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種苗会社に聞く「病気に強い品種」5選 病害発生のメカニズムとは?

種苗会社に聞く「病気に強い品種」5選 病害発生のメカニズムとは?

作物の病害対策において、そもそも病気にかかりにくい品種を選んで植え付けるという「耕種的防除」は重要な対策だ。野菜の種は400品種、花の種は1500品種を展開する、種苗会社大手サカタのタネに、おすすめの「病気に強い品種」をピックアップしてもらった。

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トマト黄化葉巻病から産地を救う

取材に応じてくれたのは、サカタのタネ コーポレートコミュニケーション部の大無田龍一(おおむた・りょういち)さん、中野真由(なかの・まゆ)さん、藤田杏奈(ふじた・あんな)さんの3人だ。

横浜市にあるサカタのタネ本社の看板

創業100年以上の歴史を持つ同社が手掛けてきた膨大なラインアップの中から、今回は「病気に強い」をテーマに、農家におすすめできる品種を厳選してもらった。

その中でも「近年、研究が盛ん」というのは、トマト黄化葉巻病(以下、黄化葉巻病)の耐病性を持つ大玉トマトだ。黄化葉巻病は東北南部から九州までの温暖な地域で発生し、発病すると葉が葉巻のように丸まり、進行した場合は株全体が委縮し、収量を激減させるという深刻な病害だ。

カタログを開いて説明してくださる藤田さん

カタログを開いて説明してくださる藤田さん

十数年前、日本一のトマト産地・熊本県でこの病害が流行し、収量の減少など大被害をひき起こした。産地を守るべく、種苗メーカー各社が耐病性を持つトマトの育種に動いた。2015年頃から、産地の多くの生産者が耐病性を持つ品種に切り替えざるを得なかったが、「おいしくない」などと言われ、食味が課題だった。味の良さも併せ持つ品種を求め、産地の期待を背負った各社によるハイレベルな研究合戦が繰り広げられた。

令和の時代には、「耐病性は“標準装備”として求められるようになった」(藤田さん)という。「食味や作業性の良さといった付加価値を付け、農家さんの選択肢を増やしています」
同社が2020年6月に発売した、新顔の大玉トマトが「かれん」だ。

耐病性のある大玉トマト_かれん

黄化葉巻病耐病性と食味、収量、作業性を兼ね備えた大玉トマト「かれん」(写真提供:サカタのタネ)

かれんの収量と味の良さは産地の農家のお墨付き。もう一つの特長は、節間が狭く、ハウス内で作業しやすいことだという。木の高さを調整する「つるおろし作業」や誘引作業の頻度を軽減でき、人手不足や高齢化が進む現場をアシストする。

(写真提供:サカタのタネ)

サカタのタネは、世界11カ国に研究拠点を持つ。気候帯や国ごとに異なるニーズを拾い上げることが可能だ。かれんは、日本の施設園芸に特化した品種で、台風にも強い背の低いハウスで栽培されることと密接な関連を持つ。生産現場の事情や消費者の好みに合わせ、有望な品種を何世代も掛け合わせて行われる「育種」は、完成までに約10年を費やすという。

病害を発生させる「3つの条件」

そもそも、植物の病害はどんなメカニズムで発生するのだろうか。

「植物の病害は、3つの条件がそろった時に発生します。3つの条件とは、
①病気が宿る作物が栽培されること ②病原菌が存在すること ③環境条件がそろうこと です」と、大無田さんが下の図を見せて説明してくれた。

病原菌は農薬の利用や土壌消毒などで抑えられます。環境条件は、作型の移動、栽培法の変更などで調整できます。前者は農薬メーカーなど、後者は生産者さんたちが担う分野ですね。私たち種苗会社は、病原菌の宿主となる植物体を耐病性の強いものに変える、つまり品種改良によって、病害防除の柱の一つを担っています」

さらに大無田さんは「正直、最も効果的なのは病原菌の有無と言われています」と打ち明けてくれた。ただ、使用する品種を耐病性の高い品種に変える、つまりまく種をかえる、植える苗を変える、という対策は、「生産者にとって最も低コストで労力が比較的少なく済み、環境負荷も低い」という点で、重要性の高いものだ。

農産物流通の国際化や異常気象、連作障害の増加などで、病害発生のリスクは近年増大傾向にあるという。目に見えない敵との戦いに終わりはない。種苗会社の知られざる努力が、今年も大輪の花を咲かせるのだ。

根こぶ病に強いブロッコリー:“サカタ砲”のインパクト

病気に強い品種の紹介という本題に戻る。
「耐病性の高い品種の効果は、露地栽培で顕著」(大無田さん)という。環境制御が可能な施設栽培と比べて、他にコントロールできる要素が少ない露地栽培ではおのずと目立つ。

