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地熱と沢水で冷暖房 寒冷地でリーフレタスを周年出荷

山口 亮子

ライター:

地熱と沢水で冷暖房 寒冷地でリーフレタスを周年出荷

冬場の気温が零下20度を下回ることもある福島県岩瀬郡天栄村の湯本地区は、その厳しい気象条件から、冬野菜の栽培は無理と考えられてきた。ところが、村は2012年に野菜の周年栽培をすべく、ハウスを建設する。地熱で暖房を、沢水で冷房をするハウスは、その名も「エコ菜(な)ハウス」。ここでリーフレタスの無農薬栽培を続けるNPO法人湯田組を訪ねた。

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「エネルギーの地産地消」でハウス栽培

エコ菜ハウスのある湯本地区は、湯治場である岩瀬湯本温泉で知られる。湯田組が事務所を置く岩瀬湯本温泉のかやぶき屋根の家並みは、漫画家・つげ義春(よしはる)の作品によく登場する。そんなひなびた温泉街から車で5分ほど山あいを進むと、エコ菜ハウスの三角屋根が現れた。

ここではリーフレタスを周年栽培していて、近隣の宿泊施設やゴルフ場に業務用として出荷する。2021年1月からは、湯本地区の住民を対象に週1回、レタスを1袋単位から定期的に届ける宅配サービスも始めた。

湯本地区はインゲンをはじめ、トマトやキュウリといった夏野菜は盛んに栽培されるものの、冬野菜の生産はもともと皆無だった。豪雪地帯の上に、気温が恐ろしく下がるためで、新鮮な青物野菜が手に入らない分、漬物文化が発達している。そんな土地柄でなぜ、野菜の周年栽培に踏み切ったのか。

外観

エコ菜ハウス。左が地熱の井戸

ハウスができたのは、偶然からだった。発端は、ハウスのすぐ脇にある井戸だ。これは、地熱発電の調査のため、2005年にNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)によって地下1400メートルまで掘削された。火山の二岐山(ふたまたやま)が近くにあり、温泉地でもあることから、地熱発電の適地ではないかと考えられたからだ。

温まった地下水を含む温泉帯水層を掘り当てたものの、湧出量が少なく、残念ながら発電には使えなかった。通常なら井戸はすぐ埋め戻されてしまうのだが、天栄村は地域のために使えないかと井戸を保存した。「エネルギーの地産地消」にこの井戸を使おうと決め、2012年にハウス建設に着工。2013年から、管理をNPO法人湯田組に委託した。

「井戸に水を入れてやると、電気ポットみたいにお湯になって出てくる。湧出量の多い水脈に井戸が当たっていると、水の量が増えたり減ったりするし、土の中の汚れが出てきたりする。ここはそんな問題もないので、農業利用には向いていた」

湯田組事務局長で栽培を担当する星昇(ほし・しょう)さんがこう説明する。
「全国各地に地熱発電用の調査井戸はあるけれど、発電がダメとなったら、ふつうはすぐ埋めちゃう。ここはそれを活用した、全国的にも、世界的に見ても珍しい例」

零下20度でも地熱のみで栽培

しくみはこうだ。二岐山の伏流水が流れ込む近くの沢水を引っ張ってきて、水耕栽培に使う。夏場はエアコンの代わりによく冷えた沢水の冷気をハウス内に循環させる。加温が必要な時期は、やはり沢水を利用し、1400メートルの深さの井戸に入れる。すると、温められてできたお湯が自然と上がってくるので、それをハウス内に引き込む。

エコ菜ハウスの冷暖房のしくみ

エコ菜ハウスの冷暖房のしくみ(資料提供:NPO法人湯田組)

室温は年間を通じて16~20度に保ちたいと考えている。ただし、沢水で冷やすだけに冷却効果は比較的マイルドで、夏は30度近くになることも。その点、地熱の力はなかなかのもので「冬はこの温度幅でだいたい収まる」(星さん)。

奥にあるのが冷暖房装置。装置の内部を何本ものチューブが走っていて、その中を沢水が通る。冷たいままの沢水を通せば冷房に、地熱で温めてから通せば暖房になる

ハウスの広さは約350平方メートルだ。現在の井戸には、現状のハウスと同規模のものをあと2棟運営できるだけの余力がある。「調査井戸はほかに2本あるので、やろうと思えばかなり大規模に栽培できる」と星さん。
毎月の光熱費は4、5万円ほどで、季節変動はほぼない。冬場に重油で暖房をたく生産者が周辺地域に全くいないので、どの程度の節約効果があるかは、はっきりしない。ちなみに星さんと一緒に生産するメンバーが過去に、同程度の規模のハウスでシイタケを栽培しようとして重油の暖房を使ったところ、ひと月で数十万円かかり、早々にあきらめたそうだ。

コロナ禍で宅配開始

地元向けの宅配は、3種のレタスを1袋にまとめた「ミックスレタス」を届ける。注文者からは「ここのレタスは断トツに新鮮でおいしい」と喜ばれている。色や形状の異なる3種をまとめているため「花束みたいに見える」と、来客への贈り物にも使われているそうだ。

宅配を始めたのには、コロナが影響している。地域の宿泊施設やゴルフ場の利用者が減っただけでなく、食事の提供方法が感染予防もあってビュッフェ形式から弁当に変わった。ビュッフェ形式だとサラダ用にレタスを多く使うが、弁当となるとレタスはさほど必要ない。

「もともと、レタスがほしいという依頼は、住民からときどき受けていた。コロナの影響で、生産しても余ってしまってどうしようというときに、地元から注文を取って、定期的に届けるようにした。おかげで今は、安定的に買ってくれるお客さんがいる」(星さん)

ミックスレタス

3種のレタスを詰め合わせたミックスレタスが地元住民に人気

エコ菜ハウスの運営は、販売利益と村からの委託管理費で成り立っている。が、なかなか利益を上げるところまでは至っていない。福島県内には、再生可能エネルギーやLEDを使った栽培施設が東日本大震災後に建設されてきた。稼働をやめたところも多いので、その点、エコ菜ハウスは小規模ながら健闘していると言えるかもしれない。

「新規作物に挑戦して、収益性を上げることをやりたい」(星さん)と、ハウスの一角では試験的にメロンを栽培していた。収益性の高い夏秋イチゴも考えているそうだ。
「いろんなところで似たような取り組みが進めば、その分だけ脱炭素が進むので、周りにうまく波及していくといい」
本来なら捨てられてしまう井戸を再生したエコ菜ハウス。SDGsや脱炭素が求められる時代だけに、未利用の資源を生かしたその挑戦を知ってほしいと星さんは考えている。

NPO法人湯田組(Facebook)

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