第1弾は農業関連施設の業務を譲渡
JA越前たけふは2020年1月に100%出資して越前たけふファームを設立した。2020年度は2人を出向させ、新設したばかりの育苗施設の運営から始めてもらっている。
2021年7月1日には営農販売課から新たに10人を出向させた。同時に米穀の乾燥やもみすりをする「ライスセンター」や「カントリーエレベーター」、もみすりを終えた米穀の選別とフレキシブルコンテナバッグ(以下、フレコン)での保管をする「良質米出荷施設」の運営のほか、農産物検査の業務を同社に譲渡。農林水産省から事業者の認定を受けている倉庫での米穀の保管業務は制度上譲渡ができないので、同日付で越前たけふファームに委託した。
2024年度までに営農・生活指導の業務を譲渡するほか、稲作を中心とした農作業の受託も手がけてもらう。
コメの出荷は紙袋からフレコンに移行
一般にJAは、農業関連事業と経済事業で発生する赤字を、信用(金融)事業と共済(保険)事業で補填(ほてん)してきた。越前たけふファームは独立採算である以上、農業関連事業だけでの黒字化が求められる。
このため一連の農業関連施設では、JA越前たけふが運営していた時代から人手がかかる仕事を減らすなど効率化を進めてきた。たとえば出荷用の米穀の包装資材を30キロ入りの紙袋から、900キロ入りのフレコンに切り替えている。フレコンの割合は2019年産で7割を達成した。
フレコンを保管する良質米出荷施設では「自動低温ラック式保管装置」を採用。立体駐車場のように、ラック状に積み上げた中から好きなフレコンを自動で取り出せるようにした。
施設の稼働率向上で黒字化へ
越前たけふファームとしては農業関連施設の稼働率を上げていく。たとえば育苗施設では2020年度に8.4万枚だったイネの育苗枚数の実績を2021年度は10.5万枚に増やした。管内に複数あった育苗施設を閉鎖して、それらの受託分を引き継いだ。
農作業の受託ではその条件を設定する。主な対象は基盤整備事業が終わり、農地の集積が8割以上に達した集落。限られた社員でも広範囲に受託できるよう、畦畔(けいはん)や水の管理などは集落の住民を主体に実施してもらう。
農業関連事業について子会社に譲渡する背景には、独立採算にすることで黒字化することに加え、進出が目覚ましい商系(農協系統に属さない流通)に対抗する狙いがある。
「JA本体で営農指導事業をしていては小回りが利かず、天気相手の仕事をしている農家の要望に応えきれていない。コメリなどの商系が営農指導事業にも進出してきた中、いまのままでは負けてしまう。農に関する部分はすべて越前たけふファームで完結することで、組合員の要望にきめ細かく応えていけると考えている」(冨田さん)
“全国初”のHD化、組合員の要望受けて前倒し
農作業の受託まで手がけるのは、これまで耕作を引き受けてきた集落営農組織が存続の危機に直面しているため。企業の定年延長により集落の住民が勤め先を退職せずにとどまり、結果的に集落営農組織では労働力の不足が深刻化するばかりだ。冨田さんは「越前たけふファームに一刻も早く動いてもらいたいという声が多かった」と話す。
農畜産物の販売や農業資材の供給などを行う経済事業については、2013年度に別の子会社である株式会社コープ武生(たけふ)に譲渡済み。初年度から黒字化を達成している。
全国のJAでホールディングス化するのはおそらく初めて。JA越前たけふは独立採算で各事業を自立させながら連携させるという、新しいJAの仕組みをつくっていくことになる。