大規模経営だけが「正解」ではない。小規模だからこそ挑戦できる「高品質」を目指して
宮城県仙台市でネギと水稲を手がける若生 潤(わこう・じゅん) さんはバスケットボールに打ち込んだ大学を卒業したあと、農業に希望を見出し鹿児島県の農業法人に就職。祖父母が小さな農家だったものの、農業とはほぼ無縁の生活を送っていた若生さんは、鹿児島での修行期間を経て、学生時代の仲間と共に農業法人設立に乗り出します。
「農業は規模が大きくなければ儲からない。そう思い込んでいたわたしは友人を雇用し、大きなほ場での作付けを考えていました。ところが、友だちと仕事をするのは馴れ合いを生み、雇用主として決断する難しさに直面。ネギも水稲もうまく育たず、途方に暮れていました」。
そんなとき、テレビで『ねぎびとカンパニー』の初代葱師・清水 寅(しみず・つよし)さんを知ったという若生さん。すぐ隣の山形県でこんなにすごい人がいる驚きと、この人のもとで農業を学びたいという強い思いが生まれます。清水さんによる企画「世界葱堀王決定戦」への参加をきっかけに交流が始まったのが2017年のことです。
「栽培技術や経営のあり方、農業に向き合う姿勢など本当にたくさんのことを清水さんのもとで学ばせていただきました。でも、どうやったって自分には『寅ちゃんねぎ』のような高品質なネギを作ることができない。仲間は離れ、残ったのはほ場だけ。自分の不甲斐なさから清水さんと距離を置いた時期もありました」
そんな悩める若生さんを見守っていた清水さんは「農業に正解はない。その人に合ったやり方がある」とヒントを与えます。
「バスケットボールの指導者でもある彼にとって、人手も時間も必要とする大規模経営は難しいように見えました。規模を拡大し、本気で農業をやる覚悟があるならバスケは辞めたほうがいいとアドバイスをしたんです。悩んだ彼は“バスケがしたいです”と、あの有名な漫画のセリフを絞り出すように言いましたね。今でこそ笑い話ですが、悩みに悩み抜いた答えだったはず。それなら小規模を生かす農業をやったらいいんじゃないかと提案しました。小さい面積ならとことんこだわることができます。農業は規模拡大だけがすべてではないのですから」。
と、当時を振り返る清水さん。大規模経営にこだわっていた若生さんにとって、それはまさに目からウロコのような金言でした。当時、ネギと水稲の栽培に化成肥料を使用していた若生さん。『寅ちゃんねぎ』のように味がのった高品質なネギを作るためには土づくりから見直す必要があることはわかっていたものの、ほ場面積が大きいとそれだけコストも労力もかかることがネックになっていたと話します。
「長年の化成肥料の使用によって土は硬くなり、水はけが悪くなっていました。小規模なら土づくりを根本から見直すことができ、有機肥料を使うこともできる。有機肥料をいくら与えても土そのものが健康でなければ意味がないという清水さんのアドバイスを受け、3年は土づくりに尽力しました」。
農作物がうまく育たない理由には土、天候、肥料、水やり、土の寄せ方などさまざまな要因があります。そのため、自分の腕、つまりは技術に問題があることを疑わずに済んでしまうことが生産者の技術向上の妨げになっていると清水さんは分析します。
「野球選手がホームランを連発するのは良いバットのおかげではありませんよね?農業でも同じことが言えます。いくら良い肥料を与えても土の寄せ方や土づくり、育苗などの技術が伴っていないと高品質な作物はできません。わたし自身、何度も失敗を繰り返し、自分の腕を疑うことで技術を磨いてきました。習慣化していることを変えるのは難しいことですが、根本から見直すこと、疑うことが技術向上につながると思います」。
清水さんのもとで栽培技術を磨いていった若生さん。『ねぎびとカンパニー』が広島県に本社を置く農業関連メーカー『大成農材株式会社』とタッグを組んで開発した有機肥料を使い始めたことで明らかに土壌の水はけが良くなったと話します。
「土を見直し、有機肥料を与えることで土に団粒構造が生まれた結果です。これなら目指す品質の作物ができる、小規模でも農業をやっていけると思いました」。
そう話す若生さんの姿を優しいまなざしで見守る清水さん。その姿は師弟関係を超えた兄弟のような強い絆が感じられます。
