産地力アップの立役者、独自ブランド「旭甘十郎」登場
茨城県でサツマイモ栽培が盛んな太平洋沿岸地域。その中心に位置する鉾田市の旧旭村地区は、水はけのよい火山灰土、鹿島灘の豊富なミネラル、温暖な気候に恵まれ、サツマイモ(甘藷)栽培に最適な条件がそろっています。平成28(2016)年、JA茨城旭村の甘藷部会は、農家の所得向上を目指して、栽培技術と貯蔵技術を極めたオリジナルブランドを立ち上げました。
その名は「旭甘十郎(あさひかんじゅうろう)」。管内で収穫されたサツマイモの中でも厳選された芋のみに与えられる称号です。品種は「紅はるか」と「シルクスイート」に限られ、通常は植付から120日で収穫するところを150日以上は土壌内に貯蔵。多くのでんぷんを蓄えて掘り採り、キュアリング処理をしたのちに定温倉庫で1カ月以上熟成保存。翌年1月以降に糖度30度以上で出荷される「旭甘十郎」はまるでスイーツのような甘さです。
「これからの農家は芋を作って終わりではなく、食べてもらうところまでを考えなければなりません。あえて芋らしくない名前にしたのも、消費者の方々にこれは何だろうと興味を持ってほしいと考えてのことです」と話すのは、名づけ親でもあるJA茨城旭村の甘藷部会長の小沼和宏さんです。
「旭甘十郎」は熟成プレミアム高糖度サツマイモとして取引され、人気を博しています。しかし、すべてが順調だったわけではありません。立枯病が大発生したのはブランド立ち上げ直後でした。
抜け目ない土壌消毒で、立枯病をついに克服
立枯病は土壌中の放線菌の一種によって引き起こされる連作障害で、土壌の高pH、高温、乾燥などで助長されるので注意が必要です。さまざまな作物に見られ、サツマイモでは葉が紫に変色し、株の節基部に陥没病斑ができ、塊根には黒褐色病斑や形状の乱れが生じます。これでは「旭甘十郎」どころか売り物になりません。
小沼さんの圃場でも被害が特に深刻な場所で、4~5割の株が立枯病を罹患しました。
「土壌消毒剤のクロルピクリンを多めに施用してもまったく収まりませんでした」と小沼さん。産地ではもともとクロルピクリンによる土壌消毒をしていましたが、連作とスポット的な高pHにより病原菌が増え、同じように消毒しても十分な効果が得られにくくなっていました。
克服のきっかけとなったのが「ハイバリアー」でした。「農協にハイバリアーが入ったので、試しに立枯病が出ている圃場に部分的に使ってみたらクロルピクリンの効きがまるで違ったんですよ」。
「ハイバリアー」はガスを通しにくい機能性多層フィルムです。一般的なポリエチレン製のシートは分子間の間隔が大きく、マルチを張った瞬間から消毒剤が抜け出している状態です。そこに、ガスを通しにくいハイバリアーを使うことで、消毒剤を長く土中に留めて土壌燻蒸の効果をより高めることができます。
「一度病害が出た場所には、最低3~4年はハイバリアーを使ってみてください。1回で完全に菌がなくなるわけではないですから。同年5割、2年目3割という感じで4年目には立枯病がほとんどなくなりました」と安堵した様子で話してくれました。
良いサツマイモづくりは、良い土づくりから
小沼さんは20haの圃場でサツマイモのみを栽培。長らく主要品種だった「ベニアズマ」を5年前にやめて、現在はA品率の高い「紅はるか」一本に絞り、定温倉庫を自前で建て長期熟成させた「旭甘十郎」をJA茨城旭村に出荷しています。
JA茨城旭村でも低温貯蔵倉庫を新設して「旭甘十郎」の生産に力を入れています。営農課の藤沼宵士さんは、「秀品を作るためには土壌消毒をして、圃場ごとに土壌検査をしてそれに合わせて処方された肥料を使うことが必要です」と話します。
「連作にはメリットがあって施肥設計がしやすく土壌改良の手間がかかりません。輪作だと前作によっては窒素過多になり、それを押さえる肥料も2年、3年続けて施用しなければ効いてこないので秀品率は下がります」と小沼さん。
土壌消毒は病気の予防。被害が拡大する前の軽微な段階でハイバリアー+クロルピクリンでしっかり予防をしていくことが重要です。小沼さんの畑では、マルチを張る2週間前にまず線虫剤のD-Dを施用し、薬害防止のため必ず起耕してガスを抜いた後に、クロルピクリン処理をします。
その際、前年に立枯病が出た箇所はハイバリアーで被覆。堆肥を置いた場所などでpHが高くなるので、特に借りた畑は注視して、少しでも異常があった箇所には翌年ハイバリアーを使用します。被害が拡大してしまうと、ハイバリアーを使用しても、菌密度の低下に数年かかる場合があるため、1~2年程度の結果で効果なしと判断せず、3~4年は継続使用して効果を確認する必要があります。
ブランド発展の次なる一手、「旭甘十郎」になれる秀品を増やす
「旭甘十郎」のデビューから5年。立枯病の制御に成功した産地が目指すのは、旭甘十郎の生産量アップです。
藤沼さんは「この5年で防除体系も確立できました。将来的には甘藷生産量の4割を旭甘十郎にしたい」と話します。「旭甘十郎」の存在によって産地のレギュラー品の単価も引き上げられ、部会では売上が毎年1億円ずつ伸びているそうです。
「サツマイモは収穫量で価格が変動しますが旭甘十郎は高値安定。定温倉庫があれば1月から10月まで出荷できます。すべての芋が旭甘十郎になれるわけではないけど、土壌消毒をして土壌検査に基づいた施肥設計をした畑なら結果が出せるはず。良い資材は安くはないけど、秀品率が上がれば農家の収益はプラスになるからみんなで取り組んでいきたいね」と小沼さんは部会長として抱負を語ってくれました。
厳しい条件をクリアする秀品を増やすことは産地の願い。ハイバリアーが“抜け目ない”土壌消毒でブランド発展の一助を担います。
【取材協力】
JA茨城旭村
甘藷部会長 小沼和宏さん
営農指導課 藤沼宵士さん
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ハイバリアーを活用し、秀品を作りながら基腐病と戦う産地
茨城県でサツマイモの立枯病を克服し、その後も予防的な使用で秀品率をアップさせ、JA茨城旭村オリジナルブランド『旭甘十郎』の発展を陰で支える「ハイバリアー」。2018年に国内で初めて確認され、宮崎・鹿児島に大きな被害を与え全国に拡大する基腐病の防除に役立でることはできないか--。焼酎造りにも欠かせない『宮崎紅』の伝統産地、JA串間市大束へ向かいました。
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