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ICT農業で効率化! 無人トラクターの可能性!

ICT農業で効率化! 無人トラクターの可能性!

全国の農場を渡り歩いているフリーランス農家のコバマツです。今回訪れたのは北海道岩見沢市。ここに自動で動く無人トラクターを導入している農家がいるといううわさを聞きつけてやってきました。スマート農業が推進され始めてさまざまな機械の導入が進んでいますが、ICT農業が進む先にどのような農業の未来が待っているのでしょうか? 人材不足や技術継承などの課題解決が期待される、無人トラクターの可能性を探りました。

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ICT農業最先端!! 無人トラクターとは?

今回コバマツが訪れたのは北海道岩見沢市。北海道といえば、土地利用型の大規模農業をイメージする人も多いと思います。ここ岩見沢市も、米、麦、大豆、ビートの畑作を中心として、機械を使う大規模な農業が盛んです。

そんな岩見沢市で、自動、しかも無人で動くロボットトラクターを使っている農家がいると聞き、ぜひその動く姿を見たいとやってきたコバマツ。実際にICT農業を導入している農家に、その可能性や無人トラクター導入のメリット等について聞いていきたいと思います。

■道下一記(みちした・かずき)さんプロフィール

ICT農業最先端道下さんプロフィール写真 1976年生まれ、北海道岩見沢市出身。祖父の代から農業を営む。旭川工業高等専門学校卒業後、農機具メーカーに8年勤務し、農機具の開発や設計を行う。当初は農業を継ぐ気はなかったが、機械化が進み農業の効率化が進む中で可能性を感じ実家にて就農。現在は、56ヘクタールの面積で小麦、大豆、菜種、トウモロコシ、米、カボチャを両親、妻との4人で経営している。
いわみざわ地域ICT農業利活用研究会会長として、地域に新しい農業技術を導入するため日々研究を行っている。

コバマツ

道下さん、無人トラクターを導入しているそうですね! 実際どんなことができるのでしょうか……?
耕運、播種(はしゅ)、肥料散布、など、普通のトラクターが行う一通りの作業ができます。

道下さん

ICT農業最先端無人耕起

無人で畑を耕している様子

_ICT農業最先端無人代かき

無人代かきの様子

コバマツ

ほぼ全ての作業が無人で自動でできるんですね! どうしてそんなことができてしまうのでしょうか?
RTKの基地局が岩見沢市にあり、高精度な作業が可能になっています。事前に畑の形を登録し、使用する作業機に合わせて設定することで、自動的に動いてくれます。しかも無人で動いてくれるんです。

道下さん

コバマツ

RTKってなんですか? アンテナのようなもの……?
そう考えていただいて、大丈夫です!
地上に設置した「基地局」からの位置情報データと衛星を用いて、高い精度の測位を実現する技術のことです。
通常、GPSのみの場合、位置情報データは2メートル前後の誤差が出ますが、このRTKを組み合わせることで、数センチ内の誤差に抑えることが可能になります。

道下さん

ICT農業最先端RTK基地

岩見沢市に数カ所設置されている基地局

コバマツ

この基地局があることで、いままで自動でも誤差があったものが、より正確にできるようになったということですね! 人間が機械を動かすときも誤差はありますし、ましてや私が操縦したら、そら大変なことになりそう……。
機械がとっても苦手で、アマチュア農家のコバマツでも、扱えそうですかね……?
大丈夫だと思いますよ。
新規就農者や女性も農業に参入しやすくなるツールとなるのではないかと期待されています。
トラクター操作の経験が浅い人でも、ベテランのようにきれいなトラクター作業ができます。

道下さん

コバマツ

それはすごい! コバマツでもベテラン農家みたいな仕事ができるってことですね!
ICT農業最先端GPS 画面

トラクターに搭載されたGPSモニター

コバマツ

無人トラクターが自動で農作業をしてくれるなら、労働時間も人件費もぐっと少なくなりそうですね!
完全自動化はまだ試験段階で、現状は無人のロボットトラクターでも監視が必要です。有人トラクターと無人のロボットトラクターの協調作業を行えばトラクターオペレーター1人分に近い人件費は削減可能だと思います。
ロボットトラクターが自動で動いてくれている間に、監視をしつつ他の作業をする事も可能で、作業時間を効率的に使えます! 将来、監視が不要になったら、作業の設定をすれば僕らが寝ている夜でもロボットトラクターは作業ができるようになるので期待しています。

道下さん

コバマツ

繁忙期だと、夜遅くまでライトで照らしながらトラクターに乗って作業している人いますよね……。畑の走行場所と作業を入力したら自動で動いてくれるから夜でも正確な作業が可能なのはとても便利ですね!

