見捨てられた土地に新たな価値を吹き込む
株式会社ケンソーは千葉県木更津市周辺を拠点とした、従業員数約50人の建設会社。主に、ビルなどの建設工事や周辺地域の不動産売買を請け負っている。
同社が農業生産を主とするアグリ事業部を立ち上げたのは2020年春のこと。当然、従業員の中に農業経験者はおらず、事業部の新設に際して新たにスタッフを雇用した。
もともと不動産売買をなりわいにしていたこともあり、農地として利用されていた土地はいくつか所有していた。当初はこれらの農地を活用した慣行栽培を考えていたという。しかし、いずれも水はけなどの条件が極めて悪く、ぬかるみなどがネックで農地として再生させるのは困難だった。「条件の悪さから、以前所有していた農家さんが手放した背景もあり、農業委員会の担当者も『こんなところでできっこない』とこぼすほどでした」。アグリ事業部の責任者である松本洋俊(まつもと・ひろとし)さんは、当時をこう回顧する。
未利用資源から新たな価値を生み出すことをポリシーに、まずは事業部として、科学的根拠に基づいた収益性の高いビジネスモデルを確立することが先決──。そう考えた同社が目をつけたのが、農業収益と発電収入を同時に得られる営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)だった。
「土地条件が悪い中でも何か作ることはできないか、地域に価値を還元できる事業にするにはどうしたらいいかと考えていた時、県内の新規就農者が同じように水はけの悪い条件下でブルーベリー栽培を始めたというニュースを目にし、そこからヒントを得ました。ブルーベリーであれば、太陽光パネル下の日陰になる場所でも育てることができる。本人に話を聞いたり、実験結果を参考にするなどして根拠を調べるうち、十分に高収益化の可能性があることがわかってきました」(松本さん)
ブルーベリー栽培、太陽光発電それぞれで年間約800万円の売り上げ見込み
営農型太陽光発電を始めるにあたり、まずは農地の一時転用許可の申請に動いた。この際、「周辺の農地の平均水準と比べ8割以上」の単収要件をクリアする計画を提示する必要がある。農学博士でもある松本さんを中心に、発電量を得ながらも、水はけが悪く、かつ日陰でも十分な収穫量を得られるよう、栽培方法や日照量のバランスなどを探った。
試行錯誤の末、君津市の圃場では768枚のパネルを等間隔で配置し、ブルーベリーの栽培に必要な日照率を確保した。ネックとされてきた水はけの悪さは、地下かんがいを導入して対策。農地転用の許可を取得すると、太陽光発電設備設置工事を昨年11月から開始し、パネル下の約50アールの圃場に地域の未利用資源である針葉樹皮チップの畝を立て、ハイブッシュ系とラビットアイ系など約20品種のブルーベリー苗の定植を開始した。