「若生さんと同じ悩みを抱える生産者は全国にたくさんいます。うまくいかないから違う肥料を試してみる、それがダメならまた違う肥料を使う。技術が伴っていないうちから規模拡大に乗り出し、経営が立ち行かなくなる。それではいつまでたっても本当の原因に気づくことはできません。また、土が良くても苗に問題があれば良い作物は育ちません。育苗にも技術力は必須。次のステップでは彼に育苗の技術を伝授したいと考えています」。
清水さんとの出会いにより、自分に合った営農を見つけることができた若生さん。その挑戦はこれからが本番です。春からの育苗作業に向けて真剣に土と向き合う表情は、希望に満ちあふれていました。
ベテラン生産者をも魅了する“寅ちゃん流”土づくりへのこだわり
若手生産者のみならず、ベテラン生産者をも魅了する清水さんの高い技術力。群馬県前橋市で野菜の育苗とネギ栽培を手がける『野口ナーセリー』代表取締役・野口 栄一(のぐち・えいいち)さんもその1人です。種苗会社の園芸部から『ねぎびとカンパニー』のネギ苗を紹介されたとき、その品質の高さに驚いたと話します。
「育苗技術の高さもさることながら『寅ちゃんねぎ』の品質にも驚かされました。聞くと、農業経験ゼロからの挑戦というのですからもはや脱帽です。長年農業に携わってきましたが、清水さんほど農業に情熱を持って向き合っている人を他に知りません。この人なら一生ついていけると思いましたね」。
苗もネギも土づくりがカギ。土づくりには時間がかかるものの、それがしっかりできれば収穫までの工程はジェット機に乗ったようなものと野口さんは例えます。かつて、自身も有機肥料を自社製造した経験がある野口さんは、清水さんと出会ったことで当時の情熱を思い出したと言葉を続けます。
「もちろん、当社でも土づくりにはこだわってきました。でも、清水さんはそれ以上のことを実践し、高品質な苗やネギを作っています。同じレールに乗るためには清水さんが大成農材と共同開発した有機肥料を使うだけではダメ。今の課題は土そのものを見直すこと。清水さんの弟子として基本に立ち返る日々です」。
すべてのほ場に『寅ちゃんの極(きわみ)肥料』と『寅ちゃんの超微生物』を使用している野口ナーセリー。使い始めてまだ1年足らずではあるものの、土、そして栽培するネギに明らかに良い兆候が見られるとのこと。
「長年の経験からこれは良いネギができると確信しています。良い作物を作る喜びを改めて実感しています」(野口さん)。
経営者である野口さんと清水さんが話す栽培技術や土づくりへの思い。そこには日本の農業の未来があると大成農材株式会社・杉浦 朗(すぎうら・ろう)社長は期待を寄せます。
「有機肥料が良いことはわかっていても、それをいかに経営に乗せていくかが生産者の長年の課題です。それを経営者としてしっかり実績を出しながら高品質な作物、苗を作っているお二人は日本の農業の光だと思います。わたしたち資材メーカーも技術を磨き、生産者の声に寄り添う製品を作っていきたいですね」。
色、形ではなく、味で評価される農業へ
現在、市場で取引される作物はサイズや形、色などの“見た目”によって評価されています。有機栽培によって高品質な作物を作っても取引価格は変わらないことが生産者の士気を下げていると清水さんは話します。
「評価の基準が味と品質に変われば、多くの農家は土づくりや土寄せ、苗の選別など高品質な作物を作るための工夫をすることでしょう。技術力が向上しないのは市場の“規格主義”が少なからず関係していると思います。野口社長や若生さんのように、同じ志を持った仲間と共に、日本の農業が抱える課題を解決し、農業界全体を盛り上げていきたいですね」。
この“寅ちゃんマインド”は、悩める農家を救うきっかけの一つになることは間違いありません。野口さんや若生さんのように、全国には清水さんを慕い、指導を仰ぐ仲間がいます。彼らと共に日本の農業に一石を投じるその取り組みの輪は、今後ますます広がっていくことでしょう。
\ねぎびとカンパニー・清水 寅さんへの質問大募集/
マイナビ農業では清水さんへの質問を募集しています。栽培技術や営農はもちろん、農業にかかわることならなんでもOK◎
寅ちゃんマインドに触れることができる絶好の機会をお見逃しなく !
【お問い合わせ】
ねぎびとカンパニー株式会社
〒994-0075
山形県天童市大字蔵増字宮田4389-1
TEL/FAX:023-665-4930\\ぜひコチラもCheck!!//
▶清水寅 Twitter
▶初代葱師 清水寅 Instagram
▶初代葱師 清水寅
▶ねぎびとカンパニー株式会社 オフィシャルサイト