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切り花にもサステイナビリティー? “環境にやさしい花き農家”を見える化するMPS認証の価値

深江 園子

ライター:

切り花にもサステイナビリティー? “環境にやさしい花き農家”を見える化するMPS認証の価値

暮らしや慶弔事、行事などに欠かせない花き類は、日本の農業産出額のおよそ4%弱(2019年)を占める農作物です。しかし野菜などと比べると、農家のこだわりは消費者に伝わりにくいのが現状です。そこで、無農薬無化学肥料の花農家で、認証制度を活用する山田農園(北海道夕張郡長沼町)の取り組みについて聞きました。

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花農家の仕事を見える化する認証サービス

認証掲示

山田農園(長沼町)の認証マーク。現在は紙の証明書を廃止してオンライン更新されている

花きに関わる国際認証のひとつが、MPS(花き産業総合認証)です。発祥は花き先進国オランダの環境負荷低減プログラムで、その後グローバルGAPなどの認証制度とも関連して花業界の環境負荷、工程管理、品質、社会的責任を評価するものとなっています。現在は世界45カ国以上で採用され、自然環境や労働環境に配慮した花であることを国を超えて示しています。

日本の認証団体であるMPSジャパン株式会社では、生産者向け、市場向け、流通向けの各MPS認証サービスを管理しています。このうち生産者向けの国際認証はさらに細分化されて4種類あり、日本ではこのうち、環境負荷に関する「MPS-ABC認証」について取得が始まっています。同社ではこの他、日本独自の「花き日持ち品質管理認証制度」も設けていて、MPS-ABC認証と同時取得することも可能です。

2021年10月現在、生産者向けの「MPS-ABC認証」を取得したのは40軒ほど。実は、花き農家が初回認証を取得するまでには、①認証の定めるルールや禁止項目の理解、②過去1年間の栽培履歴と肥料・農薬・エネルギー等のデータ提出、③伝票確認や残留農薬分析を含む現地審査の3つのステップがあり、実質1年間の準備期間がかかります。こうしたハードルがある一方で、「栽培の見える化」のメリットも多そうです。MPSジャパンの彦田岳士(ひこた・たけし)さんによれば、「例えば、施肥や防除のデータを取り、MPS基準で見直した結果、肥料や農薬のコストが減った参加者も数多くいらっしゃいます」とのこと。「環境にやさしい花き生産」という価値観は日本ではまだ一般的ではありませんが、MPS-ABC認証は一種の「環境にやさしい花農家の成績表」のようなものと言えそうです。

北海道初のMPS認証農家

山田公さん

自分の代で無農薬に転換した山田公(やまだ・こう)さん。山田さんの母、妻の皆子(みなこ)さんの家族3人と、常勤1人、パート1人、ほかウーファー(※)などの体制

北海道長沼町にある「山田農園」は、花の生産が盛んな町でもまれな、自然農法による花き農家です。4代目の山田公さんは青森や東京で建築関係の営業マンとして5年勤めた後、野菜や米などを栽培する父のもとで就農。途中、カスミソウを皮切りに花の生産をスタートさせ、現在は50メートルハウス11〜12棟でトルコキキョウ、ブルースターはじめ多品種を栽培しています。同農園が初めてMPS-ABCの国際認証を取得したのは2014年1月。山田さんがこの認証に興味を持ったきっかけは、第三者認証の明快な仕組みでした。「事前講習を受けてみると、視察日だけでなく普段の仕事をきちんとデータや伝票で評価される。これなら信頼になるだろうと思いました」

生産者がMPS-ABC認証を取得する時、最大のハードルとなるのは慣行栽培との農薬のルールの違いです。山田農園のケースは、既に無農薬農法に転換済みだったことで申請がスムーズに進みました。
無農薬栽培への転換のきっかけは、山田さんが農薬散布の度に体調不良に苦しんでいたことでした。そこで花作りのパートナーである妻の皆子さんとも相談し、農園を継いで10年経った2007年に無農薬への転換をスタート。苦心の末、現在は農園内で採取した土着菌と稲わらの自家製堆肥(たいひ)をベースに、微生物の働きを促すことで植物を健康に育てています。

