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土壌の「人間ドック」とは?(下) 土質は“使われ方”で変化する

山口 亮子

ライター:

連載企画:連続講義 土を語る

土壌の「人間ドック」とは?(下) 土質は“使われ方”で変化する

農研機構 農業環境変動研究センター 環境情報基盤研究領域 土壌資源評価ユニットの上級研究員、前島勇治(まえじま・ゆうじ)さんは、全国の土壌を調査してきた。「土壌診断が人間でいう定期健康診断だとしたら、土壌断面調査は、頭のてっぺんから足のつま先までを総合的にみる『人間ドック』」という。今回は、調査の結果何が分かるのか、どこが調査しているのか、また調査ができる人材が減る一方で、必要性は高まっていることなどを語ってもらう。

土壌断面調査は農家さんにも有用

■前島勇治さんプロフィール

プロフィール写真 博士(農学)。1999年筑波大学大学院農学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、東京大学原子力研究総合センター タンデム加速器研究部門 研究機関研究員などを経て、農研機構 農業環境変動研究センター 環境情報基盤研究領域 土壌資源評価ユニット 上級研究員。

――土壌断面を見ることで、具体的にどんなことが分かったり、生産に反映できたりするのでしょうか。

並べている土壌モノリス(土壌断面標本)の右から4番目は、琵琶湖の干拓地から採取した、グライ低地土と呼ばれる土壌です。グライ層というのは、排水不良のために常に地下水位が高く、土が水につかって酸欠状態になり、土に含まれる鉄が青みを持つように変化するために、青っぽい色になります。グライ層は根の生育の障害になります。

各地の土壌モノリス

各地の土壌モノリス

土にジピリジル試薬という薬品をかければ、どこまでの深さが常に水でひたひたになっていて、酸欠状態のグライ層なのか、分かります。そうすると、地下水位を下げるために暗渠(あんきょ)、つまり地下水路を掘る、表層でもグライ層が出る場合は明渠(めいきょ)、つまり排水溝を掘るといった対策で、作物の生育に使える土層を広げることができます。

この土壌モノリスの左隣は、静岡県でもともと栗園として使っていた農地で採取しました。近隣の火山から噴き出した軽石が何度も積もっていたため、作土(耕土)層が上の黒っぽい部分にしかありません。野菜を作ってもうまくいかないし、栗もうまく生育しなかったそうです。栗の根が、下に向かって伸びることができず、横方向に伸びているのが分かりますね。調査をしてみて、農家さんは「ここで何か作るにしても、栗はダメだな」と納得していました。今は休耕畑にしています。

農家さんの土づくりの努力がよく表れているのが、右から2番目の、白ネギとお米を作っている鳥取県の田畑輪換(※)農地です。この農家さんは40年以上プラウ(下層の土と表土を反転させ耕す農機具)をかけ、石ころを取り除き、牛ふん堆肥(たいひ)を入れて土づくりに取り組んできました。その結果、作土は石ころをほとんど含まず、団粒構造が発達していて、農機の踏圧でできる硬い耕盤層まで含めると、作土の厚さが45センチに達しています。2008年に農林水産大臣が「地力増進基本指針」で定めた作土の厚さの改善目標は、水田で15センチ以上、普通畑で25センチ以上なので、土づくりの効果が見てとれます。

このように土壌断面調査は、農家さんにとっても、有用な情報を提供できると思います。特徴的な土壌モノリスを並べて、この地域の土壌と比べてどうかと解説すると、農家さんの食いつきがいいですね。「次はうちの田んぼや畑を掘ってみてくれないか」という、我々にとって非常にうれしい話が飛び込んできたりします。

※ 同じ農地で水稲作と畑作を周期的に転換して行う(輪作する)こと。

土壌モノリス

同じ土でも、使い方によって質は変わっていく。いずれも琵琶湖の干拓農地から採ったグライ低地土だが、稲、麦、大豆の輪作をしている右の農地の方が、構造(粒子同士がくっついた塊)が発達している

前編を読む
土壌の「人間ドック」とは?(上) 日本の農地の成り立ちと今
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土壌の調査というと、どんなものが思い浮かぶだろうか。畑の数カ所から作土(耕土)を採取して行う土壌診断が、最もなじみがあると思う。農研機構 農業環境変動研究センター 環境情報基盤研究領域 土壌資源評価ユニットの上級研究員、前…

