腰高に設置された栽培ベッドと2液式自動灌水システムで作業負担を軽減
高齢化・人手不足が進む中、新規就農が求められているものの、農作業の肉体的負担、土壌管理の困難さ等、就農の阻害要因は一つ二つではありません。中でも露地栽培は足腰への負担、土壌との格闘、農器具によるケガなど3K(きつい、きたない、きけん)職場とも言われており、営農を断念されるケースもあるでしょう。
こうした負担を解消する栽培設備として注目を集めているのが、東レ建設株式会社の砂栽培農業施設「トレファーム®」です。トレファームでは腰高に設置されたベッドに砂を敷き詰め作物を植え付けます。栽培ベッドは建設仮設資材を架台として応用しています。
また、トレファーム専用液肥『トレミネックスTypeA』、『トレミネックスTypeB』を用いた、スマホで遠隔操作可能な2液式自動灌水システムを実装しており、従来の砂栽培と一線を画した液肥管理を実現。農作業の作業負荷と土づくりの面倒さが大幅に軽減できるといいます。
建設会社の営業部長が脱サラして農業へ【新規就農者の導入事例】
トレファームの可能性を信じていた
2014年にトレファームを取り入れたのが、千葉県君津市の株式会社グリーンファームかずさです。同社代表の大島靜男(おおしま・しずお)さんは東レ建設の元社員で、在職中は営業部長としてトレファームも担当していました。
65歳の定年退職を2年後に控えた時にトレファームの可能性を信じ早期退職。退職金を使ってハウスを建てて、トレファームで葉物野菜の生産を始めました。
試行錯誤の末、栽培法を確立
しかしながら、導入当初は決して順調と言えるものではありませんでした。大島さんがこう続けます。
「当時、農業についての概要は勉強しましたが、思うように野菜を生産できませんでした。液肥管理が原因であると気づくのに時間がかかりました」
それでも持ち前のチャレンジ精神を生かして、大島さんは試行錯誤を繰り返し、野菜それぞれに最適な施肥設計を見出していきました。すると従来の土耕や水耕での栽培にはなかった効果があらわれてきました。
「水耕栽培用のフリルレタスをトレファームで栽培すると根張りが良くなり作物の品質が向上しました。しっかりとしたレタスが安定的に収穫できるようになりましたね」と大島さんは話します。
ブランド化し販路を開拓。人気商品に
「高品質な葉物野菜が採れても、販路はイチから自分で開拓していく必要がありました。近隣のレストランを回っては試食用の野菜を置いていくと『パクチーは生産できないか』等の相談が舞い込むようになり、リピーターさんがつくような商品になりました」
さらに大島さんが取り組んだのはオリジナルブランドの確立です。生産するフリルレタスは一般的な品種ですが、砂栽培で生産することで品質や棚持ちが向上したため、『クリスピーフリル』の名称で商標登録。
高品質な野菜はファンも多く、地元の直売所では最も高値で販売されるほか、各地のレストランから請われて野菜を生産しているといいます。
25歳で家業の農業を継承【都市型兼業農家の導入事例】
「たのしく、楽に」のキャッチコピーに惹かれて
大島さんの農園を見学して、トレファームの導入を決めたのが、神奈川県川崎市中原区の住宅街で葉物野菜を生産している和田祐征(わだ・ひろまさ)さん(34歳)です。
一般企業に就職するも、両親が高齢化してきたこともあり、家に戻って家業の農業を継ぐことにしました。以来、都市型兼業農家として露地栽培で葉物野菜の生産に取り組んでいます。
和田さんは農業の魅力を感じるようになり拡大したいと考える一方、介護や子育てなど家族との時間も確保するため、自分の心と体に余裕が持てる農業を目指すことにしました。近年のゲリラ豪雨時などの水はけの問題からビニールハウスでの土耕栽培は無理だと考えました。一時は水耕栽培を検討するも、水耕栽培で採算が合う十分な農地を確保できる環境ではなかったことに加えて、ランニングコストも懸念材料になりました。
そんな時、インターネットでトレファームの存在を知り、「たのしく、楽に」のキャッチコピーに惹かれて、グリーンファームかずさを訪問。大島さんが生産するクリスピーフリルを試食して、そのシャキッとした食感から、トレファームは自分の考えに適していると直感して導入を決めたといいます。
土耕に比べて作業時間は3分の1程度
「まだ試験的にコマツナを栽培しているだけですが、大島さんのクリスピーフリル同様、シャキッとした食感のコマツナが収穫できているので手ごたえを感じています。これまでの土耕と比べて作業時間が3分の1程度で短縮できているのもありがたいですね」
しっかり根を張っているとはいえ、植わっているのは砂ですから簡単に抜き取り、速やかに収穫することができます。施設栽培でIoTを活用した作業は単純化されており、作業時間を短くできたのでしょう。
「トレファームは消費する電気や肥料が少なく、地域や環境との調和も考えていかなければならない今の時代に合った栽培方法だと思います。砂培地ではいろいろな作物が栽培できるため、導入農家によって栽培作物が異なり、営農として十分確立していない部分もありますが、これから砂栽培で自分に合った作物を作る研究もしていきたいです」と和田さんは今後の抱負を話してくれました。
誰でも高品質な野菜を作れるように…
大島さんが培われている最適な自動灌水の設定は、東レ建設と共有されており、作物ごとに最適な液肥と水の灌水量の配合が開発されているため、経験の浅い生産者や新規就農を始める方でもいろいろな野菜を安心して作付けできるようになっているといいます。
「トレファームは成長中の栽培技術で、まだまだ可能性を引き出せると思います。導入した農家がそれぞれに施肥設計を工夫すれば、さらに高品質な作物を生産できるでしょう。ですから、創意工夫で独自の栽培法にトライする農家さんにはお勧めしたいですね。私もまだまだいろんなことにチャレンジしていきたいと思っています」と大島さん。
「トレファームは土耕栽培の良さと養液栽培の良さを併せ持った栽培方法です。東京農業大学の峯教授に栽培指導を頂いております。新規就農者でも取り組みやすく、2018年に導入いただいた日本郵便様は、高糖度トマト『さやまる』を翌年から販売開始されています。基本の作業が楽な分、皆さんそれぞれに創意工夫する余裕が生まれるのだと思います」と東レ建設トレファーム事業推進室の小倉次長は話します。
農作業の負担の重さを軽減したい中高年はもちろん、露地栽培との補完経営を考えられる農家さんも、トレファームの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
【取材協力】
グリーンファームかずさ
和田農園
日本郵便 さやまるプロジェクト
【お問い合わせ先】
東レ建設株式会社 トレファーム事業推進室
〒103-0023 東京都中央区日本橋本町1-6-5 ツカモトビル9F
TEL03-5205-3867
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