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農家の休みは工夫次第? 営農スキルを高める働き方と休み方

農家の休みは工夫次第? 営農スキルを高める働き方と休み方

「農繁期の農家は休めないもの」という先入観が世間にはあるようだ。農家自身がそう思っている場合もある。確かにその休日のあり方は、他の業界と違いが大きい。しかし、中には工夫次第で休みをとれる体制を作り上げている農家もいる。いったいどんな工夫なのか、2つの農業法人を取材した。

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農家は休まなくてもいい?

農業の労務管理では、一般的な労働基準の適用外になっている事項がある。一般的な企業では週に1日以上の休みを与える必要があるが、農業では違う。また、就業時間は週に40時間まででそれ以上勤務した場合は残業代割り増しが適用されるのが一般的だが、農業ではそれも適用外。農業以外の産業から転職してきた人にとっては驚きだろう。

農業は悪天候の日は自然と休みになってしまうし、季節によっては作物が作れないためそもそも仕事がない、というのが理由のよう。しかし、施設園芸などで一年中、雨の日も作業が可能な農業もある。一般企業も農業に参入してきている今、人材の確保のために休みの規定を見直すなど、社員が働きやすいと感じる職場づくりは重要になっていくのではないか。
そこで、さまざまな経営の工夫で休める農業を実現している農業法人2社を取材した。

就業規則で「休める雰囲気」を作る

株式会社しゅん・あぐりはコマツナを主力品目とする農業法人。埼玉県でハウス栽培(1ヘクタール)と千葉県で露地栽培(4.5ヘクタール)、さらに別会社で観光イチゴ農園を運営している。分散した農地で働くのは5人の社員と12人のパート職員だ。彼らの働き方の特徴は就業規則にあると聞いて、取材に訪れた。

しゅん・あぐりの主力商品、コマツナ(画像提供:しゅん・あぐり)

「休みは悪」の親元就農時代

社長の臼倉正浩(うすくら・まさひろ)さんは農家の9代目に生まれ、大学卒業後すぐに親元で就農した。長年農業に携わってきた親から醸し出されるのは「休みは悪」という雰囲気。臼倉さん自身も「早く農業で生計を立てられるようになりたい」と必死だったため、就農当初はがむしゃらに働いていたそう。
一方で、当時から「よく働きよく遊ぶ」がモットー。一般企業に勤める友人に誘われ、急いで作業を終わらせて飲み会や趣味のスノーボードに行くことも。「寝ずに働いて仕事を終わらせ、親に見つからないよう明け方に『スノボに行ってきます』と書き置きして、そっと出かけたこともありました」と臼倉さんは笑いながら当時を振り返る。
長時間労働の甲斐もあってか、就農当時年間500万円程度だった売り上げが、数年後には1000万に届くように。パート従業員の力も借りての成長だった。

株式会社しゅん・あぐり社長の臼倉正浩さん

転機は就農10年目、親元から完全に独立してしゅん・あぐりを設立したことだった。
設立の目的は就農希望者のための場所作り。そのため入社してくるのは将来的に独立就農を目指す人が多い。最初の1~2年は見習い、2~3年目からはある程度の規模の圃場(ほじょう)を任され、自分の裁量で栽培を行うようになる。臼倉さんも畑を巡回して様子を見るが、基本的には社員の判断を尊重し、栽培の力量が身に付くように導く。
独立希望の社員は特に、仕事を「農業で独立するための修行」と考えているためか、放っておくと休みを取るのを忘れて農作業に熱中してしまうそう。しかし臼倉さんは法人として雇用している以上、やはりきちんと休みを取らせることは必要と考え、仕組みづくりに取り組み始めた。

従業員の皆さん(画像提供:しゅん・あぐり)

自主性と働きやすさをかなえる就業規則

臼倉さんは農業の事情に詳しい社会保険労務士に依頼し、社員の希望をくんだ就業規則を作ることにした。就業規則関連の会議の場に臼倉さん自身は出席せず、社員の意見の調整をすべて社労士に一任。2019年に完成した就業規則は「フレックスタイム制、出社退社自由、休憩は任意」という形に収まった。

しゅん・あぐりの労務関係の規定(画像提供:しゅん・あぐり)

ただし、労働時間の大枠はある。4週6休、1日7時間労働、必ず勤務しなければならないコアタイムは10:00~13:00。また、休日と有給休暇のほかに、連続取得が可能な10日間のリフレッシュ休暇も設けた。

休むための人手の調整も、農業の修行のうち

さて、問題はいつどうやって休むかだが、その調整も修行のうちらしい。
しゅん・あぐりでは、会社の財務状況も社員と共有している。社員たちは自分の働きが会社の売り上げにどれだけ貢献しているか認識し、利益を上げるための最善策を考える。そのため、自分が休むことでマイナスが生じないよう、作業のフォローのために、パート従業員のシフトを組むのも社員自身の仕事。これも独立後を見越した人材活用の修行と言えるだろう。また、独立の意志がなくても、人手の確保さえできればいつでも自由に休める、休んでもいいのだという雰囲気づくりにもつながっている。

女性の働きやすさにも配慮

休みの取りやすさは女性の働きやすさにもつながった。しゅん・あぐりには子育て中の女性社員もいるが、働く時間が自由であるおかげで、仕事を抜けて子供の学校行事などにも参加しやすい。今パート従業員として働いている女性も、この仕組みならと社員に転換することを予定しているという。

