酪農大国・ヨーロッパで最も利用される「ペレニアルライグラス」とは
家畜の健康と成長に重要な乾草やサイレージなどの粗飼料。これらに多く含まれる繊維質を摂取することで牛は健康に育ちます。水田からの転作地で粗飼料を自給する和牛繁殖農家・中川牧場(山形県白鷹町)では混播による採草をしていますが、草地造成の手間や雑草の侵入が長年の課題となっていました。これは自給飼料を生産する農家や農作業の受託組織・コントラクターでも多くみられる現象です。では、畜産・酪農大国のヨーロッパの牧草事情はどうなっているのでしょう。世界で最も利用されている牧草は「ペレニアルライグラス」という草種。数ある牧草のなかでも最高レベルのTDN含有量(※)を誇る高い栄養価や、牛の嗜好性の高さなどのデータを見ればその理由は明らかです。
(※)TDN含有量・・・可消化養分総量。飼料中に含まれるエネルギー含量を表す単位のことで、家畜によって消化吸収される栄養分の合計量を指す。
ところが、「初めて耳にした草種名でした」と中川牧場オーナーの中川大嗣さんが話すように、ペレニアルライグラスは本州以南であまり栽培されていないのが現状です。その理由は夏の高温による「夏枯れ」が原因とされています。冷涼な気候を好むペレニアルライグラスは夏の気温が30℃を超える地域では暑さに負け、十分な収量を採ることができません。そこで開発されたのがペレニアルライグラスの越夏性を改良した新品種「夏ごしペレ」です。
和牛繁殖農家の粗飼料自給を大きく変えた新品種「夏ごしペレ」
ペレニアルライグラスの越夏性を改良した「夏ごしペレ」は、平均気温9〜12℃程度の寒冷地が適地です。2016年以降、農研機構が中心となり山形県の中川牧場をはじめ宮城、栃木、山梨などで実証実験を開始。2018年5月には品種登録出願されました。実証地のひとつ、中川牧場では2020年9月に50aの採草地に夏ごしペレと既存草種を混播。結果は一目瞭然。利用1年目で夏ごしペレが優先していることがわかります(写真1参照)。追播も可能なため、例年悩まされていた雑草との競合も大幅に減少しました。
「利用2年目の2021年には、50aの採草地3番草で直径120cmラップ10本を収穫することができました。夏の暑さだけでなく冬の寒さにも強い 『夏ごしペレ』を利用することで、牧草の安定収量への期待が高まります」と、中川さん。
他の実証牧場でも既存品種より収量性に優れること、オーチャードグラスなどと比較して牛の食いつき(嗜好性)が良いことなどが実証されています。
さらに、中川牧場では夏ごしペレを放牧利用するため、2021年10月に放牧地に播種。今までの草地造成は耕運機で土を耕し、覆土や鎮圧を行っていましたが、夏ごしペレは土が露出している放牧地に播種をし、家畜に踏ませる「蹄耕法」で簡単に草地造成ができます。
「とにかく簡単。土の露出が目立ってきた場所には夏ごしペレを追播することで雑草を抑えることができるのも魅力です」(中川さん)。
「夏ごしペレ」が家畜にもたらす効果と経営安定、農地利用の可能性
「栄養価や牛の嗜好性が高く、さらに初期生育に優れた夏ごしペレの利用は、粗飼料でしっかり栄養を摂ることができるため、濃厚飼料の使用量減少が期待できます。栄養価が高い牧草を与えることで家畜を増体している欧米のように、わが国でも高栄養な牧草をもっと利用すれば濃厚飼料にかかるコストを抑えると共に、自給飼料で家畜を健康に大きく育てることができます。その結果、農家の増収にもつながるというわけです」と、話すのは農研機構 東北農業研究センター 緩傾斜畑作研究領域 生産力増強グループの藤森雅博さん。
また、夏ごしペレの利用が広がることで農地利用の促進も期待できると日本草地畜産種子協会・伊澤 健さんは話します。
「昨今、離農者増による耕作放棄地が増えており、水田を転作で有効活用しようという命題が浮かび上がっています。ペレニアルライグラスの定着の早さと耐湿性は、雑草抑制による植生改善、土壌水分の高い水田の転作利用の両方に適しています。濃厚飼料や乾牧草の多くを輸入に頼るわが国において、土地資源を有効活用することは国土の保全にもつながります。夏ごしペレは足元の土地を活かせる牧草なのです」。
●栄養価・嗜好性に優れ、家畜の増体や乳量の向上が期待される
●初期生育に優れ、追播による草地管理が可能
●耐湿性に優れ、転作田でも利用できる
本州以南の寒冷地における自給飼料の高品質化に大きな期待が寄せられる「夏ごしペレ」。その利用拡大は日本の畜産・酪農の発展へとつながっていくことでしょう。なお、種子の販売は2022年を予定しています。
『夏ごしペレ』についての問い合わせ
一般社団法人日本草地畜産種子協会 種子部
東京都千代田区神田紺屋町8 NCO神田紺屋町ビル4F
Tel:03-3251-6501
Fax:03-3251-6507
※記事中に使用している図版の出典元は、夏ごしペレ栽培マニュアル(農研機構)となります。