無人トラクター導入に必要なこととは?

コバマツ

しかし、こんなに高性能で便利な無人トラクターですがとっても高そうですね……! さらにRTKが必要など、さまざまな条件があるようですが、道下さんはどのようにして導入できたのでしょうか?
「平成26年度農林水産業におけるロボット技術導入実証事業」に参加し、国の補助を受けて実証導入しました。

道下さん

コバマツ

国の事業に手を挙げて、いち早く導入に成功したんですね!
ただ、僕だけの力じゃなくて、行政やJA、地域の仲間の農家達の協力のもと、実証が可能な受け皿がある事で実証導入できているんです。
2010年ごろから岩見沢の農家の中で、個人でGPS機能がついた機械を導入する農家が増えてきて、2013年にいわみざわ地域ICT農業利活用研究会が発足しました。現在では220人ほど会員がいます。

道下さん

コバマツ

この地域はかなり前からICTの導入に積極的だったんですね!
市行政の協力もあり、RTK基地局が岩見沢市内に整備されました。現在は市内に4カ所整備されています。
行政など地域がとてもICT農業推進に協力的で、実証事業に参加できたのも、岩見沢市に実証を行う環境と受け皿があったからだと思います。

道下さん

コバマツ

岩見沢市は、農家の中だけではなく、行政やJAも一丸となってICT農業を推進していこう、導入していこうという基盤があった。そこに、無人トラクターを導入できる設備も整って、誰かが手を挙げれば導入できるという条件がそろっていたんですね!
地域全体の協力がないと、実証事業の参加はなかなか難しいと思います。
現在はJA、岩見沢市役所、北海道大学などの研究機関、農機具メーカーなどと産学官連携し、実証を進めています。

道下さん

コバマツ

「広い土地がある北海道だからできるんでしょ!」と思ってしまう人もいると思うのですが、他の地域でも導入できる可能性や条件などありますか?
まず、資金がかかるので国が行っている補助事業をうまく活用しましょう! スマート農業の実証事業は今(2021年8月時点)は募集がないので、機械導入やICT推進の事業など、うまく活用できるものから使っていったらよいと思います。
また、北海道ほどの面積がなくても、九州で導入している事例もありますし、新潟や富山の米農家など土地利用型農業(広い面積を必要とする農業)を行っている方にも十分導入できる可能性があると思いますよ!

道下さん

ICT農業の今後の可能性

コバマツ

最近国でも推進しているICT農業、導入してみて今後にどのような可能性を感じますか?
今後農業の担い手不足や高齢化が課題とされる中で、ICT農業にはそれらの課題を解決する大きな可能性があります。
熟練の技を全て機械に入力すれば、機械が自動で、適正な量の肥料散布や収穫を行ってくれて品質も担保されます。無駄な作業も少なくなり経費削減にもつながりますし。

道下さん

コバマツ

便利ですが、まだまだ浸透していないICT農業。浸透させていくために、どのようなことが必要だと考えますか?
今後も国はICT農業を推進していくと思うので、まずは国の事業をチェックしてみること。
また、効果が未知なものに何百万もいきなり投資する勇気はないでしょうから、まずは今より少し効率的になるために、数十万円のICT化された農機具を導入してみてはいかがでしょうか。効果を感じられたら更にレベルの高い機械に投資してみることをおすすめします!

道下さん

ロボットトラクター導入に必要なこととは? 写真ラスト

さまざまな形でICT農業が進められていますが、無人トラクターの実践者の声を聞くのは初めてでした。今まで人の手がかかっていたオペレーター業を自動化することで、1人分の作業時間が浮く。そのことにより、経営戦略や作物の品質向上に時間を費やすことができるようになるのではないかと感じました。
無人トラクターが普及することで、機械が苦手なコバマツのような人でも、機械作業が必須の畑作ができるかもしれない……。農業に興味があってもなかなか踏み出せないという人や、手伝ってくれる人はいるけれど任せられる範囲が狭い、という雇用のミスマッチに悩む人も、こうした最新技術が問題を解決してくれる日が来ると実感できた取材でした。

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