カブ生産の動向
小カブは栽培技術の向上や栽培環境に対応した品種改良によって各地域に広がり周年栽培されています。しかし近年の夏秋栽培では猛暑や長雨、集中豪雨による過湿環境など、天候不順による栽培中の裂根や収穫時のひび割れ、萎黄病や白さび病などの病気の発生などにより品質の低下が問題となってきています。
またカブは登録農薬も少なく薬剤での対応も難しいことから、良質で安定して栽培できる複合耐病性品種が求められています。この問題に対処すべく、タキイでは夏秋どり種「CRもちばな」の割れにくい特長を維持しながら肥大性がよく、根こぶ病、萎黄病、白さび病に強い、より安心、安全に食べられる品種を目標に育成を行い、今回「なつばな」を発表することとなりました。
「なつばな」の特性
形状良好で秀品率が高い
玉は白くつやがあり豊円形で尻のまとまりがよく、肥大性にすぐれます。在圃(ざいほ)性にすぐれ、多少収穫が遅れても横に肥大しにくいため出荷規格内に収まります。
また、高温時に発生しやすい裂根や、収穫・洗浄時におけるひび割れも相対的に少なく、秀品率が高いのが特長です。
耐病性・耐暑性を備えている
小カブ生産で問題となる根こぶ病、萎黄病、白さび病への耐病性をもち、高温時の栽培でも変形・ス入りなどの発生が少なく尻まとまりがよく安心して栽培できます。
葉軸がしっかりして結束しやすい
草姿は立性で、葉軸は太く折れにくいため、収穫時の手間がかからず、葉枚数はやや多めで調製しやすく結束も容易な小カブです。
食味にすぐれる肉質
肉質はやわらかく緻密で甘みがあり食味にすぐれます。特にみずみずしいカブですので、サラダなどの生食に適します。
栽培ポイント
①肥培管理
生産地では減肥栽培も増えてきており、肥大性のよい品種が求められ、栽培されています。
そのような栽培でも「なつばな」は安定した肥大性を発揮して、尻のまとまりが早いのが特長です。高温期の栽培やチッソ過多な畑では葉軸が太くなりすぎ、玉形状が乱れて縦長になりやすいので少肥栽培を心掛けてください。
②適期播種(はしゅ)を心掛ける
冷涼な地域以外で栽培する場合は、春の無理な遅まきや夏の過度の早まき(盛夏のタネまき)は、生育期間中の猛暑や極端な乾燥によって十分な生育ができない場合がありますので避けてください。また秋の無理な遅まきは低温期で生育が緩慢になるので年内収穫を目安に播種期を設定しましょう。
③適湿を保ち、スムーズな生育を促す
小カブは発芽ぞろいが秀品率に大きく影響します。初期生育がゆっくりしていますので根がしっかり張るまでは、特に土壌水分の管理に気をつけてください。また、肥大期に入ってからも極端な乾燥や、逆に過湿条件になると品質低下を招きます。畑の適湿を保つように心掛けましょう。
④病害虫防除は早めに行う
虫害ではコナガ、キスジノミハムシなどが問題となります。ワリフや「サンサンネット」などの防虫ネットで被覆し、外部からの侵入を防ぐのが効果的です。また播種前に殺虫粒剤の土壌混和や早めの薬剤散布で、より効果を高めることができます。
耐病性のある品種ではありますが、べと病などほかの病気や、多くのレースがある根こぶ病の未確認レースなどで病気が発生する場合があります。栽培前の土壌消毒や輪作などの土壌改善策、早めの薬剤散布による予防を行うことは大切です。
「CRもちばな」との使い分け
「なつばな」と同じ作型の「CRもちばな」は肥料に比較的鈍感なため、特に肥沃(ひよく)な畑で特性を発揮します。また肥大がゆっくりしているため、特に高温期の夏栽培には「CRもちばな」が適しています。
それに対して「なつばな」は吸肥力があり肥大が旺盛なため、「CRもちばな」では肥大がおとなしいという圃場(ほじょう)や、葉の伸長が安定しない春や秋の栽培で特性を発揮します。「CRもちばな」で問題のない畑で「なつばな」を栽培する場合には、少し控えた施肥設計を心掛けてください。

どちらも裂根、ひび割れが少ないが、吸肥力があり肥大旺盛な「なつばな」(左)と玉の肥大が比較的じっくりしている「CRもちばな」(右)。栽培時期、畑に応じて使い分けてください
(執筆:タキイ茨城研究農場 辻田卓)