非農家から転職、若い仲間と“儲かる農業”に奮闘!
富山県立山町で生まれ育った藤城琢男さん(36)は、2013年、27歳のときに農事組合法人たてやま営農組合に雇用就農しました。
前職は、携帯電話の販売会社で主に接客を行っていました。接客は好きでしたが、管理職を任されるようになってから仕事が合っていないと感じ退職。JAでのアルバイトを経て、たてやま営農組合でアルバイトを開始しました。半年後に正規雇用の声がかかり、その後、9年に渡って働き続けています。
「仕事を辞めてお金がなかったとき、たまたま紹介されたのがJAのアルバイトで。だから最初は、農業に特別関心があったわけではないです」と率直に振り返る藤城さん。
たてやま営農組合は、水稲を中心に、大豆、モモやリンゴの果樹、イチゴなどを栽培し、米の直販や直売所の整備など、販売も強化する集落営農法人です。
藤城さんは先輩に教わりながら初めての農作業に取り組む一方で、直売も経験。少しずつ農業の面白さを実感したといいます。
「自分が1から関わった作物をおすすめする仕事は、前職では味わえなかった面白さがあり、そこに農業の魅力を感じました」。
とはいえ前職より収入が減り、このまま続けていくかどうか、将来への不安もあったそうです。
そんな気持ちを払拭したのが、同組合がイチゴ栽培を開始したことでした。2016年に2棟のハウスを建て、作付面積15aで栽培を始めた「かおり野」は、直売所開店1時間で完売するほどの人気ぶり。観光農園として、イチゴ狩りを計画するものの生産が追い付かず、翌々年に作付面積を倍に拡大しました。
施設イチゴは、一緒に働く代表の息子さんが「子どもたちに喜んでもらうために」と発案したものだったそう。同組合の甘味の強いこだわりのイチゴは、口コミで人気が広がり、収益の柱となっていきました。
「イチゴを始めてから春先はぐんと忙しくなりましたが、その分金銭的にも余裕ができ、これならやっていけると思いました」とこの道を進む気持ちを固めた藤城さん。
たてやま営農組合は、集落営農が抱える高齢化、高い兼業化率という問題を解決するために、積極的に若い人材を雇用してきました。従業員に安心して働いてもらうには、給与を支払うための売上や周年作業が必要で、その施策として、果樹やイチゴの導入、直売、観光農園などに取り組み、発展してきた法人です。
現在の常勤雇用は6名。30代、40代が主力で、藤城さんはその一人。
「思っていたより若い人が多く、年の近い先輩たちが丁寧になんでも教えてくれた環境のよさも、ここでやっていこうと決めた理由の一つです。次年度から世代交代し、新代表の傍らで私も組合の運営に関わっていきます。これからは自ら経営についても勉強し、就農を志す若い人を応援していきたいです」。
技術・家・お金・農地・機械、新規就農者の5つの不安をチームで解決!
