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面接は愛~離職率の低い、成長する農場を目指す話~

maruyama_jun

ライター:

連載企画:牛乳は愛

面接は愛~離職率の低い、成長する農場を目指す話~

人材育成は採用活動から始まります。どんなに豊富なスキルを持ったスタッフが入社したとしても、相性が悪ければいずれ離職してしまうことでしょう。自分の農場に合った人物を採用する。それが農場を成長させるための初めの一歩だと言えます。私の経営する朝霧メイプルファームを例に、面接について一緒に考えていきましょう。

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採用は相性

労務管理について、聞かれると最も困る質問、というものがあります。

「やる気のない人、能力の低い人を辞めさせたいんだけど、どうすればいいですか?」

これです。最も困る質問なのに、結構頻繁に聞かれるので厄介です。私は決まって「あー、それは大変ですねえ……。ところで最近めっきり寒くなりましたねえ……。あ、見てください。ヒマワリが見事に枯れていますねえ」などと意味のないことを言って、お茶を濁すことにしています。
なぜ困るかというと、「それはあなたの採用方法に問題があるので、あきらめてください」と身もふたもないアドバイスしかできないからです。「ダメな社員」「辞めさせたい」。この二つのワードが出る時点で考え方に根本的な間違いがあると思ってしまうので、なかなかアドバイスをするのも難しいんじゃないかなーと、諦めてしまいます。

ダメな社員などいません。それは自分の会社に合っていないだけです。あるいはスタッフに対する要求が高すぎるのかもしれません。辞めさせたい、と考え始めたら、スタッフとの信頼関係は築けません。会社には採用した責任があります。そうならないためにも、しっかりと採用面接をしていきたいものです。

採用は、相性、マッチングです。面接では、能力も重要ですが、それ以上に会社との相性を確かめるべきでしょう。そのために重要だと思えるポイントを以下の3点に絞りました。
・採用方針を明確にする
・評価をする機会を作る
・人柄が見える評価をする

採用方針を明確にする

学歴や資格など、数値化しやすい要素だけで判断することはミスマッチにつながります。そのような数字は、表面的なものでしかありません。その人の勤勉さなどを測る大きな目安にはなりますが、人柄まではうかがい知ることはできません。
会社の風土と、志望者の性格が符合しているのか、比べる必要があります。

朝霧メイプルファームには、クレドというものがあります。会社が大切にしている信条、平たく言えば、社内風土を言語化したものです。このクレドが、採用を行う際の一つの目安となります。
このクレドだけで一つの記事になるくらい、重要な話ではあるのですが、今回は簡単に説明します。メイプルファームには「牛乳は愛」「酪農は楽しい」「朝霧高原が好き」という三つの価値観があります。

クレド

朝霧メイプルファームのクレド。スタッフ全員で意見を出し合って作成した

「牛乳は愛」

この言葉は生産性を追い求めるあまり、牛や人に負担をかけるのはやめよう。という考えに基づいています。
あくまで朝霧メイプルファーム独自の価値観であって、正解ではありません。極端な話、「牛の生産性をギリギリまで高め、世界一儲かる牧場を目指そう!」という価値観があっても私は全然問題ないと思います。それだけ精緻で高度な管理をしたい、という志望者もいるはずです。

「酪農は楽しい」

まだまだネガティブなイメージも少なくない酪農において、仕事を楽しむ意識を大切にしています。効率化やマニュアル化、そして話し合いを大事にしています。朝霧メイプルファームでは、チームプレーを円滑に行うための、コミュニケーション能力が求められます。
これも必ずしも正解ではありません。例としてあえて逆の価値観を提示してみましょう。

「酪農は職人技」。みんなでワイワイやるのが苦手。人付き合いは得意じゃなかった。でも黙々と仕事に向き合うのが好き。この牧場はそんなスタッフが多い。自分の担当した仕事に責任を持ちプライドを持って働く農場です。

こんなうたい文句はどうでしょうか。志望者が知りたいのは具体性のある社内風土についての説明です。

「朝霧高原が好き」

土と水がなければ成り立たない、それが農業。朝霧を開拓した先人たち、祖父母に敬意を込めて。田舎が嫌いで東京に出ていった不良少年も、ここまで言えるくらい立派に育ちました。R.I.P.祖父母。

