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冬野菜販売の工夫とは? 地味だけどおいしいからきちんと伝えたい!【直売所プロフェッショナル#15】

冬野菜販売の工夫とは? 地味だけどおいしいからきちんと伝えたい!【直売所プロフェッショナル#15】

直売所を複数展開する民間ベンチャーの創業者たちが、直売所運営のイロハについて事例をまじえて紹介していく連載。第15回は、夏とくらべると地味になりがちな冬野菜の販売で大事にしていることについて。

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冬の野菜は地味、でもタイミングを見極めたらすごくおいしい!

直売所は地元の野菜が中心になるということで、スーパーマーケットなどと比べると、どうしてもラインアップが限られます。だからこそ、売り場から季節感が感じられるとも言え、季節ごとにその並ぶ野菜が大きく変わります。そして、春夏ごろと比べると冬は少し地味になってしまいます。春夏の主力野菜はトマト、トウモロコシ、枝豆、キュウリ、ナス、スナップエンドウなど色とりどりで味もハッキリとして調理も簡単なものが多いのですが、冬はホウレンソウや小松菜、大根、白菜、サトイモなど、少し地味で食べるときに手をかける必要があるものが多くなります。また、霜が降る時期になれば、朝どりの野菜をその日に直売所に並べることは難しくなり、POPに「朝どり」などと書くこともできません。そういう意味でも、夏と比べると「鮮度」をわかりやすく訴求することも少し難しくなります。

では、冬の直売所は夏とくらべて魅力がないかというとそんなことはありません。おそらく、農家の方にとっては当たり前のことでも、消費者が普段意識していない冬野菜の魅力がたくさんあり、直売所であればその魅力を伝えられるのではないかと思います。

最近では定番として店頭に並ぶことも増えた、冬が旬のロマネスコ

寒さに当たって甘くなる! 農家の常識は消費者の非常識

かなり感覚的で個人的ではありますが、長年直売所を運営して感じる冬野菜の魅力は、寒さに当たって「濃縮されたおいしさ」です。冬の霜に当たって寒さに耐えて出荷される露地栽培のホウレンソウは、肉厚で甘みが強く、うま味さえも感じます。個人的には、この時期のホウレンソウは肉や魚と同様、食卓の主役になれると思っています。これは、いくら流通が発達し、栽培技術が高まっても、寒い時期にしか味わえないものです。夏に栽培されたホウレンソウはどんなに頑張ってもこの味にはなりません(もちろん、夏のさっぱりしたハウス栽培のホウレンソウがおいしいという方がいるのもわかります)。

ホウレンソウは一例ですが、冬の野菜は寒さに当たって甘み・うまみが増し、葉物だと肉厚になりおいしいというのは農家の方にとっては常識だと思います。また、ネット上などでも以前よりは情報として出てくるようにもなっています。とはいえ、まだまだ知らない、実感していないお客様は多いです。一年中同じ野菜が並び、旬のおいしい野菜を起点にレシピを考えるのではなく、レシピから野菜を買う方が多い現代においては仕方ない部分もありますが、直売所を運営している身としては残念にも思います。そして、この「冬野菜はおいしい」という農家の常識をうまく消費者へ伝えることこそが差別化のポイントにもなり得ると思います。

寒さで野菜がおいしくなることがお客様に伝わりにくい理由の一つに、毎年寒くなるタイミングが違うので、段違いにおいしくなるタイミングも毎年違うということがあります。そのため、お客様にここからが本当においしい時期ですよ、と伝えるのが難しいのです。例えば、今シーズンは暖冬だったこともあり、東京では霜が降ることが多くなく、12月下旬まではおいしさのピークが来なかった印象です。私たちの店では、スタッフが日々の生活で地元の野菜を食べているので、自然とおいしくなってきたタイミングを実感できます。そうなるとお客様に伝えたくなり、接客やPOPを通じてお伝えできます。ところが、スーパーなどではいろいろな産地から野菜を仕入れるので、そのタイミングを把握するのは難しいでしょう。また、ハウス栽培か露地栽培かで味が変化するタイミングが変わる(厳密には露地栽培でもどういう資材を使うかで変わりますが)ことも考えると、お客様に伝えるのはかなり難しそうです。

