ドライバーの時間外労働時間の上限が年960時間に
「現状の物流体制は3年後にはほぼアウト」。JA全農おおいたが物流の中継拠点として2019年6月に開設した、大分青果センターのセンター長・須股慶一(すまた・けいいち)さんはこう打ち明ける。先行きに不安を感じているのは「2024年問題」があるためだ。
労働基準法の改正により物流業界では2024年4月1日以降、ドライバーの時間外労働時間の上限が年間960時間に規制される。月平均の規制はないが、ひと月あたりで考えるとおよそ80時間の計算だ。物流業者は違反すれば、「6カ月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」が科せられる。
この事態に大分県のJAが何より困るのは、現状の物流体制では最大の消費地である関西地方で「3日目販売」ができなくなることだ。
前回紹介した通り、JA全農おおいたは県内の全4JAが農家から集荷した青果物を大分青果センターに入庫し、12時間以上かけて冷やし込む。さらにトラックに積んで関西地方の卸売市場で売買取引が成立するまで3日間で済むようなコールドチェーンを構築している。これが2024年4月1日には成り立たなくなる。その理由を詳しくみていきたい。
現状のままだと2024年以降は「4日目販売」
長距離ドライバーが大分青果センターから荷物を運び出すのは午前10時から正午にかけて。ただ、彼ら彼女らにとってはこの時が始業ではない。
大分県は夏秋野菜の産地。この時期にはドライバーが佐賀県や熊本県から加勢に来る。彼ら彼女らは同センターに到着した時点ですでに2、3時間走っている。このため1日目に到達できるのは「せいぜい山口県まで」(須股さん)。
卸売市場での取引形態の大半は相対取引が占める。仲卸や買参人が産地からの荷物を受け取る限界は日付が変わる前後だという。
卸先が1カ所だけならこの時間帯に間に合う。ただ、実際には2、3カ所になることがほとんど。「荷物を降ろすのに待ち時間含めて1カ所当たり数時間かかるのはざら。そうなると2、3カ所目は荷渡しができず、翌日に持ち越しになる」(須股さん)。つまり現状の仕組みでは「4日目販売」になってしまうのだ。青果物は大分青果センターで12時間以上かけて予冷しているものの、4日目までその品質を保てるかといえば、須股さんは「正直分からない」と打ち明ける。
「モーダルシフト」や卸先を絞ることを検討
では、JA全農おおいたは「2024年問題」をどうやって乗り越えようというのか。須股さんが最初に口にしたのは、1台のトラックに乗車するドライバーを現状の1人から2人に増やしてもらうこと。1人が運転しているあいだはもう1人は休憩できるので、1日の移動距離が延びる。つまり関西地方に早く着ける。ただ、これは単純に運賃の大幅な値上がりを招く。そもそも全国的にドライバーが不足している中、「やはり現実的ではない」と訂正した。
続いて挙げたのは、輸送手段を陸上輸送から別の手段に変更する「モーダルシフト」。大分青果センターの近くだと別府港と西大分港から関西地方に出航するフェリーがある。それぞれ大阪南港と神戸六甲港に向かう。
実際にJA全農おおいたは庫内を低温状態に保てる「冷蔵ウイングトレーラー」を3台購入。ドライバーは乗船せずにトレーラーだけを海上輸送することも始める。パレットの積載枚数は10トン車が16枚なのに対し、トレーラーは22枚と積載量が多くなるのは利点だ。ただ、海上輸送の場合は陸上輸送よりも時間がかかり、これまた「4日目販売」となってしまう。「3日目販売」に間に合わせるには、現状、予冷する時間を減らすしかない。ただ、それで品質が保てるかどうかは品目別にあらためて検討する必要が生じる。
須股さんがもう一つ挙げたのは関西地方での卸先を毎回1カ所に絞ることだ。ただ、大分青果センターに産地から集まって来る荷物をすべて売り切れなくなる恐れがある。関西地方に代わって近隣の卸売市場に卸せば、値崩れを起こすだけ。こちらも「現実的ではない」(須股さん)。
つまりJA全農おおいたでは「2024年問題」への対策としていくつかの案が浮かんでいるものの、決定打がないのが正直なところである。
JA全農おおいたは「2024年問題」の打開に向けてJAグループ大分や物流業者などと協議するという。九州地方の他県の動向含めて今後の物流改革を注視したい。