「半農半X漫画」が伝える “都会オワコン” “田舎万歳”を超えた人生の選択肢

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「半農半X漫画」が伝える “都会オワコン” “田舎万歳”を超えた人生の選択肢

「半農半X漫画」が伝える “都会オワコン” “田舎万歳”を超えた人生の選択肢
最終更新日:2021年05月10日

田舎暮らしとは、異世界転生だ――。激務に疲れた漫画編集者が東京を脱出、行きついた‟半農半X“という生き方を描く「漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件」(「イブニング」(講談社)で連載中、以下「イナイセ」)。物語は、原作者のクマガエさんの実体験をベースにしている。4月下旬の1巻発売を機に、「農ライフ」に舵を切った理由などを聞いた。

激務に疲れた主人公が田舎暮らし!実体験がベースに

大手出版社の漫画編集者・佐熊陽平(さくま・ようへい)は、徹夜・連勤は当たり前、馬車馬のごとく働く仕事中心の生活に疲れ切っていた。渋谷区のマンションで新婚生活を始めるも、家にはほぼ寝に帰るだけ。入社以来13年間担当していた雑誌の休刊を機に、佐熊は人生を見つめ直す。

会社や上司の決定は絶対、働く部署も選べない会社員とは、実は思っていたより不自由な存在なのではないか――。佐熊の心が向かった先は、都心で生活する身には“異世界”の田んぼだった。週末に通いながら、次第に農的暮らしに憧れを募らせる。日々の糧を自分の手で作り、自然に囲まれた穏やかな日常。しかし、勝ち取るまでには数多の試練や決断の瞬間(とき)が用意されていて……。

出世街道を突き進む同期への羨望を抱きながらも、世間で一般に求められるステイタスや甲斐性など様々な既存の価値観から脱却し、自らの生きる道を選ぼうとする佐熊。その姿に自らを重ねる人も多いのではないだろうか。

物語は原作者であるクマガエさん夫婦の実体験をベースにしている。クマガエさんは千葉県匝瑳市への移住を経て、現在は「都会と田舎の中間地点」(クマガエさん)に住んでいる。そこで約7アールの田畑でコメと20種類の野菜を作りながら、漫画原作者やフリーの編集者としても活動中。自給のための農業をしながら、別の生業から収入を得る「半農半X」としての暮らしの実情を聞いた。

――クマガエさんご自身が「半農半X」に向かったきっかけとは?

30代前半の頃に関わっていた雑誌が休刊になって燃え尽き、会社を辞めたというのは漫画の通りです。

元々農業には全くと言っていいほど興味がなかったのですが、ひょっとして自分は会社員に向いていないのではと思い始めたころ、映画館で「ハッピー・リトル・アイランド」というドキュメンタリー映画を見ました。ギリシャの経済危機をきっかけに若者たちが都会から離島へ移住し、自給自足的な生活をする、という内容だったのですが、実は観る前は陽気なギリシャ映画だと勘違いしていました(笑)。映画の後にあったトークイベントで、半農半Xを推進している高坂勝さんのお話を聞いて、有機農業と農的暮らしに興味を持ちました。

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週末に埼玉や千葉、神奈川で農作業体験をしながら、少しずつ農的暮らしに移行していき、千葉県匝瑳市にある古民家を間借りすることになりました。貯金もあまりなかったので、4LDKで1万円という家賃は理想的だったのですが、湿気が多くて鞄や靴がカビて使えなくなってしまったり、土間に行く度にゴキブリと遭遇したりと、都会育ちの自分たちにはなかなかハードな住環境でした。

妻の体調面の理由もあり、2カ月半でエアコンなど慣れ親しんだ設備があるマンションに引っ越すことに決めました。田舎暮らしの良さを知ったので東京にはもう戻れなくなり、「都会と田舎のはざま」のような場所を探して、いまの住まいに再移住しました。当時匝瑳市にあった田んぼにも通える距離かつ都内へのアクセスも良く、自分たちにとってちょうどいいバランスを保てる場所だったんです。

一般的な田舎暮らしのイメージを覆す、「田舎と都会のはざま」での暮らし

大地から食べ物をダイレクトに受け取る。半農半Xの魅力とは

――半農半Xの魅力はどんなところにありますか?
漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件1
食べ物を自分で作れるという安心感が一番ですね。会社員のころは、お金を貰って食べ物に変えることで安心感を得ていました。会社ではなく土や自然に依存する生き方に変わり、大地からダイレクトに食べ物を受け取れるという安心感は、言葉では表現しづらいですが、一回知ってしまうとやめられないものです。去年は初めて460キロのコメを共同で収穫でき感無量でした。そして改めて農家さんに尊敬と感謝を覚えました。

