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直売農家のおすすめ冬野菜【ゼロからはじめる独立農家#27】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

直売農家のおすすめ冬野菜【ゼロからはじめる独立農家#27】

葉野菜、根菜中心の冬野菜は、実野菜中心の夏野菜と比べ種類が少なく、栽培技術もそれほど幅がないので簡単だと思われがちです。しかし栽培期間が長いほか、春の端境期を見据えなくてはならないなど考えることがたくさんあります。そこで今回は、野菜セットを20年販売してきた経験を踏まえ、冬の栽培におすすめな野菜とその栽培方法をお伝えします。

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地味から滋味へ

トマトの赤、ナスの紫、キュウリの緑などカラフルで種類が多い夏野菜に比べ、冬野菜は葉野菜、根菜中心と、地味で種類が少ない印象がありますが、だからこそチャンスの時期だと、我が菜園生活 風来(ふうらい)では考えています。

風来では「冬野菜は地味だけど滋味深い」というキャッチフレーズで野菜セットを販売しています。事実、朝昼の寒暖の差があればあるほど甘みも増しますし、何より「滋味」という響きは日本人の心情に訴えるものがあると実感しています。

夏は野菜セットを単発で注文する人が多いのですが、秋、冬は1度注文したユーザーさんが定期便(月に1回、もしくは2回お届け)に移行するというケースが増えてきます。

冬の野菜セットは毎回、ダイコン、ハクサイ、キャベツ、ブロッコリー、ニンジンなどのスタンダードな野菜が入ります。だからこそ普段食べているものと比べてもらうことができ、味の違いがわかることがリピートにつながっているのだと思います。

一年通して販売している野菜セット

リピーター続出の冬の野菜セット。そんなセットに向いた野菜の品種のほか、小さい農家だからこそできる裏技的栽培方法をお伝えします。

おすすめ野菜と品種

風来の野菜セットには、スタンダードなもので年間通して12種類ほどの野菜が入ります。箱の大きさは長さ38×幅25×高さ17センチの宅配便80サイズでお届け。夏は実野菜中心で箱に少し余裕があるくらいですが、冬は重量があり大きな野菜が多いので、普通に考えると種類を少なくするか、箱のサイズをひとつ上の100サイズにするかどちらかです。100サイズになると送料がアップしてしまい結果的にお客様の負担になってしまうので避けたいところ。

2021年秋・冬の畑MAP

野菜セットで豊富なバリエーションを楽しんでほしい。そんな思いから、風来では小型の野菜を多く育てています。

ミニハクサイだとタキイ種苗の「CRお黄にいり」とニチノウ(日本農産種苗)の「愛姫白菜」、キャベツはグリーンボール系でタキイ種苗の「マノア」もしくはトーホクの「ベルデボール」を中心にしています。

ダイコンは大きすぎると箱に入りきらなくなるので、タキイ種苗の「三太郎」、トーホクの「かわいい大根」を中心にして、遅い時期には「源助大根」(各種苗メーカーより販売)を育てます。

これらの品種は小型で丸のまま箱に入れやすいという理由もありますが、密植栽培にも向いていて後述する育て方にも直結しています。

また、冬の野菜で個人的に欠かせないと思っているのがカブです。カブはいろいろ育ててみたのですが、小玉から中玉、大玉まで形がよく味もよいとなるとなかなかありません。現在、カブはすべて武蔵野種苗園の「百万石青首蕪」を育てています。もともと北陸の冬の漬物の代表である「かぶら寿司」用なのですが、キメも細かく煮炊きしてもおいしいというのと、育てやすく小カブから大カブまでおいしく肌がきれいというのが理由です。

冬を乗り越える栽培方法

夏の実野菜は栽培技術によって実をつける数、つまり収量が大きく変わります。それに比べ冬の重量葉野菜(キャベツ、ハクサイなど)や根菜は基本的に収穫したら終わりなので、栽培面積と収量が大きく影響してきます。つまり小さい耕地面積だと収量が少なく、売り上げにも影響してきます。

サッカーコート半分(約30アール)ほどの風来の畑。そんな小さな畑で少しでも収量をあげようといろいろ工夫してきました。

まず冬野菜の代表であるキャベツとハクサイは、セルポットで種まきする時には2粒ずつまきます。ひとつしか芽が出なかった場合は他のポットのものと組み合わせ、1カ所に2株ずつ定植します。ある程度大きくなったら、大きい方を間引きます。普通は生育のよい方を残しますが、間引き菜を葉野菜として野菜セットに入れるので大きい方が重宝します。残りの小さい方も1株になったことでグングン育ちますので、そちらは十分に成長させてから収穫します。

ちなみに風来では幅120センチのうねにハクサイ、キャベツ、ブロッコリーは3条、株間45センチで密植気味に育てています。ミニ野菜は総じて吸肥力(土壌の栄養分を吸収する力)が高いのが特徴で、この栽培方法も先に紹介した品種だからこそできます。

1カ所に2苗育てて大きい方を間引きしつつ野菜セットに

ダイコン、カブも1カ所に3粒ずつ種をまき、ひとつは間引き菜として、もうひとつはミニダイコン、小カブとして、最後は普通のダイコン、カブとして出しています。

コマツナやミズナ、リーフレタスなどの葉野菜は収穫したら終わりですが、葉野菜の中でも春菊や菜の花、最近知られてきた野菜だとカリーノケール、カーボロネロ(黒キャベツ)は脇芽や葉を一枚一枚収穫できるものもあります。一度収穫したあともどんどん成長しますので、少しの面積で多く収穫することができます。

合わせ技として、条間30センチ、株間15センチで一発取り野菜と脇芽取り野菜を交互に植えるということもしています。例えば春菊とリーフレタスを交互に植え、最初にリーフレタスを収穫したあとに春菊をゆっくり育てるなんてことも。

農家の本能として立派な野菜を育てたい気持ちもありますが、なにより大切なのは野菜セットを受け取ってくれる人が喜ぶことではないかと思っています。「大きさ」「見た目」「安全性」「味」「価格」。そのバランスをトータルで考えてきたからこそ、多くの人にリピートしてもらったのだと思います。

少量多品種栽培で野菜セット販売を中心にしている農家にとって、野菜を育てる技術はもちろん必要ですが、それと同じくらい一年を通して、野菜をコンスタントにそろえる能力も必要になります。私自身、まだまだ改良の余地もあると思っていますが、そうやって毎年挑戦できる、そしてうまくいった時はその成果が直接売り上げにつながるというのが農家の醍醐味(だいごみ)。いろいろ試してみてください。失敗できるのも小さい農家のよさなのですから。

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