休みが年々増える「ホワイト農場」、可能にしたのは世界に広がるトヨタ方式

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休みが年々増える「ホワイト農場」、可能にしたのは世界に広がるトヨタ方式

連載企画:農業経営のヒント

休みが年々増える「ホワイト農場」、可能にしたのは世界に広がるトヨタ方式
最終更新日:2020年05月15日

作業の効率を上げたいが、何をどう変えたらいいか迷っている農家もいるのではないだろうか。生産者のそんな課題の解決を目指し、トヨタ自動車が提供しているのが農作業支援サービス「豊作計画」だ。今回は豊作計画を導入し、意欲的に事業を見直している農業法人のOne(石川県金沢市)を紹介したい。

「トヨタ生産方式」のカイゼン活動で週休2日を実現

トヨタは2014年に豊作計画の提供を始めた。サービスには二つの柱がある。
一つは農作業をデータで管理するシステムで、パソコンやスマホを使って作業内容を記録し、作業計画を立てる。
もう一つは生産性向上のために現場で知恵を出し合う「カイゼン活動」だ。トヨタのスタッフが農場に行き、作業のどこが非効率かを農家が自ら見つけ出して改善するためのポイントを指導する。工場の生産ラインの無駄を徹底的に排除する「トヨタ生産方式」の農業への応用だ。

農作業のデータを管理するシステムは、他のさまざまなメーカーも開発している。豊作計画の特徴はカイゼン活動を行うことで、記録したデータを最大限活用して生産性の向上に生かそうとする点にある。すでに全国各地の農場が豊作計画を導入している。

工具の置き場所を整理したOneの作業場(石川県金沢市)

Oneはコメとレンコン、ジャガイモ、ニンニクを栽培している。面積は約50ヘクタールあり、地域の農業を支える存在になっている。
豊作計画を導入したのは2016年。副代表の宮野義隆(みやの・よしたか)さんによると、トヨタの指導は厳しいやりとりから始まった。地域への熱い思いを語る宮野さんに対し、トヨタのスタッフは作業場を見ながらこう言ったのだ。「片付いてないですね。これでモノがどこにあるかわかりますか」
この一言で宮野さんは発奮した。トヨタの指導を受けながら作業を隅々まで点検。作業場の床に乱雑に置いていた農機具や工具の置き場所を決め、レンコンを載せる台の下に車輪をつけて楽に運搬できるようにした。

レンコンの注文を当日受け付けるのをやめ、取引先に「2日前に注文してください」と要請するようにしたのも改善点の一つ。突然の注文に対応しようとして収穫作業が混乱すると、効率が落ちてしまいかねないからだ。
こうした工夫を積み重ねることで、可能になったのが休日の増加だ。豊作計画を導入する前は週休1日だったが、2019年には週休2日を実現した。1日の労働時間をほぼ8時間以内に収めることもできるようになった。

効率の追求はなお続く。カイゼン活動は一定の成果が出たところで満足せず、次の課題を探す点に意義がある。2020年に目標に掲げたのが、作物ごとに作業日程を最適化することだ。ここでデータ管理が効果を発揮した。

収穫したばかりのレンコン

現場の声とデータ活用で作業のタイミングを逃さない

Oneが2020年から始めたデータを活用した作業管理の方法について、コメを例にみてみよう。
まず稲刈りをいつ始めるかを決める。そこから栽培に必要な日数を逆算し、田植えや育苗をいつごろ始めるかを決める。
いつ誰がどの作業をするかを具体的に決めるのは、1カ月前。その後、作業の進捗(しんちょく)状況をみながら計画を修正し、半月前に作業予定を確定させる。
ここで役に立つのが、豊作計画のソフトに2019年まで入力してきた作業データの蓄積だ。例えばこれまで育苗を何月何日に始め、何日間で終えてきたかを検証し、田植えに間に合うように社員に仕事を割り振る。自分がいつどんな仕事をすべきかは、各自がスマホで確認することができる。

宮野さんによると、「これまではアバウトだった」という。ホワイトボードに2週間単位でおおよその作業計画を書いてはいたが、誰がどの作業をするかは直前になって作物ごとの責任者が口頭で当人に伝えていた。
豊作計画のソフトを活用するようにしたのは、計画を緻密にすることで、作業すべきタイミングを逃さないようにするためだ。しかも複数の作物を栽培するOneの場合、それを作物全体で最適化するという課題がある。一つの作物しか作っていないのと比べ、計画を作るのはずっと難しくなる。

ハウスの中で稲の育苗作業が進む(写真提供:One)

ではどうやって複数の作物の栽培計画を作ったのか。それを理解するため、農作業の人員配置について説明しておこう。
農場のスタッフは8人。そのうち4人はコメ、レンコン、ジャガイモ、ニンニクの責任者だ。残りの4人を各作物に均等に割り振ればすむのなら簡単だが、現実にはそうはいかない。ある作業に一度に3人以上の人手が要ることが珍しくないからだ。例えば育苗は5人で作業する。

データを活用して計画を作ることを決めた宮野さんは、事前に各責任者に何に困っているのかを聞いてみた。計画を作るための手がかりを得るためだ。その結果わかったのは、コメを優先しがちな作業体系だった。
育苗から田植えまでは稲作にとって最も重要な作業。だが同じ時期に、ジャガイモの種芋の植え付けやレンコン畑の肥料まきなどの作業もある。コメに優先的に人手を割いてきた結果、他の作業が遅れがちになっていたのだ。

そこで始めたのが、宮野さんと4人の責任者による月2回のミーティングだ。目的の一つは、それぞれの作業にどれだけ時間がかかっているかを全員が把握すること。これまでは自分が責任を持つ作物のことはわかっていても、他の作物についてはあまり理解できていなかった。情報を共有することで、すべての作物に支障の出ないような計画を作成した。
1カ月先と半月先の細かい作業計画を作るのも、このミーティングだ。トップダウンで決めるのではなく、現場の意見を吸い上げて解決策を探るのは、カイゼン活動を通して得た発想と言えるだろう。

豊作計画で作った作業計画。色のついた数字は作業人数(写真提供:One)

休日数が増加した現場発の創意工夫とは

休日数にも触れておこう。2019年は週休2日を実現した。2020年は年間の休日数をさらに10日ほど増やすことを目指す。
筆者は同社が豊作計画を導入した直後から、その成果について定期的に話を聞いてきた。当初はトヨタのスタッフが細かく指導していたが、いまは宮野さんたちが自ら工夫して作業効率を高める段階に入っている。
取材の度、宮野さんは「去年は何をやり、今年は何に挑戦するか」をうれしそうに語ってくれる。自分たちでアイデアを出し合い、作業が効率化していくのだから前向きに取り組めるのは当然。しかも休日数の増加というわかりやすい形で成果が出ているので、手応えはなおさらだろう。

日本の農業が抱えるさまざまな課題を解決するため、情報技術(IT)や人工知能(AI)を活用するスマート農業が注目を集めている。だがどんな先端技術も、現場の実情を踏まえて使いこなす努力をしなければ、課題の解決には結びつかないだろう。宮野さんたちへの取材を通し、現場発の創意工夫の大切さを実感している。

豊作計画を活用する宮野義隆さん

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