病気に強い品種(左側)の発病率の低さが目立つ(写真提供:サカタのタネ)

そこで、露地栽培がメインとなるブロッコリーの品種について教えてもらった。サカタのタネはめっぽうブロッコリーに強い。種子のシェア率は、国内で75%と圧倒的だ。全世界でも65%を誇る。
さまざまな作型に合った品種を発売しているが、夏まき秋冬どりのブロッコリー品種「グリーンキャノン」は、根こぶ病の耐性を持つ品種として2012年の登場から今も根強い人気を持つ。

根こぶ病耐性を持つブロッコリー「グリーンキャノン」(写真提供:サカタのタネ)

根こぶ病菌は、多くのアブラナ科植物に感染するカビの一種で、春から初秋にかけ、水はけの悪い土壌などで発生しやすくなる。地球温暖化に伴う増加が懸念される病害で、感染すると根から水分や栄養分を吸収できなくなってしまう。重度の場合は生育異常で収穫に至らず、産地が一時的に壊滅的な被害を受ける事例もあった。

根こぶ病を発病したブロッコリ-(写真提供:サカタのタネ)

グリーンキャノンが生まれるまでは、根こぶ病耐病性のあるブロッコリー品種の市場流通量は非常に少なかったという。あったとしても、花蕾(からい)の形状や粒の大きさにばらつきがあるなど、品質面に課題があった。

ブロッコリーに、耐病性と質の二物を与えるべく育種が始まった。しかし、病原菌の摂取や評価方法が難しく、従来の育種よりも「はるかに多くの」親系統を組み合わせる必要があった。新品種を開発するブリーダーと、病害の原因を追究する病理担当、そして産地のニーズを吸い上げる営業など、部署を超えた連携の末にようやく世に送り出したのがグリーンキャノンだ。同社いわく「耐病性の育種は総合力が重要」だという。

品種名は、小粒で濃い「グリーン」の花蕾と、耐病性が高く大型品種であることから、大砲の意味を持つ「キャノン」を組み合わせて名付けた。

同じくアブラナ科のコマツナ「さくらぎ」は、白さび病や萎黄病の耐病性がある品種。露地の秋まきなら9月中旬、ハウスなら10月下旬から栽培でき、寒さや暑さへの適応範囲も広いおすすめの品種だ。発売時に圃場(ほじょう)を見学させてもらったので、こちらの記事を参考にしてもらいたい。

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病気に強い品種「花き」編:いちおしはペチュニアとヒマワリ

「耐病性といえば、外せない品種を栽培しているので見に行きましょう」。案内してもらった敷地内の花壇には、可憐(かれん)な花があった。その名はペチュニア。一般家庭のガーデニングはもちろん、公園の植栽など緑化用の植物としても人気が高いという。

「ペチュニアは春先から夏が盛りですが、雨に打たれたり、高温下に置かれたりすると、灰色カビ菌が繁殖します。発病すると花弁がベトついて溶けてしまったりと、鮮やかな見ためが台無しになります」(中野さん)

そこで灰色カビ病の耐病性をテーマに開発されたのが、雨に強い「バカラiQ」シリーズだ。今年6月に濃い青紫色の「バカラ iQ ブルー」を追加し、花き農家向けに種子を本格販売するという。

灰色カビ病に強い「バカラ iQ ブルー」(写真提供:サカタのタネ)

もう一つ、べと病抵抗性のあるヒマワリ「ビンセント®(2型) タンジェリン DMR」もいち押しだ。


DMRはべと病の英語名「Downy Mildew」と、抵抗性(Resistance)の頭文字を組み合わせたもの。(写真提供:サカタのタネ)

「ビンセント」という上向きに咲く花が鑑賞に向くと評価の高いシリーズに、べと病抵抗性を持たせたのがこの2品種だ。

べと病は、悪化すると草丈が十分に伸びなくなる。厄介にも、イベントが多く切り花の出荷最盛期(5~6月)の栽培時期にあたる春先に現れやすい病気だという。べと病抵抗性のある「ビンセント(2型)タンジェリン DMR」をシリーズラインアップに追加し、ヒマワリ農家の収益向上を期待する。抵抗性の確認試験は、ヒマワリの産地であるヨーロッパの公的機関でも行い、高い抵抗性を示したという。現在は涼しげな色みが特長の「同 クリアオレンジDMR」も販売している。

以上、種苗のプロによる病気に強い品種5選をお届けした。皆さんが気になった品種はあっただろうか? 庭先でも育てやすい花きや、増える豪雨や厳しい暑さに強い野菜についても、以前教えてもらったので下記の記事を参考にしていただきたい。

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