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宝塚男役から花農家に ‟ダリアジェンヌ”になった理由と地域活性への思い

宝塚男役から花農家に ‟ダリアジェンヌ”になった理由と地域活性への思い

兵庫県宝塚市の最北部にある上佐曽利(かみさそり)。「ダリアの里」として知られる農村地区で、約10軒のダリア農家が年間約60万球のダリアの球根を出荷し、一球根生産地として日本一を誇る。
この土地で生まれたダリア農家3代目元タカラジェンヌの梓晴輝(あずさ・はるき)さんは、地域をPRする広告塔として、SNS、ブログ配信や、セミナーを開催している。なぜ、華やかな舞台の世界から農業界にきたのか。地域活性化のためにしている取り組みについて聞いた。

なぜタカラジェンヌからダリア農家になったのか

あのとき応援してくれた故郷に「恩返しがしたい」 踏み入れたのは福祉の世界

梓さんは17歳で宝塚音楽学校に入学。19歳の時に第90期生として宝塚歌劇団の雪組に配属される。宝塚の名物ともいえる大作ミュージカル「エリザベート」で憧れの役に抜擢されるなど、男役として宝塚生活を満喫していた。しかし、母親がガンになったことをきっかけに、舞台を続けるべきか迷うようになる。「万が一のときに、舞台を選べない自分がいる、このままでは後悔するかもしれない」そう感じた梓さんは、尊敬する上級生の卒業公演であったことにも縁を感じ、退団を決意した。

退団時の梓さん

退団時の梓さん。今は亡き祖父が手掛けたダリアの花を持って。

退団後は母の体調が落ち着いてきたこともあり、タカラジェンヌだった頃はブランドイメージのためにトイレットペーパーを買って街中を歩くこともはばかられたが、久しぶりに人目を気にしない生活をしたいと思い立ち上京。いざ、何かを始めようと思い動いたのが、‟宝塚時代から好きで取り組んでいたメイク”を学ぶための専門学校入学だった。だが、学校パンフレットを取り寄せてみてもしっくりとこない。さてどうしようか悩んでいるときに、実家の祖父母から旬の野菜がよく届いていたことを思い出した。旬の食材をたくさん食べて欲しいという思いやりが詰まったダンボール箱を見て、宝塚音楽学校に合格したときに「初めて村からタカラジェンヌが出た」と喜んでくれ、公演をたくさん観にきてくれた人たちに「自分は何も恩返しができていない」と感じた。応援してくれた故郷にいる人々への恩返し、そして家族もみてあげたいと、福祉の世界に興味を持った。メイクの専門学校を調べていたときとは違い、介護士の専門学校調べは面白くて仕方がなかった。

介護士として働き始めると、早朝からデイケア、夕方から訪問介護に3件行くという毎日を過ごした。職業柄、壮絶な環境で暮らす人を目の当たりにして、まだまだ自分は無知であると未熟さを感じることは多々あったが、宝塚で培った忍耐力や男役として娘役を持ち上げる「リフト」をしながら踊っていた経験が功を奏し、仕事内容は全く苦ではなかった。

故郷を元気にしたい、農業に目を向けよう

いつかは家業のダリア農家を継ぐのかなとは思いつつ介護の仕事に夢中になっていた梓さんは、結婚を機に帰郷した後ももう少し介護士を続けようと思っていた。そんなとき、数年ぶりにダリアの出荷作業などを行う作業場に行くことになった。そこで久しぶりに足を踏み入れた懐かしの作業場の現状に大きな衝撃を受けた。かつては、多くの人々が列を成して作業をするにぎやかな作業場だったが、小さい作業台で数人が作業を手伝いにきている状態。高齢化が進みどんどん人が引退していくのに対して、新しく働き始める人が少ないために人手不足が進んでいた。この20年間の大きな変化に気付けていなかったことにショックを受け、なんとかしたいという思いから、梓さんはダリア産業に携わるようになった。
今メインでダリア栽培をしているのは梓さんの父親で、梓さんは農業学校には通わず、父の背中を見て農作業を学んでいる。ちなみに1番好きな農作業は草むしりだという。

