メーカーや研究機関と連携し、収穫機の無人化を進める
JA鹿追町の予冷庫の中を、数台のフォークリフトが行き来している。運搬する鉄コンテナは、1玉数キロはある大玉キャベツでいっぱいだ。予冷庫の奥をのぞくと、キャベツを満載した鉄コンテナが天井まで整然と積みあがっていた。
「収穫のピーク時には、予冷庫に向かって大型トラックがずらっと並ぶんですよ。関東や関西、九州にも出荷します」
こう教えてくれるのは、JA鹿追町営農部審議役の今田伸二(いまだ・しんじ)さん(冒頭写真)だ。

JA鹿追町の予冷庫に積まれたキャベツの鉄コンテナ
管内では、畑作4品と呼ばれる小麦、豆類、テンサイ、バレイショの輪作が盛んに行われている。冒頭で紹介した通り、農家の規模拡大が進む中で、勢い手間のかからない小麦などの栽培ばかり増えてしまい、農家の収益が落ちるという問題があった。そこで、高収益作物としてキャベツを導入したのだ。
農家戸数も、労働力になる人手も減る地域にあって「いかに労力のかからない技術を確立するか」(今田さん)が同JAにとっては重要課題であり続けている。もともと手作業だった収穫は、メーカーと共に20年がかりで機械化した。管内では計10台の収穫機が稼働している。
それでもまだ足りないと、メーカーや研究機関と連携し、収穫機の無人化を進めてきた。今田さんによれば「収穫の精度とスピードが上がって、今後1、2年ほどで製品化できるのではないか」という段階まで、こぎ着けている。

自動収穫機による収穫の実証実験のようす。写真では運転席にシステムを調整するため人が座っているが、運転席が無人の状態で収穫できる(画像提供:JA鹿追町)
10ヘクタールや20ヘクタールを一面キャベツ畑に
だが同JAは、自動収穫機が完成すれば、それでよしとは考えていない。自動収穫機が導入されたその先まで見越して、議論を進めている。
「キャベツの自動収穫機が今後出たときに、収穫機と運搬機の移動に時間も経費も結構かかるんですよ。だから、機械を移動させない方法を考えているんです」(今田さん)
個々の農家がキャベツをそれぞれの圃場に植えている現状だと、収穫機や鉄コンテナの搬出に使う運搬機をトラックに載せて移動させる必要がある。農地間の移動に1時間かかることも珍しくなく、収穫機と運搬機をセットで輸送すると経費が2万円ほどかかってしまい、ばかにならない。そこで、キャベツの作付けを一つの圃場にまとめ、機械をその場に長期間留めて使い続けられないかと考えているのだ。
「10ヘクタールの1枚の圃場で、農家4戸が2.5ヘクタールずつキャベツを作る。そうしたら、機械を移動させることなく、毎日キャベツの収穫をその圃場ですることができる。機械を最大限使えて収穫の効率が良くなり、移動コストもないんですね。それを狙って今、農家に話をしています」(今田さん)
4戸の農家の間で作付けの順番を決め、繁忙期は苗を植え付ける移植機や収穫機、運搬機を移動することなく、圃場に置いたままにする。たとえば、農家A、B、C、Dの4人がAの所有する10ヘクタールの圃場でキャベツを2.5ヘクタールずつ生産する。地権者であるAは、他の3人に計7.5ヘクタールを貸す分、3人の所有する別の圃場で2.5ヘクタールずつ、計7.5ヘクタール分を借りる。こうすれば、農家間で地代は発生しない。苗の植え付けと収穫は、それぞれの農家で行うけれども、1枚の圃場を共有するため、防除は共同で行うことになる。
こんな構想ができるのは、JA管内で圃場整備が進み、1枚10ヘクタールを超えるような広い農地が珍しくなくなっているからだ。広いものだと1枚20ヘクタールにもなる。

自動収穫機を使ったキャベツの収穫風景(画像提供:JA鹿追町)
「手間がかかるから作付けできない」は避けたい
管内の農家1戸当たり50ヘクタール弱の耕作面積は、今後、加速度的に増える見込みだ。
「あっという間に1戸当たりの面積が増えるはずで、平均100ヘクタールに達する時代が来るかもしれません。1戸の規模が大きくなっても、全体の作付面積が変わらないように、省力化を進めているんです」(今田さん)
規模拡大したときに、手間がかかるから作付けできないという状況は、何としても避けたい。耕作放棄地を増やさず、かつ、今生産している品目の産地であり続け、供給者としての責任を果たすためには、とにかく効率化を推し進めるしかない。その一手が、キャベツの共同圃場化なのだ。ただし、いくら必要があるとはいえ、今後すぐ実現するかというと、そう簡単ではないという。
「人の畑に植える、人が自分の畑に入ってくると言われて『はい、分かりました、いいですよ』とはなりません。そんなに簡単には進まないでしょうね」
防除のような共同作業を誰がやるのかという問題も出てくる。まずは自動収穫機が市販され、管内にある程度浸透してから、共同圃場を作っていくという流れになるのではないか。
北海道で進む離農と残った農家の加速度的な規模拡大は、今後本州以南でも起きてくる。道内でも効率化の先陣を切る鹿追町は、日本農業の将来を占う存在になりそうだ。