主な売り手は農家ではなくJA
JAはだのが本店に併設して運営する、県内で最大級の農産物直売所「じばさんず」。午前9時に訪ねると、秦野市産や県産を中心とした鮮度の良い野菜や果物を目当てにした客ですでににぎわっていた。
農家が出荷してきた青果物のすべてが棚に並ぶわけではない。一部は同じ敷地にある小さな保冷庫で管理される。いずれも「Tsunagu Pro」を介して量販店や食品卸、学校給食事業者との契約が事前に決まっており、量がまとまった段階で分荷して各取引先に届けられていく。
Tsunagu Proを運営するのは鈴木輝(すずき・あきら)さんが経営する株式会社Tsunagu。2003年創業の同社は農業資材の販売業者として事業を興した後、2016年からTsunagu Proの開発に取り掛かった。
最近になって増えてきた青果物の直接的な取引を促すECサイトの多くは、売り手として農家を、買い手として個人や飲食店を主にしている。対してTsunagu Proが主な対象とするのは、売り手としてJA、買い手として量販店や食品卸、学校給食事業者などである。利用料は毎月定額の5万5000円のほか、手数料として販売高に応じて0.9%がかかる。
JAはオンライン上で農家から当面出荷する品目や規格、量、日時などのデータを収集。それを踏まえて取引先に商品を提案して、注文があった分を農家に発注する。逆に取引先から欲しい商品の提案を受けることもできる。
Tsunagu Proでは取引先への発注書や納品書などの帳票類の入力と出力も可能だ。組合長の宮永均(みやなが・ひとし)さんは「いままでは紙を使ってきたので、手間はかかるし誤記が発生することもあった。Tsunagu Proでそうした事務にかかるコストやリスクが大幅に軽減できるようになったのはありがたい」と評価する。
小規模農家に農産物直売所以外の売り先を
Tsunagu Proを導入した別のJAは、共同販売(共販)する青果物の中から取引先に提案する商品を決めている。一方、JAはだのが個々の農家から集めることにしたのは、共販している品目が限られるため。管内の農家は多くが小規模の兼業であり、「市場に相手にされる規模ではない」(同JA)。代わって地場産をメインに扱う「じばさんず」が小規模農家の売り先としての役割を持っている。
同JAは就農を希望する人向けの農業塾を開いている。彼ら彼女らの売り先としても、じばさんずは重要な役割を持ってきた。
ただ、その販売高は微減している。2010年度に10億7000万円に達したものの、2020年度には9億7000万円にまで下がった。対策として販路の開拓を専門的に担う「販売係」を2019年度に設けて、量販店や小売店の営業に当たってもらっている。取引先から注文があった青果物は、じばさんずから買い取り販売している。
その甲斐あって、買い取り販売額は2018年度に940万円だったのが2019年度に1540万円、2020年度に2220万円と増えている。ただ、同時に事務手続きの煩雑さや間違いの発生が増えてきたことから、Tsunagu Proについては開発の段階から関わるほど期待を寄せてきた。
地域JAによる産地間連携の促進へ
注目したいのは、同JAがほかの産地からの買い取り販売でもTsunagu Proの活用を検討している点。じばさんずでは、北は岩手から南は沖縄まで全国40以上のJAの農産加工品を扱っている。
そのつてを生かして、同JAでは栽培していなかったり端境期があったりする青果物について、需要に応じて取引先にも切れ目なく販売できる体制をつくる。卸売市場を介さないことで流通にかかる日数は短縮され、鮮度の良い商品をそろえられる。農家が作りすぎて余りそうな品目があれば、提携先のJAに商品として提案する手を打つことも可能だ。
データによる円滑な取引を進めるため、提携先のJAにもTsunagu Proの導入を勧めている。もちろんほかのJAも同JAと同じ利益を受けられる。
同JAは買い取り販売する青果物については収穫する1~2週間前に農家へ発注している。Tsunagu Proを利用する農家が増えれば、播種(はしゅ)した段階で品目や栽培面積などのデータを入力してもらい、早期の契約栽培に結びつけていく。
宮永さんは「農協改革の一丁目一番地は販売力の強化であり、JAが責任ある販売、つまり買い取り販売をすることが求められている。そのためにはいつ、どんな品目が届くかをデータで早い段階で把握していかなくてはいけない。Tsunagu Proで農家にとって今以上に有益となる販売体系の確立を目指していく」と話している。