ダリア畑

農作業後、不思議なことに肌のきめ細かさがアップしているように思うことがあり、冬など寒い時期の冷気のおかげかと不思議に思っていたが、農家の先輩に話したところ、土のバクテリアの影響ではないか、という意見をもらった。
「農業にはそんなうれしい効果もあるのかな?と思いながらやっています」とツヤツヤした肌で語ってくれた。

ダリアの商品化、最初は孤独な闘いだった

そんな風に農作業も楽しみつつ、梓さんが始めたのはダリアの商品化。ダリアの球根を無添加の化粧品やハーブティーに活用したのだ。

ダリア化粧品

この6次産業化は、地元にお土産もアンテナショップもなく観光面がとても弱かったため、宝塚土産をつくることを目的として開始した。
商品化を始めたもう一つの理由は、廃棄される球根の量の多さ。1株につく発芽点には限りがあり、切り分けて出荷作業をしていく中で、どうしても芽が出ない球根が出てくる。商品にならず大量に廃棄される球根をみた梓さんが「これはどうするの?」と聞くとダリア農家たちから「捨てるだけや」という答えが返ってきた。

球根

「素人から見ても絶対加工品に活用した方がいい。加工品をつくって収益をあげたら地域の農家が潤う」という梓さんの主張に対して返ってきた言葉が、「誰がすんねん」。その返答は当たり前ともいえる状況だった。納期に追われるほどの人手不足で、花の栽培・出荷に手一杯だったのだ。
しかし、諦めきれなかった梓さんは自ら商品開発費を出し、一人で赤字を抱えて実績をつくる道を選んだ。PR商品をつくり、なんとか地域を盛り上げたいという思いで始めたが、第一線で作業に奮闘している農家からするとその活動は理解しがたいものだった。

「地域とダリアの魅力を伝えるため表に立ち、タカラジェンヌから農家になったというギャップの面白さから目立つことも多く、広告塔としては正解だったんですけど、『もう少しおとなしくしてほしい』と言われてしまう場面もありました。でも、おとなしくしていたら本当に過疎が進んでしまう」(梓さん)

そんなジレンマにある中、次々と取材オファーが舞い込む日々の中で、あるテレビ局からダリア園のナビゲーターとして出演するようオファーがくる。もちろん、梓さんはダリア園の宣伝に貢献できるならと、引き受けた。しかし撮影当日、ダリア園でカメラを回している最中に取材を中断させられてしまう。現場から梓さんの活動が理解されていない証だった。梓さんがメインで発信しているのはオンライン。どれだけ地域の現状について外部に伝える活動をしていても、ネットに弱いと言われる世代が多い環境では、梓さんが何をしているのか知ってもらえない。何をしているのか知らないうえに多く新聞・テレビに出る姿を見て、「PR活動なのかもしれないが、自身を売り込みたいだけなのでは」と捉えられてしまうこともあったようだ。

「自分の活動を、一番近くにいる本当に守りたい人たちが知らなくって。現場の状況を教えてほしくても教えてもらえない。観光を推進するためにもっと人を呼びたくて、こんなイベントどう? 企画はどう?と提案しても、大変だからやめて、と却下されるばかりの時期もありました」と振り返る梓さん。だが、発信し続けたことにより応援してくれる人も徐々に増えていった。町の議会で話題になったり、投稿を見た人が「梓さんは本当に地域をなんとかしたいという思いで活動している」と、理解のない人たちに伝えてくれたこともあった。テレビでも一貫して「地域が」ということを発信し続けたことによって、今は良い距離感とバランスがとれていると梓さんは明るく笑う。最初は孤独な状況にあったが、多くの人の応援を励みに進んできたようだ。

