「物価の優等生」卵はなぜいつも同じ値段なのか――採卵養鶏の実際を知る(上)

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「物価の優等生」卵はなぜいつも同じ値段なのか――採卵養鶏の実際を知る(上)

「物価の優等生」卵はなぜいつも同じ値段なのか――採卵養鶏の実際を知る(上)
最終更新日:2021年02月12日

スーパーでしょっちゅう特売の対象になり、いつも値段がほとんど変わらない卵。その実、卸売価格はのこぎりの歯のように変動している。そもそも季節によってニワトリが卵を産む量は変わるし、おでんやクリスマスケーキといった季節商材による需要の変動も大きい。それなのになぜ同じ値段で買えるのか。業界構造、生産調整のしくみから、大手が絡んだ汚職疑惑まで解説する。

卸売価格はのこぎりの歯のように変動

日々の食事に欠かせない卵は、日本の農産物には珍しく、国産が96%(農林水産省調べ。2019年度、重量ベース)という高い自給率を誇る。輸入の9割が加工用の原料になる粉卵(卵黄粉、卵白粉など)のため、スーパーなどで消費者が手にする卵は基本的に国産だ。「物価の優等生」と呼ばれるように、小売価格はほとんど変わらず、毎年の消費量も安定している。

卵が一定の価格で安定的にスーパーに並ぶことは、消費者にとって、当たり前になっている。しかし、採卵鶏は生き物であり、卵を産む量は一定ではないという当然のことと、季節により需要が変わることを考え合わせれば、その当然がかなり不自然なものだと気づいていただけるのではないだろうか。

採卵鶏は、季節によって卵を産む量が変わる。夏の高温や冬の気温の低下は、生産量を減らす。加えて、生産者による飼養羽数の増減も、生産量に影響する。
一方の需要はというと、冬場はおでんやすき焼き、クリスマスケーキなどの季節商材によって増えるが、夏場には減る。ファストフードチェーンで秋になると登場する「月見バーガー」といった卵を挟んだハンバーガーも、需要を増やす。

価格の変動には、毎年の季節的な需給変動を受けた季節変動と、数年を周期とする「エッグサイクル」があるとされる。毎年の季節変動は、夏場のあまり需要がない時期に向かって卸売価格が下がり、年末の需要期に向けて上がる。エッグサイクルとは簡単にいえば、卸売価格が高いと養鶏業者が羽数を増やすため、供給が増えて価格が低迷し、結果、羽数を抑えて再び価格が上がるという繰り返しのことだ。

卵の生産調整が汚職の引き金に?

毎年の価格変動に加え、2020年はコロナ禍による需要の変化が大きかった。「巣ごもり需要」で量販店の卵パックの需要が増え、4月には「標準取引価格(※)」が19年を大きく上回った。しかし緊急事態宣言後、業務用、加工用の需要が大幅に減り、同月20日以降に価格は下落した。これを受けて、5月18日には日本養鶏協会による生産調整が発動している。

※ 標準取引価格は、JA全農たまごの東京及び大阪のSS~LLサイズ(6規格)の加重平均価格

鶏卵の標準取引価格(日ごと)の推移。横軸の数字が「月.日」(出典:農林水産省「畜産・酪農をめぐる情勢 令和3年1月」)

コメと違い、卵の生産調整は一般にあまり知られてこなかった。吉川貴盛(よしかわ・たかもり)元農相が鶏卵生産大手のアキタフーズ(広島県福山市)から、生産調整に絡んで現金を受け取ったとして在宅起訴された事件で、多少注目を浴びた程度だ。ただ、この疑惑にしても、アニマルウェルフェアばかり取り上げられ、生産調整の方は放置された感がある。

卵の生産調整は、1970年に始まったコメの生産調整、いわゆる減反政策から遅れること4年の74年に、本格的に始まった。採卵養鶏でも、供給過剰に陥っていたからだ。この辺りの歴史的な経緯の説明は次回に譲り、現状のしくみを紹介する。

現在の生産調整は「鶏卵生産者経営安定対策事業」という。鶏卵の価格が基準となる価格を下回った場合、基準価格との差額の9割を補填(ほてん)する。価格がさらに下がると、“更新”のために鶏舎を空ける期間を長くした場合に、奨励金を払うという二段構えだ。更新というのは、卵を産む適期を過ぎたと判断されたニワトリを肉用に出荷し、空いた鶏舎に新たなニワトリを入れることをいい、この際に鶏舎を長く空けることで卵の供給を抑え価格を安定させる。2020年度の事業予算は約52億円で、21年度も同様の予算が付く。

鶏卵生産者経営安定対策事業の概要(出典:農林水産省「畜産・酪農をめぐる情勢 令和3年1月」)

なお、20年度に大規模生産者の損失補填を拡充したり(※)、奨励金を増額したりする制度変更があった。これに吉川元農相の現金受領が影響していると、東京地検特捜部は見立てているようだ。
※ 19年度まで、成鶏更新・空舎延長事業が発動している間は、10万羽以上の規模層に補填が行われなかった。

2割の大規模事業者が8割近い採卵鶏を飼う

卵のイメージに反して、全然ほんわかしない話が続いて恐縮だが、この汚職疑惑では、アキタフーズの所有する豪華クルーザーで、政治家や官僚を接待したともされる。養鶏業者が、豪華クルーザーを持つという事実に、戸惑う人がいるかもしれない。業界構造の話をすると、養鶏は畜産で最も集約が進んでいる。一部の業者が巨大化しているのだ。アキタフーズもその一つで、グループで飼育するニワトリは700万羽、売り上げは700億円近いという。

採卵養鶏を営む戸数は、小規模層を中心に年4~6%ほど減っている。大規模化が進んでおり、全体の17.1%である10万羽以上を飼う事業者が、76%を飼育する。生産費や流通費を削減する方向で激しい競争が行われた結果、大規模な企業的経営が主流になっているのだ。

採卵養鶏で生産原価に占める割合が高いのが、飼料だ。生産業者にとっての不安要素に、飼料価格がトウモロコシの豊凶や為替レートにより変動しやすいことが挙げられる。飼料を安く仕入れるうえで、規模の大きい事業者が有利なのは言うまでもない。

卵の流通は、生産業者がまず「GPセンター」という卵の選別包装施設に出荷する。そこから、全農あるいは民間の鶏卵問屋を介して、小売店や加工業者などに届けられる。生産業者の販売額は相場で決まるため、原価割れしてしまうこともある。生産する卵のブランド力が高いか、独自の販路を持たない限り、小規模業者には厳しい環境といえる。
なお、採卵鶏の飼養羽数は減少傾向だったが、2014年以降、増加傾向にある。そもそも、なぜ、これほどの規模拡大が進んだのだろう。このことは次回、解説したい。(続く)

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