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「アグリナジカン」の支援に見る、農家と働き手双方がWin-Winな雇用

窪田 新之助

ライター:

「アグリナジカン」の支援に見る、農家と働き手双方がWin-Winな雇用

農業の人手不足が深刻さを増す中、農家と援農者をマッチングする地域密着型のあるサービスが注目されている。求人情報サービス「アグリナジカン」だ。特徴的なのは、運営会社の代表が産地に定住して、農家と付き合いながら、雇用する条件を聞き取っていること。求人者と求職者の双方と面接したうえで仕事をあっせんしている、代表の山下丈太(やました・じょうた)さんに話を聞いた。

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農家と働き手に喜んでもらえることが面白い

アグリナジカンの代表・山下さん

株式会社アグリナジカン(京都府相楽郡和束町)の代表・山下丈太さん(39)は京都府の和束(わづか)町出身。大学卒業後、サラリーマンを6年間経験した後、同町に戻って起業した。興した事業の一つが農作業を手伝いたい人と農家をつなぐプロジェクト「ワヅカナジカン」だ。

アグリナジカンの前身ともいえるこのプロジェクトでは、和束町の茶農家とそこで働きたい人をつないだ。6年間で80人を16の農家や農業法人に紹介する実績を残した。

「農家と働き手の双方に喜んでもらえて、なんて面白い仕事なんだと感じました。この事業を成長させたいと思い、ほかに興した事業は人に譲りました」(山下さん)

2019年、農業に特化した人材紹介業を展開するため、同社を設立する。時を同じくして、求人サイト「アグリナジカン」を立ち上げた。

同サイトのサービスはこうだ。まず、サービスを利用したい農家を募集する。続いて勤務内容や給与、車の貸し出しや宿泊所の有無といった待遇などについて聞き取る。一連の情報をサイトに掲載して、働きたい人を全国から募るのだ。山下さんはこうした働き手のことを「ワーカー」と呼び、農業へのチャレンジを応援している。

無理には引っ張り込まない

ワーカーたち(アグリナジカン提供)

アグリナジカンのワーカーたち

ワーカーには山下さんがZoomやLINEを使ってオンラインで面接をする。面接の所要時間はおおむね1時間。前半は自社の事業の概要や理念について説明する。後半はワーカーから応募の理由を聞き取る。大事にしているのは「無理に引っ張り込まない」ことだ。

「ワーカーが望んでいることと仕事や待遇の内容が合わなければ、その旨を本人に伝えたうえで判断してもらいます。当然、場合によっては辞退していただくこともあります。長く働いてもらうことが双方にとっていいことだからです。もし農家が直接ワーカーに面接すると、これができない。人手が欲しいので、合う合わないは二の次にしてしまう。そうした事態を避けて、双方に喜んでもらえる関係をつくることにうちの役割があります」(山下さん)

採用が決まれば、アグリナジカンはワーカーの勤務時間に応じて農家から1時間当たり最大250円の紹介料を受け取る。この金額は地域の最低賃金を踏まえて決めている。ワーカーに長く働いてもらうことが、利用者だけではなくアグリナジカンにとっても有益なわけである。単に紹介料をもらうだけの関係にしていない点に覚悟を感じる。

2年目以降にサイト利用をしないことを認めているワケ

これまでのワーカーは男女問わず、年齢層は20代から40代が多い。志望動機はさまざま。農作業の経験者もいれば、初めての人もいる。ワーカーが働く期間はおおむね2~3カ月。勤務期間が終わった後で農家とワーカーが連絡を取り続けることについては放任している。つまり翌年以降に農家がアグリナジカンを使わず、ワーカーに直接仕事を依頼することを認めている。なぜなのか問うと、山下さんはこう答えた。

「ワーカーは一年を通して全国各地で仕事をしている人が多い。だから農家がワーカーと継続してやり取りをしながら関係をつなぎ、2年目以降も働きに来てもらうのは大変なことなんです。農家がその努力をできるなら素晴らしいことで、ぜひそうした関係を築いてもらって、人手に困らないようになってもらいたい。それに全国にはワーカーを求めている農家はいくらでもいるので、その支援に力を入れるべきだと思ってます」

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剪定(せんてい)の作業を代行する集団の育成へ

「みなべクリッパーズ」から剪定を学ぶ研修生(右)

ところで山下さんはアグリナジカンを立ち上げると同時に、梅の産地である和歌山県みなべ町に移住し、事業所を構えた。同町の複数の梅農家から支援を希望する声がかかったからだ。それまで拠点にしてきた和束町では同サイトの利用を巡って農家との付き合いが深くなった。このため自分が近くにいなくても、人材を紹介することに支障が生じないと考えた。

山下さんがみなべ町に移住して知ったのは、梅の栽培では収穫と並んで大変な作業に剪定があること。農家は11月から3月にかけてその作業に追われる。技術を要するため、これまでは人手を確保するのが難しかった。
そこで2020年、町内で梅を作る農家5戸を会員にして、剪定を請け負う集団「みなべクリッパーズ」を組織した。剪定を仕事にしたい人を全国から募り、会員の農家のもとで7~10日かけて実地で剪定を学ぶ。最も簡単な徒長枝の剪定ができるようになった段階で現場に入ってもらう。アグリナジカンはワーカーが手にする給与の15%を手数料として受け取る。

全国展開に向けて人材募集

アグリナジカンを利用する農家や農業法人は、関西地方を中心に北海道や山口なども含めて40に及ぶ。山下さんはさらに広げていきたいと思っている。

壁になるのは、求人者と求職者の双方の人物を理解したうえであっせんするという手間のかかる行為だ。事業の肝であるため外せないものの、山下さん一人で抱え込むには無理がある。

そこでそれぞれの地域で事業に参画したい人を募り、アグリナジカンを活用して人材紹介事業を展開してもらう計画を進めている。農家とワーカー双方の喜びを生む、そんな取り組みを仕事にする人が他の地域でも増えることに期待したい。

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