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変化こそ経営のモットー、レンコン農場を売り上げ1億3000万にまで成長させた戦略とは

連載企画:農業経営のヒント

変化こそ経営のモットー、レンコン農場を売り上げ1億3000万にまで成長させた戦略とは

経営者の多くは、会社を運営するうえで大切にしている信条を持っている。茨城県小美玉市の農業法人、山口farm(ファーム)の山口正博(やまぐち・まさひろ)さんにとってそれは「変化を恐れないこと」だ。飛躍を目指し、いくつもの変化を決断してきた山口さんの歩みを紹介したい。

家業を守るために脱サラして就農

山口さんは現在、42歳。13ヘクタールの畑で、レンコンを栽培している。販路はスーパーや生協、ネット宅配会社、産直サイトなど。2021年5月期の売り上げは1億3000万円で、来期は1億5000万~1億6000万円を見込んでいる。

実家は代々の農家だが、「農業をやるつもりはまったくなかった」という。いくつかの仕事を経た後、野菜の加工会社に就職した。全国の農家を回って野菜を仕入れ、卸会社に販売するなど会社の中核の仕事を担った。

出勤は朝早く、帰宅するのは夜遅く。全国各地を飛び回り、休みの日でも何かトラブルがあると対応した。忙しい毎日ではあったが、「こういう生活も悪くない」と思っていた。仕事に手応えを感じていたのだ。

画像1)山口正博

山口farmを経営する山口正博さん

8年ほど勤めたとき、転機がやってきた。一緒に酒を飲んでいた父親から「年も年だし体も続かない。いずれ農業をやめようと思う」と打ち明けられたのだ。山口さんはその場で「明日会社に辞表を出す」と話した。

仕事は充実していた。だが家族経営の企業なので、自分が将来トップになる芽はなかった。それよりも父親が積んだ経験や知識を引き継ぎ、会社を立ち上げて、経営者として家業を発展させたほうがいいと考えた。

父親はこのとき、「おまえ本気か」と驚いた表情を見せたという。だが宣言通り、翌日には会社に辞表を提出。「ちょっと待て」と幾度も引き留められたが、仕事の引き継ぎを終えると退職した。32歳のときのことだ。

画像2)レンコン

カットする前のレンコン

「ほかから仕入れてくれ」と不採算事業を打ち切りに

就農時は年間の売上高が2000万円に届いていなかった。それから10年でどうやって事業をここまで大きくしたのだろうか。

就農するとすぐ、各地を回り始めた。
訪ねた先はジャガイモやコメ、枝豆など各分野の農家。何が農業の課題かを知りたかったからだ。答えは「天候に左右される」「施設栽培は経費がかさむ」「人件費の負担が大きい」などさまざま。相手の話に耳を傾けながら、営農の作戦を練った。

2カ月で戻ると、販路を開拓し始めた。目標は相場に左右されにくい売り先の確保。前職で培った人脈をテコにスーパーのバイヤーなどを訪ね、少しずつ契約を増やしていった。もともと農協に出していたが、1年以内にすべて新たなルートに切り替えた。これが最初の大きな決断となった。

契約で重視したのは、きちんと利益を出すことだ。そこで平均収量や電気代などの経費、労働時間などをもとにいくらで売るべきかを割り出した。相談相手は父親。「生活がギリギリのレベルになる売価はいくら」「1.5倍で売ったらどうなる」。そんなやりとりを重ねながら、商談に臨んだ。

ただし、一方的に「この値段で買ってくれ」と言うだけでは交渉はまとまらない。そこで始めたのが、化学肥料から有機肥料への転換だ。農薬の使用量も大幅に減らすことにした。これが2つ目の決断だった。

画像3)作業場の様子

作業場の様子

こだわりの一品である点をアピールすることで、販路の開拓は順調に進んだ。だが栽培方法を抜本的に見直したことで、思わぬ副作用が出た。収量が4割落ち込んだのだ。これを立て直すため、農業コンサルタントに依頼して土壌分析を進め、有機肥料の中身を栽培に適したものに改めた。

