マイナビ農業TOP > 生産技術 > 省力化を実現する! 乾田直播農業とは?

省力化を実現する! 乾田直播農業とは?

省力化を実現する! 乾田直播農業とは?

全国の農家を渡り歩いているフリーランス農家のコバマツです。今回やってきたのは北海道の岩見沢市。この地域の畑で私は衝撃的な光景を目撃しました。なんと、種もみを畑にじかまき、つまり直播(ちょくはん)をしているではありませんか。この地域では種もみを直播する「乾田直播」という栽培方法が早くから確立されていたそうです。なぜ、そのような栽培方法を実践し始めたのでしょうか? その方法は農業の省力化だけではなく、連作障害など病気の予防にもつながる、非常に興味深いものでした。

twitter twitter twitter

乾田直播とは?

今回コバマツが訪れたのは北海道岩見沢市。広大な田園風景が広がり、米、麦、大豆、ビートなどが生産されている道内有数の食料供給地域で、もともと畑作が盛んです。

一面に大豆畑や、

乾田直播とは? 大豆

麦畑が広がっています。

乾田直播とは? 麦畑

ここの地域では乾田直播という、コバマツも初めて出会う農業技術が行われていると聞いてやってきました。果たしてどのような栽培方法なのでしょうか? 早速、乾田直播を実践しているこの人に聞いていきたいと思います。

■新田慎太郎(にった・しんたろう)さんプロフィール

有限会社新田農場代表取締役。北海道岩見沢市出身。簿記系の専門学校を卒業後、民間で10年ほど会計の仕事に携わる。30歳で実家で就農し、現在は、水稲、小麦、大豆、菜種、ビートなどの畑作を中心とした栽培を40ヘクタールの規模で行っている。

コバマツ

よっしゃ! 今日は乾田直播の取材だ! 「乾田」でコメ直播とか聞いたことも見たこともないからどんな感じかわくわく♪ 早速田んぼにお邪魔します!
乾田直播 芽が出始めた

畑から何かが芽を出している

コバマツ

ん!? なんか生えてきている!! これは……!?
これはコメが発芽しているんですよ!!

新田さん

コバマツ

これが直播ってことですか? こんな風にしちゃって本当にお米が出来上がるんですか? 初めて見ました!
そうですか? 以前から実践されている方法ではあったのですが、栽培方法が確立され始めたのは2006年くらいからなんです。

新田さん

コバマツ

え! だって、稲作といえば、季節ごとに人手が必要な作業があって、春はもみまきをして、ハウスで発芽させ育苗して、それで大きく育ってきた苗たちをようやく田んぼに植え付けていくんじゃないんですか!?
乾田直播とは?育苗ハウス

通常はもみまきして約1カ月ハウスで育苗して

乾田直播とは?田植え

それから田植えをしてようやく苗は田んぼデビューをする

もちろん、そのやり方が今でも一般的ですが、この岩見沢地域では乾田に直播する栽培方法が確立されてきたんです。乾田といっても、ある程度稲が育ってきたら、移植稲と同様に水田に水を張っていきますよ。

新田さん

直播をすることで省力化につながる!?

コバマツ

どうしてコメを直播しようとし始めたのでしょうか? だいぶ勇気がいることだと思うのですが……。
以前から実践している人もいたのですが、なかなか栽培がうまくいかず、あまり注目されてきませんでした。しかし、近年の人材不足や農家一戸あたりの規模拡大が課題となり、この直播が新たに見直されるようになってきたんです。

新田さん

コバマツ

確かに直播をすれば、稲作で一番人手がいる、代かきや、もみまきや、田植えの作業がなく、ぐっと人手が必要なくなりそうですね。一戸あたりの規模が大きくなるにつれて植える量が増えるということですから、これらの作業が増えていくっていうことですもんね!
人件費も減りますしコスト削減にもなるのではないですか?
栽培にかかるトータルのコストで見ると、実はそんなに変わらないんです。ですが、人件費の面だけで見ればぐっと減りますね。

代かきで出るわらゴミの処分の手間もなくなりました。規模が増えていくにつれてわらゴミが増えるから捨てるのも大変なんですよ……。乾田直播だと、そのままわらをすき込んでしまえるのでとても楽です。

新田さん

コバマツ

育苗用のハウスを建てるのも大変ですよね……。雪国だと毎年ハウスを片づけるから、まだ雪が残る寒い3月に朝早くからハウスを建てて、ビニールを張って……。コバマツもやったことありますが、思い出すだけで凍える……。
なんだか、乾田直播が素晴らしいものに思えてきました!

乾田直播のメリット、デメリット

メリットは「空知型輪作体系」の実現

コバマツ

人手がぐっと減って、効率的な面がすごく多いなと感じるのですが、他にメリットは何かありますか?
さらに、乾田直播だと、「輪作」が可能になるんですよ。麦、大豆などに使う機械と同じものを稲作に使うことができるので、本来田植え機にかけるはずの設備投資がかからないんですよ。

新田さん

コバマツ

もみをまくだけだと麦、大豆に使う機械と同じもので作業ができるんだ! 1年のうちに1週間しか使わない田植え機を何百万も出して買わなければいけないことを考えたら、償却費もぐっと下がりますね!
メリットデメリット 

稲、麦、大豆の播種(はしゅ)に使うトラクター

それに、同じ作物を同じ土地で続けて作って病気が発生してしまう「連作障害」や雑草の減少に効果があります!
こうした乾田直播を導入した輪作を「空知型輪作体系」といいます。

新田さん

コバマツ

岩見沢市がある空知地方にちなんで「空知型」ですね。畑作での輪作の品目に米も入ることで、連作障害が防げるなんてスゴイですね!