申請時の具体的なチェック項目は農薬と肥料の購入履歴、ガソリンや灯油、電気、水の使用量、廃棄物の分別状況など多岐にわたります。これにより、栽培で発生した環境負荷が「見える化」され、一定基準以下であることが証明されます。特徴的なのは、認証の有効期間が3カ月と短く、更新がオンラインで行われる点。更新状況はオランダの国際認証団体のサイトに表示されます。山田さんの場合は日頃から日報をつけてハウス1棟ごと、花の種類ごとに詳しく記録する習慣があったため、初回審査が非常にスムーズでした。また、更新時にデータに目を通すことで、生産体制の良い点や要改善点をはっきり把握することができたといいます。「うちは季節ごとのニーズに合わせるため花の種類が多いのですが、その全作業を見渡すよい機会です。更新作業に手が回らない時もありますが、一度休止しても栽培のルールさえ守っていれば再び更新することができます」(山田さん)。2021年10月現在、山田農園は更新手続きの準備中です。

根昆布の堆肥

土壌のミネラル不足を防ぐため、道東へ昆布漁の残渣(ざんさ)を引き取りに行くことも欠かせない

※ ウーファー:ホストとなる有機農家の作業を手伝い、食事や宿泊の提供を受ける、ウーフジャパンの会員。

認証に取り組んで、自分のやり方が確信に変わった

山田さんの花は、メンバーである花き生産者グループ「北の純情倶楽部」の集荷場から仲卸や市場へ送られ、花店へ流通しています。札幌で民間経営の花市場を運営する株式会社ブランディアの営業特販部部長、鈴木雄太(すずき・ゆうた)さんは「山田さんは、かゆいところに手が届く生産者さん。花屋さんが欲しいものを欲しい時期に作ってくれるので、頼りにしています」と言います。地元の花専門店やマルシェイベントで山田さんの花を買った人たちからは、「食卓に安心して飾れる」「花持ちが良い」という感想が届きます。「でも、自分で思っているだけではなかなか伝わらない。そこを認証という形で示せるのは、やっぱり大事です」と山田さん。MPS認証は国際的な規格ですが、実は国内での普及はまだこれから。価格にも反映しているとは言えません。しかし、お客さんたちの言葉が示すとおり、山田さんの花には見えない付加価値が確かにあります。

トルコキキョウハウス

取材した8月はトルコキキョウやアルストロメリア、ブルースターが旬。ハウスにはトンボやテントウムシがいた

もうひとつ、山田農園では冒頭で紹介した「花き日持ち品質管理認証」も同時取得しています。こちらは採花から出荷までの作業、時間、衛生面の管理基準を守った、日持ちの良い花の証明です。山田農園では海洋堆肥のミネラル分で土壌改良しているため株が頑丈で、小売店でも花の日持ちに定評があります。そうした特徴もまた、「日持ち認証」という形で打ち出しやすくなりました。
認証の対象は生産部門だけでなく、例えば前出のブランディアのように、流通部門で同認証を取得する企業も少しずつ増えています。このように、生産と流通が共通の認証に取り組めば一貫して花の日持ち品質を保つことができ、小売店は安心して仕入れができるようになります。

「野菜も花も、人が喜ぶものを作りたい。皆が安心安全でおいしい、心地いいと感じるにはどうすればいいかを考えながら働いています」。そう語る山田さんにとって2つの認証とは、無農薬の花づくりを可視化し、手塩にかけた花の魅力を伝えるためのものだと言えそうです。オランダで認証制度が誕生した背景には、生産に伴う環境負荷の問題がありました。現在、欧州では他の作物と同様に、サステイナブルな花き生産が定着しています。日本でも花き生産の将来を見据え、持続可能性という新たな価値観の定着が求められていくでしょう。

山田農園 北のあかり
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