栽培を軌道に乗せる傍らで、規格外品の販売も模索した。レンコンは中身が少しでも変色すると、ふつうに出荷したのでは値段がつかなくなる。そこで皮をむいて塩水に漬け、筑前煮などの加工会社に販売した。

仲間の農家からも仕入れることで、この取引は急激に膨らんだ。だがすぐに限界に気づいた。皮むきなどの加工賃を考慮すると、ほとんど利益が出なかったのだ。取扱量が増えるほど、矛盾は大きくなっていった。

「きちんと利益を出す」という原点に立ち返り、値段を上げてほしいと要望した。多くの会社はこれを拒んだ。1社だけ受け入れてくれたが、量を減らすのが条件だった。そこでこの事業からの撤退を決めた。相手は「困る」と言ってきたが、「ほかから仕入れてくれ」と言って打ち切った。

決断の背景には、就農時に掲げた「会社を立ち上げる」という目標があった。見た目だけ売り上げを増やしても、まともに利益の出ないような事業を抱えていては、会社を成長させることはできないと考えたのだ。

そして2018年、山口farmを設立した。このとき山口さんは、収益性を高めながら会社を大きくするための次の手を打っていた。

画像4)会社設立

会社設立は就農時からの目標だった

真空パックで収益を大幅に向上

収益の向上は、スーパーからの提案がきっかけだった。「真空パックにしてみないか」。レンコンは品質が劣化しやすいのが難点。とくにカットした断面が変色しやすい。真空パックならこれをある程度防ぐことができる。

この提案は双方にメリットがあった。これまでは収穫後、数珠つなぎになったレンコンをそのまま出荷していた。出荷前の作業は、節の部分に生えた細かい根を包丁でそぎ落とすこと。これがかなりの手間になっていた。

一方スーパーは、数珠つなぎの状態のまま入荷したレンコンを、「たま」ごとにカットして発泡スチロールのトレーに乗せ、素早くラップで包んで店頭に出していた。ぎりぎりまでカットしないことで変色を防ぐのが目的だが、人件費がかさむこの作業はスーパーにとっても負担になっていた。

真空パックにすれば、両方を大幅に省力化できる。出荷する側は、たまの両端を根ごとカットして真空パックにするだけ。スーパーはそれをそのまま店に並べればいい。山口さんは提案に乗り、専用の機械を購入した。

画像5)真空パック

「オイシックス」に販売するためにパック詰めしたレンコン

これだけでも利益を増やす効果は十分あったが、山口さんはさらに一手を打った。たまを1個ずつではなく、100~500グラムの重さに分けて出荷することにした。重さが足りなければ、1つのパックに複数個入れる。

重要なのはこの先だ。傷や変形などの見た目では区別せず、重さだけを基準にパックに詰めるようにしたのだ。スーパーのバイヤーは当然、戸惑った。これに対し、山口さんは「味は変わらない。消費者の反応を確かめてほしい」と説得した。予想通り、消費者は見た目を気にしなかった。

その際、売価はそれまで規格品として販売していた水準をもとに設定した。店舗での作業が大幅に減り、商品の劣化を防ぐという効果があるからこそ、スーパー側もこの価格設定を受け入れた。こうして山口さんは、規格外品を安値で販売せざるをえなかった状態から脱することができた

山口さんはいまこの戦略を一段と徹底している最中だ。2021年11月に2台目の真空パックの袋詰め機を購入した。機械が1台では処理能力に限界があったため、2~3割は以前と同様、根をとって数珠つなぎの状態で出していた。2台体制が軌道に乗れば、全量真空パックで出せるようになる。

取材で質問に答える中で、山口さんは何度も「はっはっは」と笑い、「変わっていくのは面白い」とくり返した。いまも現在進行形で変化しつつある山口さんの営農の姿を、紹介する機会はこれからもあると思う。

アイキャッチ)画像6)珠美

「珠美(たまみ)」は山口farmの商品のブランド名

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。
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