デメリットは、意外なコスト

コバマツ

空知型輪作体系での乾田直播、いい部分ばかりが目立ちますが、逆にデメリットだと感じている部分はありますか?
やはり、乾田直播では種もみの発芽率が低いので、育苗して田植えする場合よりももみを多く使わなきゃいけません。また、農薬や肥料を多くまかなきゃいけないなど、意外なコストが発生してきます。人件費や償却費が減るとお伝えしましたが、乾田直播は別な面のコストがかかってくるんです。

新田さん

コバマツ

そっか! いきなり畑にもみをまくということは、人間で例えると赤ちゃんの状態でいきなり社会に出すみたいなものですもんね! 別な作業や費用はかかってきそう!
そうですね。育苗の場合はハウスの中だけでの管理ですが、直播だと広い畑にも肥料をまいたり、農薬をまかなければならなかったりと別な作業が発生します。

新田さん

コバマツ

そうですよね……。ハウスだと限られた面積で苗の様子を見たり、水の調整をしたりしますが、畑にまいたらいきなり10ヘクタール、20ヘクタールを管理しなければいけないということですもんね。発芽の様子や、稲の育ち具合を管理するだけでも面積が広いし大変そう……!
収量を確保するためには、水の調整も、苗からコメを作る方法よりも慎重にならなければいけませんしね。直播には直播の技術が必要になってきます。

新田さん

コバマツ

いい面ばかりではなく、別なコストがかかったり、手間がかかったりデメリットもあるんですね……。
でも肥料や農薬をまいたりするのは全て機械作業ですからね。やっぱり、人手がかからない方が農家の体には優しいので、僕は乾田直播でコメ作りを続けています!

新田さん

乾田直播の今後の可能性

コバマツ

人手がかからず、なおかつ輪作もできて病気や雑草の減少も見込める乾田直播。どうしてあまり普及していないのでしょうか? 明らかに省力化につながりますし、農家の体にも優しい栽培方法ということですが……
現状、育苗して田植えする方法で間に合っている人が多いからだと思います。また、育苗して田植えをする方法は長い時間をかけて開発された安定的に発芽・生育できる生産方法ですし。
乾田直播は昔から方法としてはありましたが、最近になりようやく安定的に発芽させたり、安定的に収量をあげるための方法が確立されてきました。
育苗する方法の方が人手が必要でも、安定的に収量をあげられる方法だからだと思います。

新田さん

コバマツ

今後、さらに人手不足や高齢化が進んだ際に、省力化につながる乾田直播がますます注目されていきそうですね! みんなが注目し始めればもっと栽培技術も向上し、安定的に収量を上げられるようになっていきそう!
乾田直播の今後の可能性 ラスト

すくすく育った稲たち

「コメを直播する栽培方法がある」そう聞いて最初はとても驚いたコバマツ。
取材に行くまで「稲作でのもみまき、代かき、田植えなどの一定時期は人手が必要なもの」と思い込んでいました。実際、こうした作業は家族総出、さらには人を雇ってでもやっている農家さんを多く見てきたからです。
しかし、今回訪問した乾田直播は、人手が必要な作業はほとんどカットすることができ、一般的な稲の栽培方法のイメージを覆すものでした。
その代わり生育のために費用がかかるなどのデメリットはありますが、農家の労力がぐっと少なくなる乾田直播は、今後人材不足や高齢化が進む農業現場で注目されていく栽培方法なのではないかと感じました。

関連記事
栽培方法によって選ぶべき田植機は違う! 田植機の正しい選び方とメンテナンス
栽培方法によって選ぶべき田植機は違う! 田植機の正しい選び方とメンテナンス
昔は人の手で地道に行っていた田植えですが、田植機を使って作業効率を上げることが可能になってからはずいぶんと楽になりました。そして現在は田植機自体の種類も増えて、植え方や育て方なども選べるようになり、稲作の可能性がぐんと…
水稲育苗のメリットとは? 苗の種類や育苗方法、失敗しやすいポイントを解説
水稲育苗のメリットとは? 苗の種類や育苗方法、失敗しやすいポイントを解説
水稲の栽培方法は、種子を直接水田にまく「直播(ちょくはん)栽培」と苗を水田に植え付ける「移植栽培」に分けられます。日本では水田面積の98%が移植栽培です。移植栽培では育苗(苗を育てること)を行いますが、「苗半作(なえはん…

関連記事

タイアップ企画

公式SNS

「個人情報の取り扱いについて」の同意

2023年4月3日に「個人情報の取り扱いについて」が改訂されました。
マイナビ農業をご利用いただくには「個人情報の取り扱いについて」の内容をご確認いただき、同意いただく必要がございます。

■変更内容
個人情報の利用目的の以下の項目を追加
(7)行動履歴を会員情報と紐づけて分析した上で以下に活用。

内容に同意してサービスを利用する