脱サラ新規就農者が感じる農協のメリット 収量が右肩上がりで増え続けるワケとは

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脱サラ新規就農者が感じる農協のメリット 収量が右肩上がりで増え続けるワケとは

連載企画:農業経営のヒント

脱サラ新規就農者が感じる農協のメリット 収量が右肩上がりで増え続けるワケとは
最終更新日:2020年09月30日

新規就農者には、農協を通さずに売るのを目標にしている人が少なくない。組織の中で仕事をするのが嫌で、会社をやめて農業を始める人ほどそういう傾向が強いかもしれない。だが中には、農協を活用するメリットを知らずに就農した人もいるのではないだろうか。そんな人たちのために、福岡県糸島市で就農した平田謙次(ひらた・けんじ)さんの例を紹介したい。

就農わずかでイチゴ部会で上位1割の収量に

平田さんは就農する前、中国地方のある銀行に10年余り勤めていた。銀行員時代はいわゆる「転勤族」だった。2~3年ごとに勤務地が変わるたび、子供がようやく慣れた学校を離れる暮らしに限界を感じ、脱サラを決意した。

農業の世界に飛び込んだのは、仕事でいろいろな経営者と接するうち、「自分も事業をやってみたい」と思うようになったからだ。選んだ品目はイチゴ。妻の浩子(ひろこ)さんによると、観光農園でイチゴを収穫したときの楽しい記憶が決め手になった。そこで「博多あまおう」の産地である福岡で就農した。

就農と同時に、糸島農業協同組合(JA糸島)のイチゴ部会のメンバーになった。単位面積当たりの収量は、約100人いる部会メンバーの平均を1年目でいきなり超えた。平田さんは「ビギナーズラック」と謙遜するが、収量はその後も右肩上がりで増え続け、いまや部会の上位1割に入るようになった。

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平田謙次さんと浩子さん(写真提供:平田謙次)

もちろん、栽培の失敗も幾度か経験した。1年目はイチゴにとって大敵の「うどんこ病」が収穫の最後のころに発生し、4~5月の収量がガクンと落ちた。2年目以降も、さまざまな病害虫がイチゴに付いて生育を妨げた。
ただし、平田さんによると「最近は致命的なミスを回避できるようになった」という。イチゴを日々細かく観察するうち、就農したばかりのころは見落としていた異変にいち早く気づくことができるようになったのだ。

「手がかりは葉っぱの勢い。シャキンとしているか、なよっとしているかに注目する」。平田さんはそう話す。少し変だと思って葉っぱを裏返してみると、ダニが付いていたりする。ただちに対処し、被害が広がるのを防ぐ。
では平田さんはこうしたノウハウをどうやって身につけていったのか。本人の地道な努力は当然ある。ただ間違った方向に努力するのを防ぐうえで、周囲のアドバイスが大きく役立った。その役割を果たしたのが、農協だった。

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ビニールハウスで育ったイチゴ(写真提供:平田謙次)

全国ブランドを維持する地域力

平田さんの所属するイチゴ部会のうち、近隣のメンバーは10人いる。その活動の柱の一つが、栽培技術に関する勉強会だ。
農協の職員と一緒に全員で各農場を回り、生育状況を確認する。その場でベテラン農家が「平田君、病気が出ているみたいだよ」「この花ちょっとおかしいんじゃないか」などと助言してくれる。視察が終わった後は農協の会議室に集まり、イチゴの管理で注意すべきポイントをおさらいする。

「栽培技術の教科書の内容はすべて頭に入っています。それでも自分一人で試行錯誤して上達するのは相当難しいと思います」。平田さんはそう強調する。「いろいろ試してみても、1年で経験できるのは1作だけ。だから、数十年やっているベテラン農家のアドバイスが貴重なんです」
ここで重要なのは、どの意見に耳を傾けるべきかを見極めることだ。土質など農場の環境はさまざまで、どんなタイミングでイチゴに水をやるかなど栽培でこだわっている点も人によって違う。平田さんはその中で、どれが自分に合っているかを考えながら意見を聞いているという。

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近隣のイチゴ農家とハウスを回り、栽培技術を高め合う(写真提供:平田謙次)

出荷の仕方も、ベテラン農家から学ぶべき点が多いことに気づいた。
イチゴ部会は形や色、大きさなどでイチゴをランク分けしている。どのランクのイチゴかを判断し、パックに詰めるのは農家の仕事。難しいのは工業製品などと異なり、形や大きさの違いが微妙ではっきり見分けにくい点だ。平田さんが最上級と思って出荷しても、農協の検査員の判断で下のランクに落とされることがある。それが続くと、「もう少し勉強して」と連絡が来る。

これに対し、「ベテラン農家は瞬時にランクを判別することができる」(平田さん)。イチゴを素早く整然と詰めるのも熟練の技だ。パックの見た目の印象がよくなれば、それだけ商品価値が高まる。消費者はそういうパックを思わず手にとる。
しかも平田さんが理解したのは、栽培や出荷の技術のことだけではない。1人の努力だけではなく、メンバー全員が情報を共有しながら品質を上げることで、ブランドの評価を保つことができる。「博多あまおうはそうやって守られているんです」。全国ブランドの地位を維持し続けているのはその成果だ。

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真っ赤に育ったイチゴ(写真提供:平田謙次)

「農協を通してよかった」、最大の収穫物は家族との時間

就農に際し、平田さんはなぜ自分で売ろうとしなかったのか。理由は、栽培技術の習得に専念できる環境を整えたかったからだ。「販売まで自分でやったら、とても時間が足りない。未熟な技術で作っても誰も買ってくれないし、たとえ買ってもらえても信用を落とすことになると考えました」
新型コロナウイルスの感染拡大で経済や社会に混乱が広がる中で、農協の意義を改めて確認することもできた。これまでと同じ値段で全量買い取ってくれているからだ。「農協を通してよかったと心底思います」という。

一方で「いつか自分の名前のブランドを作ってみたい」とも話す。自分の名前でイチゴを売り、消費者と直接つながりたいという思いは、他の多くの新規就農者と共通。ただそれはもっと腕を磨いたうえでの将来の話だ。

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イチゴを収穫する浩子さん

最後に平田さんが銀行をやめるきっかけになった、家族のことにも触れておこう。2人の息子はいま12歳と9歳。転校で友達と離ればなれになることはもうなくなり、糸島でできた友達がよく家に遊びに来るようになった。
仕事は早朝から夜まで続くが、パック詰めは家でやるので家族と接する時間は格段に増えた。栽培も出荷も浩子さんとの共同作業。平田さんにインタビューしている間、浩子さんはパック詰めの真っ最中だった。
平田さんは「作業中はずっとラジオや音楽を聴きっぱなし。銀行員のときと比べ、精神的にずっといいです」と話す。この解放感と、家族と一緒に過ごす充実した時間。それも就農して得た大切な収穫物だろう。

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