コロナで休校の時には、子連れ出社も(画像提供:しゅん・あぐり)

「これからの農業ではもっと女性に活躍してほしい」と、臼倉さんは休日の取りやすい仕組みのほかトイレの整備など、社員の働きやすさにつながる取り組みを続けている。

普通の中小企業のような働き方を追求する農業法人

一方で、「普通の中小企業のような働き方」を追求している農業法人もある。
京都の大原地区で有機農業を行う、株式会社ヴィレッジトラストつくだ農園(以下、つくだ農園)。この農園では週休2日、1日7時間労働、残業なしを徹底している。社長のほか、6人の正社員と1人のアルバイトの計8人が、棚田の多い地域に分散している農地で働く。その広さは約1ヘクタール。2009年に有機JAS認定を取得し、有機農業で年間40種類を栽培。それらをレストランや一般消費者に直販している。

休むことがリスクになる体制では続かない

つくだ農園は社長の渡辺雄人(わたなべ・ゆうと)さんと妻の民(たみ)さんが2人で立ち上げた。2人はもともと大原の出身ではない。同志社大学大学院総合政策科学研究科のソーシャル・イノベーション研究コースに通っていた雄人さんが、2006年、大学院が大原で借り上げた空き家と農地を任され、その流れで農業を始めることに。3年間有機農業の第一人者と呼ばれる農家から教えを受け、2009年につくだ農園を立ち上げた。当時の大原では農家の高齢化が進み耕作放棄地も多くあったが、若い2人が一生懸命農業に取り組む姿を見て、地元の人が農地を任せてくれるようになり、2人の定着につながったという。

渡辺雄人さん(左)と民さん(右)(画像提供:つくだ農園)

就農から7年の間に2人の子供が生まれ、子育てしながら夜遅くまで休みなく働く日々。人も雇うようになった。しかし2016年、状況が変わった。民さんが3人目の子供を妊娠、さらにほぼ同時に主任として働く女性も妊娠し、切迫早産で早めに休みを取ることになったのだ。
当時は渡辺さん夫婦と主任、さらにもう一人の社員の4人体制。民さんと主任が抜けると働けるのは2人だけになる。労務管理を担当する民さんは「これはリスクがありすぎる。人を増やし、きちんとフォローしあえる体制にしなければ」と考えるようになったという。

農業でも、普通の中小企業並みの休みを

こうしてつくだ農園は2017年4月に法人化。「一般的な中小企業のような労働条件」を整えることを目指し、就業規則も一般的な中小企業のものとほとんど変わらないという。

就業規則での休日の規定は、日曜と月曜が定休の週休2日、就業時間は9:30始業で17:15終業、45分休憩の1日7時間。現在、配達を担当する主任以外は残業することはないという。社員交流の目的で行うバーベキューも就業時間内に行うという徹底ぶりだ。「農業では残業代の割り増しの規定も除外ですから、残業してもらうのが申し訳なくて」と民さんは語る。

バーベキューの様子(画像提供:つくだ農園)

週休2日、残業なしを守るための工夫

つくだ農園の畑はすべて露地だ。休日を固定してしまうと、天候不良の日の作業をどうするのか気になるところだ。民さんによると「数日前から天気予報を見て、予定を立てておく」そう。コロナの影響で個人への野菜セットの発送が増え、調整や梱包の作業も増えているという。

発送を待つ野菜セットのダンボール(画像提供:つくだ農園)

残業が発生しないようにするには、作付け計画も重要だという。つくだ農園は多品目栽培なので、作る品種は年ごとに違う。そのため、働くスタッフの力量や作業量で作付ける品目と量を判断する。
しかしたった1ヘクタールの土地で、有機栽培で、8人分の給料が出るほどの売り上げがあるとは驚きだ。しかも、ボーナスも支給しているという。民さんによれば「農業は手をかければかけただけ収量も上がる」とのことで、1ヘクタールをまんべんなく見る目とかける手があることで、かえって効率良く利益を上げているようだ。また、使える補助金等もすべて申請し、とにかく社員の給与を守る、という姿勢を徹底している。

大原の名産、シソの収穫作業の様子(画像提供:つくだ農園)

入社希望が絶えない農業法人に

つくだ農園で有機農業を学びたいと連絡してくる就農希望者は多いそう。その中から独立の意志の固い人が社員として入社し2~3年で独立、そしてまた新しい社員が入るというサイクルが成立している。彼らは休日を独立の準備や自分の畑の作業時間に充てているという。彼らもいずれ人を雇用する立場になるかもしれない。そんな時、つくだ農園のようにきちんと社員の暮らしを考える人になってくれればと民さんは語る。

労務管理は営農の一部

今回紹介した2社は、休みの規定の仕方は対照的だが、共通している点があるように思う。それは、社員に休みを取らせることを管理者の責任ととらえている点だ。どちらの農業法人も独立志望者の入社が多く、数年しか会社には所属しないことが予想される。それでも、次の農業を担う世代を育てているという意識のもと、休みも含めた営農の姿を社員に示していた点は印象的だった。こうした意識は、多くの農業関係者と共有していきたいと感じた。

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