私たちの食生活を反映するエコフィード
「自分たちの作るエコフィードの質を証明したい、おいしいブタを育てたいと、養豚を始めました。食欲の下がる夏場も食いつきが良いし、肉質の良さも評価してもらっています」
食品リサイクルを手掛ける環境テクシス(愛知県豊川市)代表取締役の高橋慶(たかはし・けい)さんはこう語る。養豚のために作った関連会社リンネファームは、200頭を飼う。
環境テクシスがリサイクルしたり、リサイクルを仲介したりする食品残渣は、年間約1万5000トンにのぼる。常時約20種類の食品残渣を扱っていて、取り扱い実績は100種類以上にもなる。主に飼料にしており、工場に隣接した事務所には、優に100箱を超えるサンプルが積まれていた。
ビールかす、酒かす、ウイスキーの副産物、しょうゆやみりんのかす、みそ、パイナップル、ニンジン、イチゴ、ゴボウ、モヤシ、小豆やジャガイモの皮、バウムクーヘン、パイ、あめ玉、グミ……。取扱品目の数々には、私たちの食生活がそのまま反映されている。
たとえば取り扱いが急増しているパイナップル。高橋さんは「おそらく国内で流通するパイナップルの6%は扱っている」という。カットフルーツでの消費が増え、カット時に出る残渣が増えた。焼却処分が多かったが、費用が掛かるし、環境にもやさしくない。そのまま、あるいは脱水したものを牛のエサ用に販売し、飼料に混ぜたり、TMR(混合飼料)の原料にしたりする。
コロナによる食品製造業への影響を、肌で感じてきた。観光客向けの土産として売られる菓子の入荷が激減する反面、バウムクーヘンは2020年の春から夏に受け入れが急増した。緊急事態宣言の発令に伴う巣ごもり需要で、売れ行きが良くなったらしい。バウムクーヘンは、形がいびつになる両端が売り物にならない。それを乾燥させてブタのエサにする。一方でみそやみりんかすの受け入れが減っていて、業務用の消費の落ち込みを感じている。
「エサを作って俺に売れ」養豚農家の一言が転機
「地球には100億人を養える資源はない。だから、この仕事をやっているんです」
こう話す高橋さんは名古屋大学で農学を学び、2005年に31歳で脱サラ、食品リサイクルを目的に環境テクシスを創業した。最初に手掛けたのは食品残渣の肥料化、つまり堆肥(たいひ)化だった。08年に飼料化を手掛けるようになり、今ではすっかり事業の柱になっている。きっかけは、飼料が高騰し、特に養豚農家がその影響を受けたことだった。
「当時、知り合った養豚農家から『肥料なんてやっていても儲からないから、エサを作って俺に売れ』と言われて」(高橋さん)
食品残渣をエサにすれば、資源の循環になるし、農家はより安い飼料を入手できる。肥料化は手掛ける業者が多いうえ、できあがる堆肥の質よりも、いかに大量に原料を受け入れるかを重視する業者もいる。高橋さんはちょうど肥料化事業に難しさを感じていたため、飼料化を始めた。
モヤシがアルファルファ代わりの牛のエサに
処理の仕方は、さまざまだ。バウムクーヘンやパンは乾燥させる。ジャガイモの皮は酸を加えて腐りにくくし、ブタのリキッドフィーディング(液体飼料)に使う。あめ玉は水に溶かして、やはりリキッドフィーディングに。モヤシや、餡(あん)の製造過程で出る小豆の皮は、脱水して乳酸菌を加え、サイレージ(乳酸発酵させたエサ)にして牛に与える。モヤシは、輸入される栄養価の高い牧草、アルファルファと成分が似ていて、その代替になる。
「いろいろなものを扱うのが、うちの特色です。食品リサイクル業者には、いろいろな原料を混ぜて売るところが多いですが、たとえばバウムクーヘンなら、乾燥バウムクーヘンを何キロ出しますよと取引先の農家に伝えて出荷します。そういう会社は全国的にもあまりないですよね」(高橋さん)
細かな対応と良質な飼料が、環境テクシスの強みだ。飼料という最終製品の質を保つため、契約にない種類の食品残渣が製造業者の都合で急に出ても受け入れないし、コンビニやスーパーで売れ残った弁当や総菜といった一般廃棄物は扱わない。「弁当や総菜は揚げ物が多く、豚の肉質に影響を与えます。日本人は油分と塩分をちょっと取り過ぎですね」と高橋さんは苦笑する。
あまりエネルギーを投入せずにリサイクル
「大事にしているのは、あまりエネルギーを投入せずにリサイクルすること。お金をかければ、何でもリサイクルできるんですよ。それが本当にLCA、つまり製品のライフサイクル全体に対する環境影響評価の点でいいのか、疑問に思っていて。うまく加工すれば、投入エネルギーを少なくして、価値を付けることもできるはずなんです」
高橋さんはこう話す。
「『創意工夫をもって』と経営理念に掲げていて、ほかの同業者がやらないことをなるべくやる、ということに力を入れています」
リサイクルする1万5000トンの大半は、排出現場で乾燥させたり、酸を加えたりする「オンサイト処理」だ。オンサイト処理を手掛ける食品リサイクル業者は珍しい。環境テクシスは全国の食品工場でオンサイト処理を導入してきた。処理のために機器が必要なら、貸与したり、販売したりして、できた飼料を排出現場の近くの畜産農家に使ってもらう。
養豚なら肥育用のエサが2、3割のコスト減に
農家にとって食品残渣由来の飼料を使う大きなメリットは、やはりコスト面だ。高橋さんが養豚を引き合いに説明する。
「エサ代の7、8割を占めるのが、母豚、子豚を除く肥育用のエサ。これを食品残渣にすると、2、3割安くなります」
養豚で食品残渣由来のリキッドフィーディングを導入すると、冒頭で高橋さんが語った通り、食欲の落ちやすい暑い夏場も、食いつきがよくなる。実際、リンネファームは夏場の肥育も順調だ。固形飼料よりも、液体の方が暑い時期に食べやすいという。
「大量投入、大量消費の農業のやり方は、持続可能性はないわけでしょう。だから、できるだけ、低いエネルギーで賄うことを考えています」
自社で一般的な配合飼料は与えず、自前の飼料で養豚をするのは、持続可能な農業を体現する意味もある。かといって、かつてよく行われた「残飯養豚」のように、単にあるものを与える方法はとらない。エサの質が肉質を左右するからだ。
エサに油分が多すぎると、肉質に悪影響が出る。抗酸化作用があり脂のうまみにつながるオレイン酸を増やし、低いほど良いとされるリノール酸が減るよう、エサをコントロールする。雪乃醸は、脂に甘みがあり、さっぱりした味わいで人気だ。通販でベーコンやハムといった加工品も販売する。食へのこだわりの強い高橋さんが、自ら香辛料の配合も工夫している。
「売り上げに対するコスト削減率でいうと、牛の方がより大きくなります。本当は、牛も飼いたいんです」
どこまでも仕事にストイックなまなざしで、高橋さんはこう話すのだった。
有限会社環境テクシス
https://eco-techsys.com/