そもそもトラクターって何?
トラクターとは、けん引する農機具のことです。トラクター自体が農作業をするわけではなく、トラクターに作業機と呼ばれる機械を取り付けることで、トラクターを使っていろんな農作業ができるという仕組みです。この作業機にはいくつかの種類があり、それぞれ用途が異なります。トラクターを買おうと思ったら、トラクターを使ってどんな作業をしたいかをまず考えなければなりません。
またトラクターには馬力と呼ばれる単位があって、10〜170馬力ほどの開きがあり、農地の広さ、地質、作物などを考慮して選びます。
トラクターでできること
トラクターを使ってできることはとても幅広いってご存じでしたか? 用途に合わせて作業機を付け替えることで、トラクターひとつあれば大抵の農作業をカバーすることができます。トラクターをどんな用途で使うかを決めると、そろえる作業機もおのずと決まってくるでしょう。
トラクターでできる代表的なことをいくつかピックアップしてみます。
耕起
トラクターといえば土を耕しているところを想像する人が多いかもしれません。耕すには、ロータリーと呼ばれる作業機を使います。複数の爪がついた耕運軸を回転させ、田んぼや畑の土を切り刻み、空気を含ませながらほぐしていきます。
消毒
トラクターで広い農地を満遍なく消毒することもできます。消毒に使う作業機はブームスプレイヤー。田んぼや畑の消毒や除草のための薬剤を、幅広く効率的に散布します。薬剤散布は夏に行うことが多いため、暑い夏の重労働を快適にすることが可能です。
施肥
肥料散布のためにはライムソワーという作業機をチョイス。もともとは石灰などの粉状の肥料を散布するための機械として一般的でしたが、最近は粒状の肥料の散布としても使われるようになりました。広大な農地に均一に肥料をまくことができます。
収穫
収穫や伐採もトラクターを使って効率アップを図りましょう。使用する作業機はハーベスターです。ジャガイモ、麦、サツマイモ、ネギなどそれぞれに対応したハーベスターがあります。
播種(はしゅ)
種まきもトラクターを使えば全ての種を均等な深さ、幅でまくことが可能になり、作物の高品質化が実現します。その作業機である播種機にもいくつか種類があるため、作物の種に合わせて適切なものを選びましょう。
草刈り
広大な農地の草刈りや、太くて硬い茎葉などを切り刻む際にもトラクターが力を発揮します。ハンマーナイフモアと呼ばれる作業機の中にある刃を回転させることにより、手ごわい草木を刈っていきます。
除雪
雪が降る地域では必要な除雪もトラクターでできます。道路、農道はもちろん、農作業に邪魔なところの雪を取り除きます。
トラクターの単位「馬力」とは?
トラクターのパワーを示す単位には、仕事率・効率を表す馬力が使われます。よく1馬力は馬1頭分と表現されますが、正しくは、1馬力は約75キロのものを1秒間に1メートル動かす仕事率と定義されています。1馬力増えるごとにこれだけのパワーが上がっていくということです。
トラクターは10馬力のような小型のものから、170馬力といった大型のものまで幅広く、数字が大きくなればなるほどパワーは大きくなります。もちろん馬力が大きくなれば価格帯も上がるため、ハイスペックな機能がついていることも。
しかし、パワーがあって高額だからいいというわけでもなければ、小さくて安いからだめだ、ということでも決してありません。大切なことは、自分の農地の状態、場所、広さ、地域の気候条件や、作る作物に合ったものを選ぶことです。
馬力が大きい方がいい土質
同じ広さでも、粘着質の土質とそうではない土質では選ぶ馬力は異なります。粘り気の強い土の場合は土をほぐすのにパワーが必要で、馬力が小さいとエンストを起こしてしまうことも。そのためさらさらとした土で使うトラクターよりも5馬力ほど大きなトラクターを選ぶとよいでしょう。
ポピュラーな馬力は25〜35
トラクターの中では25〜35馬力が一番一般的だと言われています。現在最も使われているのがこのあたりで、需要も高い分、各メーカーが多くのラインアップをそろえています。そのため豊富な種類の中から選ぶことができるのもメリットのひとつです。
25〜35馬力あれば重い作業機をつけた状態で、粘着質の土壌を耕すだけのパワーも十分に備わっているので安心です。
新規就農者がトラクターを選ぶコツ
新規就農者の皆さんがトラクターを選ぶ際に必要なことは、自分がどんな作物を作るかをしっかり定めることです。農業はやりたいけどまだ作るものは決まっていない……という段階で、とりあえず必要だからトラクターを買う、ということは避けましょう。なぜならどんな作物を作るかによって選ぶトラクターは変わってくるからです。
順番としては、農地が決まって土壌の状態を知り、作物を決めて、トラクターを使って何をしたいのかを考え、トラクターを選ぶという流れになります。
