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販路拡大のカギは地域内流通 強みをいかす直売チームの挑戦

販路拡大のカギは地域内流通 強みをいかす直売チームの挑戦

神戸市西区にある「ヤスオ農園」の安尾憲太郎(やすお・けんたろう)さん(42歳)。専業農家の6代目で、主にトマトを生産しています。7年ほど前、近隣の農家と直売チーム「神戸スターズ」を結成し、市内の飲食店から注目を集めるようになりました。現在は、各農家から集荷した野菜、米、肉、卵を、自ら飲食店へ週2回配達。多くのシェフから信頼を寄せられています。農園を訪ね、お話を伺いました。

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人気野菜、珍しい野菜にシフトした6代目

天然酵母の地ワイン

トマトの他にも年間約20種の野菜を生産。こちらの「甘長(あまなが)とうがらし」は夏の人気商品だそう

──安尾さんは6代目とのことですが、ヤスオ農園の歴史を教えてください。

話は江戸時代までさかのぼりますが、ヤスオ農園のある岩岡という地区に近隣の人々が開拓民として移り住み、その中の一人が安尾家の初代だったと親族から聞いています。当時から米と野菜を作っていて、現在の主品目であるトマト生産をはじめたのは父の代からです。

──安尾さんご自身は会社勤めなどはせず、ずっと農業を?

子供の頃から農業を継ぐと決めていましたので、岡山大学農学部を卒業してすぐに実家で就農しました。まずは企業に就職しようかと悩んだ時もありましたけれど、農業をやるなら早くから経験を積み重ねることが重要だと思い、就農を選びました。

──主品目はトマトですよね。ヤスオ農園の「王様トマト」が人気だと噂を聞きました。

私が生産している王様トマトというのは、品種名ではなくブランド名なんです。サカタのタネが開発した肉質のしっかりした品種を、樹上で十分に赤く熟させてからもぎとったものを王様トマトと呼びます。通常、市場に流通させるトマトは日持ちをよくするために青みが残るものを収穫するのですが、王様トマトになる品種は実が崩れにくく、熟してから収穫するんです。

天然酵母の地ワイン

味が良いうえに、飲食店やご自宅で保管しても傷みにくいのが利点で、人気が上がりました。口コミでじわじわと評判が広がったようで、昨年あたりから一般のお客さまの問い合わせも増えました。ホームページを見て、直接農園に買いに来られる人もいます。噂を聞いたという近所のスーパーマーケットのバイヤーさんが畑に来られて、今年から新たな取引もはじまりました。

ヤスオ農園では、トマトの他にも年間約20品種の野菜を生産しています。作っているのは、甘長とうがらしや空心菜といった近年人気が上がっている食材や、アイスプラントや紫バジル、アーティチョークなどの珍しい野菜です。これらは、飲食店からの要望で作っているものが多いですね。

シェフの元へ野菜を直送! 「神戸スターズ便」とは

神戸スターズ便

東急ハンズ三宮店で毎月末に2日間のマルシェを開催。右から2番目が安尾さん

──出荷先はどういったところになりますか。

飲食店は約30店舗ほどと取り引きしています。他にも、地域のスーパーマーケット、買い取りの産直ショップなどにも出荷していますが、最も受注が多いのは飲食店です。
飲食店さんとのつながりができたきっかけは、2013年から神戸市内の東急ハンズでマルシェをはじめたことでした。農業高校時代の先輩から一緒に出店しないかと声をかけていただき、数人の農家を集めて野菜や卵などを販売しているんです。そのメンバーが直売チーム「神戸スターズ」です。そこに飲食店のシェフが野菜を買いに来たのが、最初の出会いでした。神戸スターズの所属メンバーは当初は数人でしたが、現在は20軒ほどになります。

──マルシェをきっかけに、飲食店さんとの取り引きが拡大していったのですね。

レストランとしては、顔の見える生産者から新鮮な食材が買える、流通していない野菜が手に入るというのは魅力なんだそうです。シェフと話が進んで、定期的に配達をしてほしいという依頼があり、毎週火曜日と金曜日に私が直接飲食店に食材を配達する「神戸スターズ便」が発足しました。2014年から現在も続いています。

何も分からないままスタートしたものの、シェフ同士の口コミで神戸スターズ便の存在が知れ渡り、配達してくれるなら参加したいと言う飲食店が増えていきました。さらに2015年にヤスオ農園の王様トマトが農林水産大臣賞を受賞し、その実績を評価してくれるシェフも多かったです。

神戸スターズ便

中華料理の人気食材でもある空心菜。「どんどん伸びて収穫が追い付かない」と安尾さん

──神戸スターズ便について、詳しく教えてください。

毎回配達している飲食店は10店舗ほどです。約10軒の農家から、野菜、果物、米、卵、肉を集荷し、まとめて配達しています。集荷については、数軒は私が回って、他の農家はヤスオ農園まで届けてくれます。

受注に関しては、事前に私から飲食店へFAXで発注書を送り、注文を受けています。事務作業や配達のための人件費の捻出が難しく、人手が足りないのですが、家族や従業員でなんとか回している状況です。それでも、毎回シェフと顔を合わせて話をすると信頼関係が深まりますし、そこでの情報交換が農業経営上でも欠かせないものになっています。

──シェフからはどんな情報を得て、どのように経営に役立てているのですか。

飲食店で必要な食材は何かを聞いています。レストランが必要としていても市場に流通していない野菜がありますので、そういったものは積極的に生産品目に加えています。当園だと紫バジル、フルーツピーマンなどです。また、どんな野菜がはやっているのか、消費者の動向も聞き出しています。
情報は神戸スターズで共有して、他のメンバーに新たな品目の生産を依頼する場合もあります。レストランから重宝される流通ルートを目指し、メンバー全体でバランスよく品目を網羅するようにしています。

新たな時代の販路と後継者問題

神戸スターズ便

ハウスで育てているアーティチョーク。植えっぱなしでいいのだとか!

──時代を経て家族農業を営んできたヤスオ農園として、今後の農業経営をどう考えていますか。

私が懸念しているのは後継者問題です。我が家には子供が3人いますが、進路がどうなるか分からないですし、無理に継がせるのも違うと思いますし。長い間、私と妻の家族経営で運営してきましたが、今は組織化を念頭に置き、昨年からは研修生を受け入れています。繁忙期にはパートさん数人を雇っていますが、人数を増やすことも検討中です。

──なぜ組織化を? 農業法人ということですか。

実は、農業の新規参入者数は増えているのですが、長く続けられないのが現実なんです。ゼロからの新規参入ですと、投資の負担がのしかかります。組織なら、農地や道具、ノウハウがそろっている分、そこまでの負担はありません。まだ少しずつではありますが、新規就農者に来てもらえる土台作りを進めているところです。

──なるほど。家族農業の形も時代に合わせて変える必要があるのですね。

雇用のためには、それだけの売り上げを維持する必要があります。従来のような市場出荷や、価格の安定しない直売所だけでは不安定です。そういった事情からも、神戸スターズ便は新たな販路形態として強みになると思っています。

この地域でも、後継者不足に不安を募らせる高齢の農家が増えています。農業を魅力ある仕事として、後世に残す産業にしたいですね。

ヤスオ農園

ヤスオ農園

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