このように考えると、寒さに当たっておいしくなったタイミングでそのおいしさを伝えるという点で、直売所という業態はかなり優位性があります。特に、農家の方が持ち込む直売所であれば、「寒さに当たっておいしくなってます」ということを、自らが実感をもって伝えられるのですから。おいしい野菜を食べた経験というのは本当に強い来店動機になります。多くのお客様に「この野菜は今が一番おいしいよ!」を伝えられる直売所にしていきたいものです。

東京では12月中下旬〜2月上中旬くらいが一番おいしいホウレンソウ、小松菜

品種による違いを、きちんと伝える

冬野菜はとにかく地味な話に終始してしまうのですが、もう一つ大事だと思っていることは、「品種による違い」をきちんと伝えることです。

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こちらも、夏野菜ならトマトだと大きさや色、味が全然違うなどわかりやすいのですが、冬野菜の場合は見た目が(素人目には)ほとんど変わらないものの、品種が違って味も違うというものが多くあります。それをPOPや陳列方法、包装の工夫、試食などを通じて伝えたいのです。

例えば、ニンジンは品種により全く味や香りが違います。定番の「向陽2号」に対して、ニンジンらしい香りが少なく食べやすい「アロマレッド」や、甘みが強いのが特徴の「ベータリッチ」など。これも栽培している農家さんにとっては当たり前のことかもしれませんが、お客様は見ただけではわかりません。それぞれの特徴をうまく伝えられれば、リピートしてくれるファンが獲得できます。直売所を運営していて感じることは、「味の好み」というのは多様だということです。買った野菜が偶然好みに合ったという状況から、「自分の好きな味の野菜はこれ」と選んでもらえる売り場にしていければ、必ずお客様は増えていくはずです。

甘くて人気の「ベータ」シリーズ

もう一つ例を挙げると、こちらは見た目でわかりやすいものもありますが、白菜の品種による違いも伝えたいです。定番の黄芯白菜が一番人気なのですが、最近はオレンジ白菜(「オレンジクイン」など)が甘みやうまみが強く生でも食べられると人気が高まっています。さらに、紫白菜も飲食店さんを中心に人気が出てきました。これらはわかりやすいのでお客様に情報を伝えやすいのですが、少し難しいのが「白い芯」の白菜です(「松島純二号」など)。

黄芯白菜が出てくるまではこちらが一般的だったということですが、今では白菜の中心は黄色いものだというイメージが強いので、最近はなかなか売れません。しかし、こちらの方が柔らかくておいしいというお客様もおり、私たちの店でもファンになるスタッフもいるほどでした。私たちの取引農家さんでも、数年前までは自宅で食べるのにもこちらがおいしいと2、3人栽培している方がいたのですが、私たちがうまくその魅力をお客様に伝えられず、今では栽培する方がいなくなってしまいました。これは失敗例なのですが、うまく販売ができてお客様がつけば、他店との差別化という意味でも価値があるオリジナリティーのある商材になっていたはずなのです。

定番で人気なのは黄芯白菜

見た目ではわかりにくいものの味や機能性が違うというのをどう伝えるか、実感してもらうか、を常に意識することが重要です。

冬だからとほったらかしは要注意

最後に、販売にあたっての品質管理について注意していることも述べておきます。暑い夏と違い、冬は野菜の劣化が進みにくい時期です。特に根菜類はすぐに傷むものでないため、品質管理については少し気が緩みがち。直売所の売り場に、売れるまで長く放置されることもあるかもしれません。ただし、ご存じの通り、サトイモやサツマイモは寒さに弱い野菜。売り場や保管する場所の温度帯や湿度帯によっては傷みが出ることもあります。また、荷造りの際には大丈夫でも、小さな傷みが少しでもあれば、しばらく置くと広がったりもするので注意が必要です。

そして、特にサトイモに言えますが、購入した一袋の中に傷みのあるものや中が硬いものが全く入っていなかった商品は、お客様が価値を感じてくれます。どこで買っても、サトイモは意外と良くないものが袋の中に混ざることが多い野菜。この農家さんのサトイモは間違いがない、この直売所のサトイモは間違いがない、という評判を獲得できれば、サトイモはあそこで買おう、となります。

根菜類の品質管理はどうしても意識が低くなりがちですが、注意が必要です。商品をしっかり管理しやすいというのも農家と売り場の距離感が近い直売所のメリットと言えるでしょう。

厳しい選別で間違いないと大人気、国分寺・佐藤園のサトイモ

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