農地コンサルティングや再生可能エネルギー事業を展開する「スマートブルー株式会社」が運営する「スマートブルー茅ヶ崎農場」は、ソーラーシェアリングと水耕栽培設備を組み合わせたICT農場です。レタス、赤茎水菜、カラシ菜、小松菜などを育てています。
ハウスの面積は468平方メートルで、遮光カーテンの自動開閉システムやアプリを使用した遠隔監視など、さまざまなスマート農業の技術を駆使しています。
管理しているのは、21歳の祐川友さん。
21歳という若さで農場を管理する祐川さんに、農業への思いなどを聞きました。
なぜ若くして農場を管理することになったのか
──21歳の農家はかなり若い方ですよね。就農したきっかけはなんでしょうか。
小さいころから農業がやりたかったんです。
3歳くらいのとき、父の実家が岩手県で農業をしていて、僕自身もジャガイモ掘りの体験をしたことがありました。そのとき、宝物を探しあてるようなすごく楽しい時間で……。楽しかった思い出をずっと覚えていたんです。
──農業は幼いころから目指していた憧れの職業だったんですね。夢をかなえるために、どんなことをしてきましたか。
小学校から中学校の頃は知り合いの農家さんのところに月1回ほどお手伝いに行っていました。
遊びに行く感覚で、草刈りや収穫などの農作業をずっと同じ農家さんのところでしていたんです。その後も農家になりたいという夢は変わらず、海老名市にある県立中央農業高校の野菜の生産を学ぶ生産技術科に進学しました。
──小学生の頃から月1回農業研修に行っているような感じですね! 一貫して農業を学び続けていて農業が本当に好きなんだな、ということが伝わってくるのですが、なぜスマートブルー茅ヶ崎農場を就農先として選んだのでしょうか。
「かながわ農業アカデミー」という農業大学校に進学し、野菜を栽培する実習をしたときに、実習先である知り合いの農家さんにスマートブルー株式会社の茅ヶ崎農場を紹介されたんです。ホームページで調べていく中で、スマート農業はこれから必ず伸びていくだろうと思いました。なにより、もともと好奇心が強かったこともあり、面白そうだなと感じて就職を決めました。
──紹介される前もスマート農業には興味があったんですか?
スマート農業というより、機械を使った農業がどんどん主流になってきている動きも見てきて、アグリテックに興味がありました。
実際に農業をはじめてみて、大変と感じた意外なこと
──実際にはじめてみて、思ったより大変だなと思ったことはありますか。
収穫量の多さですね。
──「なかなか収穫できない」ではなく、収穫量の多さ!?
はい。水耕栽培では周期の早い野菜作物を収穫することになるんですけど、見ての通り量が多いので……(苦笑)。
現状、僕一人でこの農場を運営しています。毎日、収穫作業になるとどれだけ時間を有効に活用するかを考え、スピードアップを追求しているところなんですが、まだ難しいなと思います。
この施設では季節を問わず年中収穫できることもあり、収穫量は安定するけれどもその分作業は大変だそうです。
──これまで小・中学校のときに農家さんを訪れたり、学校で多くの実習をこなしてきたとのことですが、一般的な農業とは違うスマート農業ならではのエピソードがあれば教えてください。まず、大変だったことは。
農場がオープンしたばかりの2020年9月は、機械のトラブルが頻発しました。そのときは会社の休日を問わず農場に出向いて点検等をする事もありました。野菜は苗によって適した環境が少しずつ違う自然のものなので、ちょっとしたトラブルも大きく影響します。会社勤めで休みが確定しているといっても対応しなければならず、順調にはいかないこともありました。
──反対に、良いなと思ったことはなんでしょうか。
これはいいな、と思うのは腰を使わないこと。野菜を支える棚である水耕ベッドの上で栽培されているためです。ご老人の方は収穫作業など腰を使う作業は大変だという方が多いので、その点は負担がかなり軽減されています。
──スマート農業の技術で実現させたい理想の農業はどのようなものでしょうか。
自分の目で見るだけではなくて、機械などで「これはもう出荷できる」と判断することができる技術が進んでほしいです。
やっぱり経験がものをいう業界ですので、初心者でもできるような技術が発展することが理想です。
障がい者や高齢者でも扱いやすく、力仕事をこなす体力があまりなくても農業ができる環境にしていきたいですね。
働く環境でいえば、僕は現在週休2日で18時頃に仕事が終わります。
近くの農家さんから、朝4時から夜11時ごろまで仕事をしているというお話も聞いているので、もっと茅ヶ崎農場にあるようなスマート農業の技術を普及させて、農業全体の労働時間を短くできたらなと思います。
あとは野菜の病気について、できるだけ分かるように更に機械化されていくとよいのかなと思いますね。
農業ってやっぱり楽しい!?
──これから農業を目指す他の若者に対して、農業の「意外とこんなところでつまずくんじゃないか」という点があれば教えてください。
一番苦労したというか難しかったのは、出荷したはいいものの商品が売れないこと。自分の中ではすごく良い出来だったとしても、「直売所で陳列されたときはどうなのか。お客さんがどう思うのか」という視点で見ると違うこともあります。
──売れないなという悩みはどのように克服したのでしょうか。
会社の先輩と一緒にJAの直売所「わいわい市寒川店」に行って、どういう荷姿のものが売れているのか、値段設定はどういうものが多いのか、あとはどういう陳列方法でよく売れているのかなどを観察して、荷姿や値段を変えていきました。その結果、徐々に改善されていきました。
──農業を楽しいと思うときは?
僕は農業自体が大好きな人間ですので、大変だと言っても収穫も大好きですし、育苗してから定植する作業も好きですし、あとは種から芽がでた瞬間なんてとてもうれしいですね。
──本当に好きなことを仕事にしているわけですね! これからしてみたいことは何ですか?
完全に一人で栽培全般を見られるようになること。
その先にはもう1個ハウスを建てて、そこでも責任者になれるような人になりたいです!
将来は、露地野菜の作物も栽培したいと思っています。広大な農地で栽培したいですね!
農業界にも機械化の流れが生まれています。実際に成功している農家さんは広い場所で機械化を導入している方が多いので、僕もそれを肌で感じて、やってみたいと思います。
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スマート農業の知識や経験を持ち、農業をこよなく愛する祐川さん。規模が大きい農業への展望を、キラキラした目で語ってくれました。