ところで気になるのは、度々話に出てきている「発信」。梓晴輝流の工夫についても聞いた。

ポジティブな発信、販路開拓

発信するうえでの工夫

ブログを見ても、インスタグラムを見ても、ツイッターを見ても、とてもポジティブな内容の投稿ばかり。キラキラしていて魅力的に見える。
「入口をたくさん設けるようにしています」と梓さんは話す。ここでいう入口は、SNSやブログなどの流入口だけではなく、梓さん自身の人間の入口を広く持つということだ。

たとえばそれは宝塚が好きな人、ダリアが好きな人、故郷・地域を愛する人など、さまざまな入口になっておきたいという思いがある。そのため、発信内容も商品のことだけに限らず地域やまちづくりについて、そして宝塚の仲間の話など商品に関わること以外も話題にする。「すべての環境が私を育ててくれていると思っているので、発信し続けることはやっていますね」(梓さん)

宝塚歌劇団OGでマルシェを開催

2021年の3月上旬に宝塚阪急百貨店で、元タカラジェンヌによるマルシェが開催された。すでに何度も開催されている人気イベントだ。
まずはじめに梓さんが経営する株式会社ダリアジェンヌに声がかかり、ダリアの加工品を掲げて出店した。出店が続く中、幸先のいい結果が出たため百貨店側に、元タカラジェンヌのクリエイターが多くいることを伝え、複数人を集めてイベントを開催することを提案した。どのように販売するかなどについて百貨店側と何度も打合せを重ね、『タカラジェンヌOGマルシェ』というイベント名で立ち上げに至った。結果、2020年に同百貨店で行った催事のなかで、売上高第2位の業績を誇ることができた。

マルシェ

一緒に出店した元タカラジェンヌたち。

新規就農者や加工業を始めたばかりの人に、打ち当たった壁は何かと聞くと大半の人が「売り先を探すのが大変だった」と答える。だが、梓さんは販路開拓に特に困ったことはないという。
梓さんは「多くの方に見られるのは、自己プロデュース力がないケース。『この商品良いんだよ!買って買って!』と言っても、良い商品はほかにも山ほどある。良い物であることは大前提で、売り方ですよね」と話す。梓さんは自分が武器。自分を商品として、どうプロデュースしてパフォーマンスするのかを考えて、販売してきた。

「たくさんの個人事業主さんとお話ししてきましたが、これを売って目立って何か言われたらどうしようとか、要らない心配ばかりなんです。自己プロデュース力が無いうえにリスクばかりを恐れる理由は、商品に自信はあるが自分に自信がないという、自分の価値を低く見積もり過ぎが原因だと思います。その人が本来持っている魅力っていっぱいあるのに、みんな全然気付いていない。もったいないです!その無いと思ってしまっているものを教えてあげられるのが私の強みだなと」梓さんは目を輝かせる。
この自分の強みを生かせれば地域活性化に繋がると考え、コンサルティング業も始めた。

ダリア

地域の活性化は、経済がまわらないと叶わない。人がいても何も生産できず、仕事が無ければ若者は離れてしまう。特産物があってお金になるということが分かれば、興味を持ってもらえるかもしれない。あえてしんどい環境に飛び込む人は少ないだろうし、家庭を持っている若者世代であればなおさらである。
「人々は基本的にニーズのあるところに行きたがります。だから地域経済を回すしかない。そのためには成功している生産者や起業家を増やすのが1番だと思っています。コンサルティングで事業主さんを後押ししたいです」
後ろ向きに考えてしまう人を前に前に進んでもらえるようにサポートしている。梓さんは、終始、自身の商品のPRよりも地域を活性化したいという思いについて語っていた。

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日本の農家の将来性に目を向け、農業法人を設立したのが、バングラディシュ出身のミヤさんです。農家にとって負担となりかねない、作物の袋詰めや加工から流通までを請け負う、彼の戦略や展望とは何なのでしょうか?

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