近くの農家へ足を運んでみよう
どんなトラクターを選んだらいいか分からないという人は、同じエリアで農業を営む農家さんを訪ねてみるのもオススメです。同じ土質で農業を営む人が実際に使っているトラクターを教えてもらうことで、どんな馬力のものを購入すべきかなど、生のリアルな声を知ることができます。それはこれから皆さんが農業を営む上でもとっても実りのあることです。困ったら近所の農家さんにいろいろ質問してみましょう。
中古トラクターから始めてみよう
農作物を育てたら必ず順調に育つというわけではありません。失敗することもあるだろうし、もしかしたら違う作物を育てようと方向転換することも珍しい話ではありません。特に新規就農者が、農業にチャレンジする際、軌道に乗るまでは紆余曲折、さまざまな挫折はつきものです。
だからこそ、初期投資の段階で新品の高価な農機具をそろえるよりも、ある程度のめどがつくまでは中古農機具で様子を見ることをオススメします。そして、しっかり基盤ができて、農作物も定まり、収入面でも安定してきた段階で、新品を買うのがベター。トラクターはとても高額ですが長く使えるものなので、新品を買っても十分に価値がある代物。ただしできるだけリスクを減らした状態で購入しましょう。
迷ったらグレード内で高い馬力を選ぼう
メーカーは、幅広くある馬力のトラクターを、馬力ごとに複数のグレードに分けていることが多いです。例えば13〜17馬力のグレード、18〜25馬力のグレードといったような分け方です。このグレードが変わると価格がぐんと上がり、17馬力と18馬力でたった1馬力しか変わらないのにグレードをまたいだため何十万円と高額になることもあります。つまり、同じグレード内で最も高いものを選ぶことは、より高い馬力のものを安く買う方法でもあるのです。
実機を見るにはどこに行けばいい?
実際にトラクターを買う前に、実機を見ることも大切です。農機具を扱う専門店に行けば、いろんなトラクターを見ることができると思われるかもしれませんが、実はそうではないのです。先述の通り、トラクターはとても種類が豊富です。馬力も幅広く、1馬力ごとに刻まれていることもあり、どんな大きな農機具店にもすべてのラインアップを並べることは不可能です。では一体どこに行けばいろんな実機を見ることができるのでしょうか?
展示会に行く
そこでとても便利なのが展示会です。各メーカーは定期的に各地で展示会を開いています。展示会では豊富な種類の実機に触れることができるだけでなく、スペシャリストの話が聞けるのもメリットです。
販売店で実機を用意してもらう
販売店に相談して、メーカーから実機を持ってきてもらうことも可能です。この場合、購入したいグレードや馬力が定まっていた方がよりいいでしょう。よく分からないという人は、農地の状態や作りたい作物、農地の広さなどをスタッフに相談してみましょう。
自分でできるトラクターのメンテナンス
さてここからは、トラクターを購入した後のメンテナンスについてです。トラクターはとても高額な農機具ですが、20年、30年と長く使うことができます。また自動車よりも価値が下がる速度が緩やかなので、売ることで買い替えのための資金も作れます。しかしそのためには保管状況に気をつけ、自分でできる範囲で日々メンテナンスを心がけましょう。
保管状況を見直す
田畑にトラクターを置きっぱなしにしている場合はすぐにやめましょう。特に、ブルーシートをかけて放置することが一番良くありません。というのも、地面からの熱が上昇し、ブルーシートの中で湿気が充満してしまうからです。屋内でなくてもいいので、屋根があり、風通しの良いところで保管しましょう。
代表的なメンテナンス
使ったあとの泥汚れなどは、できるだけその日のうちに洗い落としましょう。清掃をすることで清潔に保てるだけでなく、部品の故障や欠陥を発見しやすくなるメリットもあります。
エンジンオイルの交換や、冷却水、バッテリー液の量のチェックもして、減っていたら補充しましょう。
タイヤはひび割れが発生したら交換の時期です。見落とさないように小まめに確認することをオススメします。
プロに点検を依頼する
農機具は自動車のように車検が義務付けられているわけではないので、自分で管理しているという人がほとんどかもしれません。しかしプロの整備士にメンテナンスしてもらうことで、より長く、そして安心して農作業に集中することができます。古くなったトラクターを使っているという人は、一度点検に出してみるといいですね。
トラクターで作業効率アップを目指そう
トラクターがあれば、農作業のほとんどを網羅することができます。これから始めたい農業は一体どんなことなのか、何を育てたいのか、また農地の状態はどんな感じなのかをしっかりと見極め、自分に合ったトラクターを選びましょう。適切な農機具を選ぶことは、農業の基本です。正しく取り入れて、作業効率アップを目指しましょう。