立山町・上市町・滑川市・舟橋村を管轄に含む県富山農林振興センター(以下:振興センター)では、この4市町村の担い手育成総合支援協議会(以下:協議会)の一員として、就農相談を受けています。
協議会の役割は、地域で就農を考える人の身近な存在として、一緒に方向性を考え、目標を実現していく伴走役。近年では相談件数が増え、このうち上市町では2021年で年間約10件の就農相談があり、多くが非農家によるものだといいます(上市町協議会・村上さん)。
「新規就農希望者に必要なものは、技術・住まい・資金・農地・機械の5つです。協議会が相談窓口となって、その5つをカバーするため適任の担当者を割り当て、チームを組んでその不安を解決していきます」と話すのは振興センターの中村一要さん。
協議会は、市町村・振興センター・JA・農業委員会や農業者団体など関連組織の職員で構成し、例えば、お金の相談ならJAや振興センター、補助制度なら市町村と振興センター、農地探しなら農業委員会、技術なら振興センターやJAと、課題に詳しいメンバーを主担当とします。それを集約して、理想の就農の形を見出していきます。
その中で大切なのは「就農後、食べていけるかどうか。そこを詰めながら、実現に導いていきます」と中村さん。
就農まで入念に準備し、相談から2年を要することもあります。就農後も支援は続き、経営セミナーや勉強会の開催、先進地視察、複合化や6次産業化など経営発展に向けた情報提供、親子間の継承支援など、さまざまな活動を展開。とりわけ、経験の浅い若手農業者の支援に力を入れています。「相談者の意見を頭ごなしにだめということはないし、軌道に乗ったからといって見放すこともないです。縁はずっと続いていきます」(立山町協議会・間野さん)。
また、協議会では、2020年から「就農マッチングバスツアー」を開催しており、就農希望者の雇用就農と、求人を出す農業法人の人材確保を支援しています。独立・自営就農を目指す方の参加もあり、理想の形を確認する場となっています。
今回、初めて若手農業者向けのセミナーを企画したのは、交流の場づくりが大きな目的。セミナーには15名が参加し、農業者に加え、就農希望者も出席し、活発に意見交換しました。
終了後も、会場に残って連絡先を交換したり、農業の相談をしたりする姿が見受けられました。
参加した藤城さんも、「知らなかった若手農業者と知り合うことができた貴重な機会となりました。今後交流を深めて、地域の農業を盛り上げていきたいです」と期待を膨らませていました。
「憧れ」や「生活のために」など、多様な想いを力強くバックアップ!
全国で問題になっている農業者の高齢化。富山県も例外ではなく、地域を担う農業人材として、新規就農希望者を募集しています。
振興センターの中村さんは、「自然資源に恵まれたこの地域の農業を守ることが私たちの目的です」と力を込めます。
「県や地域に魅力があり、儲かるところに人は集まります。藤城さんのように若い方が活躍できれば、また新たな若い人がやってきます。他業種から農業に興味を持つ方が現れるかもしれません。そうなれるよう、関係者が一体となって就農希望者を支援し、魅力あふれる農業を目指します」と今後の思いを話します。
聞けば、「山麓の田舎暮らしに憧れている」「コロナ禍で家業が影響を受け、長く働ける場所を求めている」など、寄せられる相談はさまざま。協議会では、メンバーが連携して、その想いに応える選択肢を示し、新規就農希望者を力強くサポートしています。最近では、空き家付き農地の取得要件を下げるなど農業を始めやすい環境づくりにも力を入れているそうです(上市町協議会・村上さん)。
また協議会では、地域の紹介、栽培作物とその収益性、求める人物像などをまとめた産地提案書を作成し、「とやま就農ナビ」のWEBサイトで公開しています。地域に沿ったより具体的な情報として役立ちます。
最後に、藤城さんが就農当時の心持ちを振り返り、新規就農者にエールを送ってくれました。
「最初は軽い気持ちでしたが、取り組むうちに前年の自分を超えたいという気概が生まれ、今日まで続いています。1年に1回しか経験できない作業もあり、農業はステップアップに時間がかかります。だからもし就農に迷っているなら、早目に始めることをおすすめしますよ。農業だからと、特別視する必要はありません。やってみないとわからないので、まずはやってみましょう」。
美しい山の景色に憧れて、住みやすさを求めて、生活のためなど、きっかけは問いません。
富山県立山町・上市町・滑川市・舟橋村では、新規就農希望者が安心して踏み出せる環境が整い、思い思いの就農を導いてくれます。
興味のある方は、気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ
立山町地域担い手育成総合支援協議会
TEL:076(462)9973(事務局:立山町農林課内)
上市町担い手育成総合支援協議会
TEL:076(472)1111(事務局:上市町産業課内)
滑川市担い手育成総合支援協議会
TEL:076(475)2111(事務局:滑川市農林課内)
舟橋村担い手育成総合支援協議会
TEL:076(464)1121(事務局:舟橋村生活環境課内)
『とやま就農ナビ』