釧など道東地方の土壌を研究しました。肥料のやり過ぎによって、農耕地の土壌養分バランスが崩れたり、養分が川に流れ、釧路湿原などの生態系が人間によってかく乱されてしまう問題がありました。環境と生産性をいかに最適化するかに取り組みたいと思っていましたが、残念ながら5年では短すぎました。

――今は、畜産の集積が進み、排せつ物を液肥として使うスラリーや、堆肥(たいひ)の処理が課題になっていますね。

畜産由来の窒素の問題がありますね。畜産から出たものをやり過ぎると、窒素による表面水(地表水)や地下水の汚染のほか、余分な窒素が亜酸化窒素(N2O)ガスとして出てきます。温室効果ガスで量が最も多いのは炭酸ガス(CO2)ですが、N2Oはポテンシャルが非常に高く、CO2の温室効果の298倍とされます。N2Oは、量は少ないけれども、温暖化に大きく貢献していると言われていて、それをどのようにコントロールするかが課題です。

畜産だと、飼料を外国から輸入することが多いので、その土地の生態系で循環する以上の窒素が日本にたまっています。輸入飼料を家畜に食べさせ、それを我々が食べ、我々も排せつ物を出し、家畜も排せつ物を出しますから。日本の土は富栄養化し、逆に、飼料を輸出した国の窒素は減ります。グローバルに不均質化が進んでしまっているんですね。

たとえば飼料の原料になるトウモロコシだと、熱帯地域の国々から輸入するものもあります。そのような地域の土地は元来やせているところもあって、そういうところで輸出用のトウモロコシを作ると、土地が一層やせる。一方、日本の土地は、富栄養化で困る。その土地にある養分をそこで回すというのが、生態系の本来の姿なんですが、余分なものを入れたり、あったものをどこかに持っていったりして、養分格差が世界的に拡大している。それが今のグローバル化の、農学、土壌学から見た大きな問題の一つじゃないかと思っています。

――2015年は、世界的な土壌資源の保護のために国連が定めた「国際土壌年」でした。これに合わせて、一般向けにもさまざまな情報を発信していましたね。

その前の2013、14年に日本土壌肥料学会の会長を務めていたこともあり、また、日本は土に対する一般市民の認識も十分でないこともあって、なんとかしなければと思い活動しました。

――なぜ十分ではないのでしょうか。

日本土壌肥料学会には土壌教育委員会が常設されており、土壌教育についての現状把握と改善に取り組んでいますが、小学校から高校まで、土というものがまともな形で出てくる単元は、一つだったんです。これではいけないと、10年ほど前から文科省に、こういう単元を入れてくださいと要望し、2年ほど前にもう一つ増えました(苦笑)。終戦直後の昭和20年代は、土やコメの話は教科書に何十カ所も出ていたのが、高度経済成長期以降にどんどん削られてしまったんです。

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小﨑隆さんに贈られた国際土壌科学賞

土は科学で哲学で、生命そのもの

――小学校から高校までの間に、土の話に触れるのがたった2カ所とは少ないですね。

土壌学にはいろんな学問が関わってくるんですね。数学や化学などの自然科学はもちろん、経済学や法学といった社会科学、ひいては哲学までつながっていくので、ある一つの教科で教えるのは難しい。
環境問題は、土に関わって起こっていることが多いんです。地球温暖化は、空気の問題のように思われていますけれど、土から出ていった炭酸ガスも大きく関わっています。

病気も、土の中の菌やウイルスが原因であることも多いわけです。一方で、私たちがいつもお世話になる抗生物質も、もとを正せば、すべて土の中の微生物によるものであるわけです。土というのは非常に薄い層ですが、生命を育むだけではなく、私は生命そのものだと考えています。

ただ、土の中には水もあり、空気もあり、微生物もいて、はっきりした形で子供たちに教えるのはなかなか難しいですね。土は難しいからとブラックボックスとして扱われてきたのが、これまでの教育の歴史かなと。いろんなものが入っている、それが土なんだ、ビルを建てる地盤としてただ硬ければいいとか、そういうものではないと知っていただきたいですね。

――小﨑さんが海外で研究してきた砂漠化といった土地劣化は、今後、日本でも起こる可能性はあるのでしょうか。

国連砂漠化対処条約では、砂漠化は乾燥地、半乾燥地で起こる現象と定義されるので、それに従うと日本では存在しません。ただ、土の問題がないかというと、そうではなく、雨の多い地域は土壌侵食や養分の流亡(水により耕地から失われること)が起こります。ですから、それによる土壌の劣化の防止が必要です。土壌汚染にも気を付けなければなりません。温室効果ガスが土から出ている、ライフスタイルの変化で土中の養分が増えるといったことも、一般の方にはあまり理解されていないのが残念です。

――日本の都市はコンクリートやアスファルトできれいに舗装され過ぎて、土を感じる機会が少ない気がします。

私は愛知大学の名古屋キャンパス、名古屋駅から歩いてわずか10分のところにいるので、土をほとんど見ないと言う学生もいますね。一方で、1時間ほどかけて郊外から通学する学生は、生活の中に土があるというように状況は多様です。
土への理解を深めてもらうにはやはり教育が大切だと考えていて、土壌教育委員会は全国の各支部で、大学や試験研究機関、小学校から高校の教員と連携して、土に触れる機会を増やそうとしています。たとえば子供たちや親を対象とした土壌の観察会や高校生による研究発表会を毎年実施しています。

土壌保全のための法律を制定できないかとも考えています。土壌の保全を包括的に定める「土壌保全基本法」です。法律がある方が、行政もさまざまな行動をしやすいので。アメリカは1935年に土壌保全法を定めています。日本でも水の循環を定めた水循環基本法があります。土についても、基本法を定めて守っていきたいのです。このことは、多くの方と連携して推進していきたいと考えています。

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