――半農半Xに向いている人、向いていない人とは?
農作業を楽しめる人は向いていると思います。向いていないのは、消費行動が活発な人ですね。収入と支出を減らして営むのが、半農半Xの暮らしなので。

佐熊は草取りで「涅槃の境地」に達した

――編集者のお仕事と農業の共通点とは?
編集者の仕事の一つに、新人の漫画家さんを育成する仕事があります。粗削りだけど才能のある、ダイヤの原石のような人に寄り添ってアドバイスをしながら、一緒に成長しつつ漫画雑誌での連載化を目指す…というのが、醍醐味です。小さい苗を植えて気に掛けて、世話をするという田んぼでの作業にも共通点を感じました。

「イナイセ」の作画を担当してくれた宮澤ひしを先生は40歳の新人漫画家ですが、担当編集者さんに初めて絵を見せてもらった時に一目惚れしました。宮澤先生は生き物や自然が大好きな方で、自然の描写がリアルで美しく、温かみもあるんです。作品との相性が本当に良かったなと思っています。田植えにも来て下さいました。

イナイセ

イネなどの動植物が緻密に描かれている

――読者からの反応で印象的なものは?
移住を検討している人からは、「こんな生き方があったのか」と。すでに移住した人も、とても共感してくれて、「これは俺の物語だ」「最初のころのキラキラした気持ちを思い出した」なんて言ってくれました。米作りに興味を持ってくれた方もいて、うれしかったですね。

度々佐熊と読者に与えられる、美しい自然からの「ご褒美」シーンは鳥肌もの

やはり甘くない「ナリワイ」探し

――田舎暮らしの「キレイごと」を敢えて描いている点が新鮮です。とはいえ、主人公たちに新たな試練は訪れるのでしょうか?
そうですね、自分自身も周りの移住も、半農半Xの「X」を見つけるのに苦労してきました。最初はみんなナリワイを見つけることに燃えるのですが、生計を立てられる形にするのは結構大変です。

会社を辞めてから半年ほどで、サラリーマン時代の経歴を活かしてフリーランスの漫画編集者に転向することになりました。昨年、縁あってお会いしたイブニングの編集長に「田舎暮らし漫画をやりませんか?」と提案してもらい、漫画原作者という3足目のワラジを履いて今に至ります。漫画では「頑張らない農ライフ」を掲げていながらも、実際は結構がむしゃらです。

ずっとサラリーマンだった人が収入面で何の準備もなく、会社を辞めていきなり限界集落に移住するといった行動はリスクが大きいと思います。いきなり会社を辞めるのではなく、まずは週末に田舎に通ってみるとか、都会の職場にもぎりぎり通える地域に引っ越すとか、段階を踏みながら田舎暮らしに移行することをおすすめします。農業体験の募集はSNSなどで探すと結構見つかります。

「生きる選択肢」を広げたい

――どんな人に読んでもらいたいですか?また、漫画を通して伝えたいこととは?
「こうしなくてはならない」と思い込んで、息苦しさを感じている人に読んでもらいたいですね。たとえば「お金がないと生きていけない」、「高い家賃を払ってでも、都会にいないと仕事ができない」など。思い込みの「べき論」でがんじがらめになっている、かつての自分のような人たちが「こんな暮らしもあるんだ」と知って、気持ちを軽くしてくれればうれしいです。

「自分は都会暮らしの方が向いている」と思う人は、もちろんそれでいい。「都会はオワコン」、「田舎万歳」以外にも無限の選択肢があります。
「イナイセ」が、いつか本当に苦しいときに思い出してもらえるセーフティーネットのような存在になり、誰かの「生き方の選択肢」を広げるきっかけになれればいいなと思います。

***
移住や新規就農を希望して、周囲に打ち明けても「そんな甘いもんじゃないよ」とピシャリと門戸を閉ざされた人も少なくないだろう。実体験によるリアルと「ゆるさ」の加減が絶妙な「イナイセ」のページを手繰る度に、窮屈な二元論から解き放たれていく。クマガエさんが身体を張って発信するメッセージは、新しい生活様式とともに生きる多くの人に届き、その余韻は心に棲みつくはずだ。

2021年4月23日(火)に第1巻が発売。第1話は2021年4月現在、下記のリンクから無料で読める。‟異世界転生“への第一歩を踏み出してみては。

第1話を読む

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画像提供:クマガエ
🄫クマガエ/宮澤ひしを 講談社

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