大規模化、省力化で重要性を増す深さ方向の情報

――土壌診断だと、請け負う業者がいろいろありますね。土壌断面調査はどこがやっているのですか。

都道府県の農業試験場の研究員や農業普及指導員に、できる人がいると思います。本来、各県には土壌調査のエキスパート――この土地のことはこの人に聞けば何でもわかるという人――がたくさんいたんです。でも、そういう人たちがリタイアしてしまい、ノウハウがうまく引き継がれていない地域もあって、最近、土壌断面調査のための講師をしてほしいという依頼が増えています。土壌断面を見るにしても、今後のより良い土づくりに向けた最終的な判断ができる人材が減っていると感じます。土壌断面調査の技術を次の世代に引き継ぐためにも、調査ができる農業普及指導員や民間コンサルタントの人材育成が必要です。

――スマート農業が注目される中、土壌に関する技術はあってもまだ限られているような印象があります。スマート農業で土を扱う難しさや可能性を感じていたら、教えてください。

ドローンなどを使ったリモート・センシング技術により、大規模圃場(ほじょう)内の土壌の種類の偏在性、つまり土壌ムラを面的に把握できるようになってきました。これに深さ方向の情報を加え、3次元的に圃場内の土壌ムラを把握できれば、ピンポイントで施肥量を増減する可変施肥といった栽培管理技術を組み合わせて生産性を安定させ、コストの削減や農作物の生育ムラの改善、そして環境にやさしい農業につながるのではないでしょうか。

深さ方向の情報というのは、重要性を増していると感じます。というのも、圃場の大規模化で、機械が大型化しています。加えて、省力化のために深く耕さなくなっていて、これは作土の「浅耕化」といって、作土をどんどん薄くしてしまいます。ロータリー耕だけを続け、しかも下層には農機の重さがずっとボディーブローのように加わって、下層土の圧密(土の体積の収縮)を引き起こすのです。

それが顕在化すると、耕盤層が硬く緻密になり、透水性、排水性、通気性が阻害されて湿害や病虫害にも侵されやすくなります。サブソイラ(耕盤層を破砕する機械)による心土(作土の下層)破砕といったことも必要ではないでしょうか。今の時代は、作土だけを採ってきて調べて、これだけ肥料を入れればいいですよというやり方だけでは、土の問題を解決できなくなってきていると感じます。

土地改変によって、人間の影響を強く受けた土、造成土が増えてきています。造成土は、有機物や養分に乏しい下層土が露出したり、大型機械で締め固める転圧で緻密化したりすることが多いのです。畑地として利用すると、根を伸ばす範囲である根域が狭くなる場合があります。土壌の通気性が悪くなると、酸欠になって、根腐れを引き起こします。

丘陵地や干拓地では、酸素に触れると強酸性を示す堆積(たいせき)物や土壌が現れることがあります。そういう強酸性を示す堆積物を客土してしまうと、植物が生育できない不毛の土地になってしまいます。客土をする際には、事前に客土する土のpHを最低限測定すべきです。

農研機構の敷地内の土で制作した約6メートルのジャイアント・モノリスと前島さん。一番手前は12万5000年前に海底だった層で、手前から2番目の印の部分に、7万年前に火山の噴出物で形成された層がある。その奥に鬼怒川の氾濫で運ばれた土砂の層があり、その奥が黒ボク土。農研機構 農業環境インベントリー展示館で

ワイナリーや直売所に土壌モノリスが

――土壌診断は国内よりも海外で活発にされていると聞きます。土壌断面調査は、海外では進んでいるのでしょうか。

日本とさほど変わらないと思います。最近よく聞くのは、ワイナリーの中に、自分たちのブドウ園の農地はこういう成り立ちで、こういう土だと消費者に説明して、そのうえでワインを楽しんでもらいたいと考えるところが増えていると。欧米では土壌モノリスを飾っているワイナリーもあります。
実は国内でも、長野県でワイナリーの依頼を受けて土壌断面調査をするというので、この間、土壌モノリスの取り方を現地で指導してきました。県内のワイナリーから、ブドウ園の土がワインの味にも影響するかもしれないから、土の標本をつくってみたいと依頼があるそうなんですね。

――その土地の風土がワインに凝縮されるという「テロワール」の考え方を体現するものとして、土壌モノリスが使われるのですね。

茨城県鉾田市のサツマイモを作っている農家さんが、土に非常に関心が高く、干し芋や焼き芋を販売する直売所に、こういう土からとれたサツマイモですと分かるように土壌モノリスを飾っています。土をかなり意識して栽培している農家さんは、増えつつあるんじゃないかなと感じます。
ちなみに、日本でよく使われる「土づくり」という言葉は、欧米諸国でそれに相当する言葉を聞いたことがありません。国土が狭いため、限られた土地で、そこにある土を大切に扱うという国民性の表れかもしれず、海外にもっと発信してよい考えだと思います。

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