体験と研修で担い手支える、市民グループが限界からの挑戦

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体験と研修で担い手支える、市民グループが限界からの挑戦

連載企画:農業経営のヒント

体験と研修で担い手支える、市民グループが限界からの挑戦
最終更新日:2020年04月24日

「農業の先行きが心配だ」と言われるようになって久しい。問題の根幹にあるのが担い手の不足だ。農業をやる人が減り続けているから、耕作されずに荒れ地になってしまう田畑も増える。NPO法人のたがやす(東京都町田市)はこの問題の解決を目指し、20年近くにわたって農家の支援に取り組んできた。

市民が農家を助ける? 体験農園の仕掛け

町田市の郊外の一角、小高い丘の上にある「小野路農園クラブ」を4月半ばに訪ねた。たがやすが運営している市民向けの体験農園だ。
この日集まったのは、8組の家族。透き通るような晴天のもと、作業が始まった。割り当てられた区画を自由に使えるタイプの市民農園と違い、ここはスタッフの指導で一緒に作業をするのがルール。参加者は畝に張ったマルチに開けた小さな穴に、コマツナやホウレンソウの種をまいていった。
「自分で野菜を作るのも楽しいし、自分で作ったものを食べるのもうれしい」。都内に勤める男性はそう話す。その傍らを、小学生の娘が笑顔で駆け抜ける。「あまり作業を手伝ってくれませんが、すごくここに来たがります」

NPO法人のたがやすが運営する小野路農園クラブ

親たちの農作業をよそに、子どもたちは周囲で思い思いに遊んでいる。事務局長の斉藤恵美子(さいとう・えみこ)さんは「お子さんを叱らないでください」と呼びかける。子どもたちに、屋外の開放感を味わってもらいたいからだ。車道から離れているので、事故の心配はない。
もちろん、広い空間で作業する体験農園とは言え、新型コロナウイルスの感染リスクへの配慮を欠かすことはできない。利用者もスタッフもマスクをつけ、適度な距離を保ちながら予定していた作業を進めていった。

たがやすは町田市の生協が中心になって2002年に立ち上げた。生協にナスを出荷している農家の収穫作業を、組合員が手伝いに行ったのがきっかけだ。この活動を通して多くの農家が人手不足に困っていることを知った斉藤さんたちは、農作業をサポートする「援農ボランティア」を募集し、たがやすを発足させた。集まったのは、会社を退職した元サラリーマンたちが中心。現在、約70人が援農ボランティアとして活動している。

小野路農園クラブで指導に当たるたがやすのメンバー

たがやすの援農ボランティア、農家からの評価が高いワケ

たがやすの特徴は援農ボランティアを農家に派遣するだけではなく、彼らを育成する仕組みまでつくった点にある。そのために町田市から農地を借りて2005年に開いたのが、研修農場の「ファーム七国山(ななくにやま)」だ。

たがやすが使う前は耕作放棄地だった。たがやすのメンバーはそこを組織名の通り自ら耕して畑として再生させた。メンバーのこだわりで除草剤を使わず、刈った後にすぐ生えてくる雑草を根気よく退治する難事業だった。

近隣のベテラン農家はこの奮闘に心を動かされた。彼らが指導役になり、元サラリーマンたちにここで農作業の基礎を教えていった。指導したのはくわで耕し、堆肥(たいひ)を使って土作りをする昔ながらの農作業だ。

農作業を経験したことのない人が興味本位で農業を手伝うのと違い、研修農場で学んだ援農ボランティアがサポートに行くことで農家の評判が高まった。町田市はこうした活動を評価し、市営の研修農場の管理を2009年にたがやすに委託した。農家の後継者や新規就農者が農作業を学ぶための農場だ。

援農ボランティアを育成するファーム七国山

今回取材した小野路農園クラブは、農作業を学んだメンバーの活動を農家の支援だけではなく、市民向けにも広げるのが目的だ。オープンは2014年。もともと雑木が生い茂っていた場所で、開墾はファーム七国山以上に困難だった。国の交付金を使って業者に頼んで雑木を伐採し、体験農園を開いた。

「もっと多くの人が農業に興味を持ってほしい。そのためには体験してもらうことが一番と思い、ここを開きました」。斉藤さんはそう話す。野菜がどうやって育てられているのかよく知らない大人や、土に触れることの少ない子供たち。たがやすのメンバーが、そうした人たちに農作業を指導する。

そんな様子を取材していると、収穫したばかりのネギが目に入った。この日の活動はコマツナやホウレンソウの種まきのはず。そう思って聞いてみると、隣の農家が育てたネギだという。給食用に育てたネギが休校で余ってしまい、売り先に困っていた。その一部の収穫を請け負い、市内の直売所で販売することにしたのだ。利益にはならない。これも農家支援の一環だ。

近隣の農家から収穫と販売を請け負ったネギ

活動の限界を感じるも、継続・活発化させる理由

順調そうに見えるたがやすの活動だが、斉藤さんによるとここ数年「もう続けるのは無理ではないか」と思ってきたという。援農ボランティアが集まりにくくなってきたからだ。はっきりした理由はわからない。「お金にならないことはやりたくないのだろうか」。斉藤さんはそう思い悩む。

たがやすに登録している援農先の農家は30軒。人手不足はますます深刻で、支援に来てほしいという要望は以前にも増して高まっている。一方、ボランティアは70人。一見すると、余裕があるようにも見える。

問題はマッチングの難しさだ。ある一日に多くの農家の要望が重なり、メンバーのほとんどが都合がつかなかったりすることがある。その結果、やる気があって時間的にも余裕のあるメンバーに依頼が集中する。斉藤さんはそうしたやりくりを続けることに、限界を感じるようになっていた。

たがやす事務局長の斉藤恵美子さん

それでも、たがやすは活動をやめはしなかった。それどころか、2020年からは逆にこれまでより活動を増やすことを決めた。理由は、後継者のいない農家から「農地を預かってほしい」という要望が強まってきたからだ。

人手の足りない農家の支援から、耕す人のいなくなった農地の担い手へ――。雑草が茂る荒れ地を2カ所開墾した経験のあるたがやすだが、今やふつうに使える農地まで利用することを期待されるようになったのだ。

すでに預かることを決めた畑もある。地域の子どもたちが芋を植え、収穫を体験するための農園にすることを計画中。斉藤さんは「これから次の一歩が始まる」と語る。援農ボランティアを希望する人が増えたわけではない。だが、農業のさらなる苦境を前に、退くよりも前に進むことを決断した。

ファーム七国山に援農ボランティア研修の指導に来た農家はかつて、「暑いのに大丈夫かってくらい頑張ってる」と驚いた。その頑張りは、農業が抱える困難に正面から向き合う方向へとたがやすのメンバーを導いた。2020年に決断した挑戦が、たがやすの新たな発展につながることを願う。

ベテラン農家の技術がたがやすのメンバーに受け継がれる(2015年撮影)

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