1947年当時の朝霧高原

1947年の朝霧高原。当時は荒廃した不毛の地だった

このように、牧場の個性、風土を言語化することは、採用活動においてとても重要です。
クレドと経営理念は似ているようで少し違います。経営理念は経営者が従業員を引っ張っていくための、トップダウンな概念なのに対し、クレドはスタッフがどう働くかを言語化した、ボトムアップなものになります。
就職希望者は、自分にとって働きやすい環境なのかを、とても重要視しています。給与や待遇よりも優先している人も多くいることでしょう。どんな人と働くのか。その相性が言わばやる気の源になるとも言えるでしょう。

朝霧メイプルファームの採用においては、このような要素を項目化し、志望者がどれだけ符合しているのか数値化をしています。
ここで少しテクニックを要するのが、直接質問するのではなく、間接的に知ることができるような機会を作る、ということです。つまりどういうことでしょうか。
「あなたは優しい人間ですか?」「あなたは誠実な人間ですか?」、そんな質問にはほとんど意味はありません。志望者は当然自分をよく見せようとするからです。どのようにそこを引き出すのか、具体的な例は次項で述べることにします。

評価をする機会を作る

朝霧メイプルファームでは、就職説明会→書類選考→ウェブ面接→インターン、このような流れで採用に進むことが多いです。
その中で、前述した項目について、どれだけマッチしているのかを知る機会を設けています。
就職説明会を受けてもらったうえで、書類選考を行うのですが、その書類の中で志望動機について簡単に述べてもらっています。
ただし志望動機を読む時に「なんとなくいいなあ」「あんまりよくないなあ」とあいまいに評価するのはもったいないです。就職説明会でこちらの伝えたことが、いかに志望者の心に響いているのかを評価するようにしてください。
メイプルファームの場合、伝わってほしい部分を項目化し、それについて正確に理解しているのかを数値化して評価をしています。
逆に言えば、どんなに立派で殊勝なことが書いてあっても、就職説明会で説明したこととずれているようでは、マッチングとしては低評価と言わざるを得ません。なんとしても避けたいのは「会社のことはよくわからないけど、とりあえず就職したい」という人を見抜くことです。志望者は採用を得るために、自分を過大広告しているのかもしれません。

就職説明会で、アンケートを取るのもいいでしょう。質問は簡単に、説明会の感想を聞かせてください、だけでもいいです。ちょっとしたコツですが、このアンケートが評価につながっている、と察知させないようにするとなおいいです。例えば「説明会をよりよくするためのアンケート」と銘打ってもいいかもしれませんね。

人柄が見える評価をする

面接での質問では、直接的な質問は避けるべき、と言いました。「人付き合いは苦手ですか?」そう聞いてしまうと、志望者は一般的に評価されそうな聞こえのいい返事しかしてくれないでしょう。もっと抽象的な質問にするといいと思います。

例えば、こんな質問の仕方はどうでしょうか。
「あなたが一緒に働きたい人(働きたくない人)はどんな人ですか?」
「あなたは働いていて、どんな時に楽しい(悲しい)気持ちになると思いますか?」
このような質問に、どう答えてくれたら評価するか。そこをあらかじめ決めておきましょう。皆さん、知恵を絞って質問を考えてみてください。

余談ですが、面接で人柄を知るために実践しているテクニックを紹介します。
私は、面接開始時に簡単な冗談を言うようにしています。お互い緊張してしまっては人となりを知ることができません。最初はできるだけフランクに、雑談でもするつもりで始めてみてはどうでしょうか。
それと、最初のいくつかの質問は、誰でも答えられるような簡単な質問にするといいでしょう。例えば「普段勉強していることを説明してください」とか。

そして、相性を知るために最もいい方法は、なんといっても一緒に働くことです。体験就業、インターンを強くお勧めします。受け入れ自体が負担であれば、書類選考などである程度絞ってからでいいでしょう。

メイプルファームのインターン風景。フレッシュ群観察

メイプルファームのインターン。分娩(ぶんべん)した牛の観察をしてもらう

愛をもって面接に臨もう

「ダメな社員」を「辞めさせたい」。この二つの言葉はご法度だと最初に述べました。あるいは、スタッフが片っ端から辞めていくようでは、経営が成り立ちません。

会社とスタッフの相性が悪ければ、スタッフは働いていても楽しくありません。楽しくなければ、やる気は出ません。成長もしてくれません。会社に貢献もしてくれません。そうやって「ダメな社員」になってしまうのです。そう、それは会社の採用時の判断から始まっています。それを判断するのは雇う側の責任です。

愛をもって面接に臨みましょう。

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