タキイ種苗はホウレンソウで収量性とともに、収穫作業性でも高いレベルで実現できる品種を目標に育成を進め、冬どり早生(わせ)種「伸兵衛」、秋春どり早生種「福兵衛」、秋・春どり在圃(ざいほ)種「吉兵衛」を発表し、主要産地で好評を集めています。
一方、重要病害であるべと病については「伸兵衛」「福兵衛」に罹病(りびょう)する新たなレース(※)が主要産地で報告されており、さらに上位の抵抗性をもつ品種の必要性も増しています。この状況を踏まえ、さらに強いべと病耐病性をもった冬どり在圃種「寒兵衛」、秋春どり早生種「徳兵衛」を発表しました。べと病に強い2品種で秋から春までカバーするとともに、冬どり在圃種の「寒兵衛」がラインアップに加わることで秋・春どり、冬どりの早生型・在圃型がそろい、作付体系に合った多収+高作業性品種を選んでいただくことができるようになります。
※ 形態が同じでありながら病原性の異なる菌のこと
「寒兵衛」「徳兵衛」の特性
「寒兵衛」「徳兵衛」はべと病レース1~15・17に抵抗性をもちます。これまでの「兵衛」シリーズがもち合わせていなかったレース13にも抵抗性をもち、より安定した耐病性を発揮します。
寒兵衛
在圃型の冬どり種
じっくり生育する冬どりの在圃型で収穫適期幅が広いことが特長です。比較的葉枚数が多く、「伸兵衛」「福兵衛」とは異なる葉数型の品種です。
収穫作業性がすぐれる
立性草姿で葉柄は大変しなやかで折れにくく、収穫調製が容易です。
耐寒性が強く年内~冬どりに最適
耐寒性にすぐれ、軸割れに強く、年内~冬どりの露地、トンネル栽培に最適です。
徳兵衛
早生型の秋~春どり種
低温伸長性がありながら、暖かい時期でも葉身と葉柄の生育バランスがよく、秋~年内どり、春どりの栽培に適した早生品種です。
株張りがすぐれる
葉は大きくボリュームがあり葉柄は太く、また「福兵衛」よりやや葉枚数が多く株張りがすぐれます。
播種期幅が広く、作りやすい
生育はじっくりするものの冬どりにも適応し、秋~春までと播種(はしゅ)期幅が広い品種です。また草勢が強く、あまり土質を選ばないため、栽培が容易です。
ホウレンソウ栽培の要点
①適切な株間での栽培
株間はホウレンソウの生育に大きく影響し、品種特性に合った株間で播種することが大切です。伸びやすい時期は株が張るように株間を広くとり、伸びにくい時期は株間を狭くし伸長を促します。「兵衛」シリーズ各品種の播種時期ごとの株間の目安を表にまとめました。参考にしてください。
②総合的なべと病防除の実施
べと病はレース分化が起こりやすく、近年新しいレースの発生するサイクルが早くなっています。「寒兵衛」「徳兵衛」は高いべと病抵抗性をもっていますが、総合的な防除を併用し、登録農薬による予防的な防除を心掛けてください。
「寒兵衛」栽培のポイント
①極端な早まきは避ける
暖かい時期の栽培では生育が促進され、葉柄が長くなる傾向があります。播種適期に従い、極端な早まきは避けてください。
「徳兵衛」栽培のポイント
①冬どりでの被覆資材の利用
耐寒性は強くないため厳寒期の栽培では軸割れが発生する可能性があります。中間地の厳寒期栽培ではビニールトンネルや不織布の被覆を行い、生育気温を確保し、軸割れの発生を防ぎます。
②春の収穫遅れに注意する
「徳兵衛」は晩抽品種ではありません。4月中旬以降の収穫ではとり遅れないように順調に生育を進めてください。
タキイホウレンソウ「兵衛」シリーズの使い分け
冬どり(早く収穫できる「伸兵衛」、ゆっくりとれる「寒兵衛」)
低温伸長性を重視し、厳寒期に早く収穫したい方は「伸兵衛」、ほかの作業の合間に収穫したい方には在圃性のすぐれる「寒兵衛」をおすすめします。また、近年は10月の天候が不順なため、露地栽培では計画通りの播種が難しくなってきています。生育スピードが異なる「伸兵衛」と「寒兵衛」を同時に播種すると1回の播種で収穫時期をずらして収穫でき、効率的な作付けが可能です。
秋~年内どり、春どり(用途に合わせて選択を)
秋~年内どり、春どりでは早生種「福兵衛」、在圃種「吉兵衛」をおすすめしてきました。「徳兵衛」は「福兵衛」同様、早生種で生育スピードはおおむね「福兵衛」に準じます。「福兵衛」は立性でより葉柄はしなやか、「徳兵衛」は株張り型でボリュームがあるといった違いがあり、ご希望に合わせて品種を選んでください。べと病が心配な方は「徳兵衛」を使用することをおすすめします。
秋まき栽培の伸長性の比較(10月下旬播種、12月下旬収穫)
伸長性の異なる「兵衛」シリーズをうまく活用すれば、露地栽培で熟期の異なる品種を同時にまき、収穫時期をずらして連続出荷していくことも可能になります。
(執筆:タキイ茨城研究農場 林 宏信)